ベイビー・ドライバー

英国のエドガー・ライト監督がハリウッドに本格進出
音楽×映画の妙で魅せるクライム・スリラーのみならず、
充実のキャストによる人間ドラマにして、ラブ・ストーリー

  • 2017/07/18
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ベイビー・ドライバー

「僕が一番情熱を燃やしている二つのもの“音楽とアクション”が1本の映画になった。音楽を原動力とするアクション映画を昔からずっと作りたいと思っていたんだ」
 『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホットファズ-俺たちスーパーポリスメン!』『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う』などで知られるイギリス人監督エドガー・ライトがこのように語り、本格的なハリウッド長編映画デビューを果たした作品。出演は、『きっと、星のせいじゃない。』のアンセル・エルゴート、英国のドラマシリーズ『ダウントン・アビー』や実写版『シンデレラ』のリリー・ジェームズ、『アメリカン・ビューティー』のオスカー俳優ケヴィン・スペイシー、『RAY /レイ』のオスカー俳優ジェイミー・フォックス、TVシリーズ『MAD MEN マッド・メン』のジョン・ハム、メキシコでシンガーや女優として活躍するエイザ・ゴンザレス、そしてアメリカのシンガーソングライターであるスカイ・フェレイラ、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンのジョン・スペンサー、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーら人気ミュージシャンたちも登場する。天才的な運転技術でギャングの逃がし屋をしている青年“ベイビー”は、ウェイトレスのデボラと出会い、犯罪から足を洗おうとするが……。サウンドとリズムでカーアクションそのものを振り付けしたかのような斬新なカーチェイス、犯罪に関わることの顛末、恋人や家族との関係といったドラマを名曲とともに歯切れよく描く。2017年3月にテキサス州オースティンで行われたサウス・バイ・サウス・ウエスト映画祭にて観客賞を受賞し、アメリカでは批評家からの評価も高く、“カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』”とも。カーアクションが冴えるキレのいいクライム・スリラーであり、青年と周囲の人々との変化してゆく関係を描く人間ドラマであり、そして青年と女の子とのまっすぐな恋を描くラブ・ストーリーである。

ジェミー・フォックス,ケヴィン・スペイシー,ほか

道に停車した車の運転席に座り、iPodで音楽を聴いている青年。彼は銀行強盗犯3人を乗せると素早く発進し、多数のパトカーによる激しい追跡をあざやかに振り切り、アジトへと送り届けた。天才ドライバーの青年、通称“ベイビー”はその運転技術を見込まれ、犯罪者を束ねる男ドクに“逃がし屋”として雇われている。普段は音楽好きの内向的な青年で、子どものころに両親を亡くした時の事故の後遺症で強い耳鳴りに悩まされているが、完璧なプレイリストのiPodで曲を聴いていれば耳鳴りは消え、高い集中力を発揮するパーフェクトなドライバーとなるのだ。ある日、ダイナーのウェイトレス、デボラと出会い恋をしたベイビーは、犯罪から足を洗うことを決意するが……。

魅力的な楽曲の数々とマッチするカーアクション、人間ドラマ、ラブロマンスと、軽妙にしてよく練られている作品。エドガー・ライト作品にしてはコメディ要素が控えめながら、劇中ではいいことを言う人がずっと善人というわけではないし、悪事を重ねてきた犯罪者であっても100%悪人じゃないこともある、といった善悪一色ではない人間のおもしろさを描くところはいかにもエドガー・ライトらしく、かわいらしい青年と女の子のラブロマンスとしても初々しい。個人的ながら筆者はもともとエドガー・ライトのファンで、こうして規模が大きくなっても彼自身の軸やテーマはブレることなく、増えた予算を作品の魅力として生かしていることが素敵だなと。
 エドガー・ライトの脚本・監督によるオリジナルである本作の始まりは、ザ・ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの曲「Bellbottoms」とのこと。彼が21歳の時(1995年ごろ)によく聴いていたそうで、劇中で最初にベイビーが聴いているのもこの曲だ。監督は語る。「映画にすることを思いついたのはそれよりずっと後のことだけど、カーチェイスにぴったりの曲だなとずっと思っていたんだ。それが映画化に向けたアイデアの種みたいなものだった。そして2002年に、音楽を聴きながら逃走車を運転する男のミュージックビデオ(ミント・ロワイヤルの「ブルー・ソング」)を作った。それが年月を経て、音楽が推進力となるカーチェイス・アクション映画というアイデアに育っていったんだ」

リリー・ジェームズ,アンセル・エルゴート

ギャングに雇われている天才ドライバー“ベイビー”であり、内向的でやさしい音楽好きの青年マイルズ役は、アンセルがさまざまな表情や心情をいきいきと表現。俳優のみならず音楽活動もしている彼の感性がよく生きている。ダイナーのウェイトレスでベイビーと惹かれ合うデボラ役は、アメリカ人役は初となるリリーが愛らしく。犯罪者たちを束ねるドク役はケヴィン・スペイシーがさすがの存在感で、ギャングのメンバーとしては、凶暴な犯罪者バッツ役はジェイミーが冷酷に、もと株の仲買人のバディ役と恋人ダーリン役はジョン・ハムとエイザ・ゴンザレスが、グリフ役はジョン・バーンサルが、エディ役はレッチリのフリーが、JD役はラニー・ジューンが、ベイビーの里親で耳の不自由なジョー役はC.J.ジョーンズが、ベイビーの亡くなった母役はスカイ・フェレイラが、看守役はジョン・スペンサーが、それぞれに演じている。
 アンセルとリリー、実力派の若手2人をメインに、ケヴィンとジェイミーという大物俳優が脇を固める贅沢なキャスティングの本作。ケヴィンとジェイミーの出演について、エドガー・ライトは「撮影初日に夢を見ているような気分になった」と語り、ケヴィンは6月22日(現地時間)に英国ロンドン行われたプレミア上映にて、「エドガーは素晴らしい監督だ。彼との仕事を本当に楽しんだよ。彼の音楽、考え方、全てが刺激だった」とコメントした。またアンセルは「彼ら(ケヴィンとジェイミー)から学んだことがたくさんあるんだ。今回の撮影は最高だったよ」とコメントし、リリーはベテランの演技派俳優たちとの共演について「ちょっと気後れする気持ちもあったけれど、心強くもあったわ。あれほど素晴らしいスターたちと一緒に演じられるなんて最高だもの」と語っている。そしてエドガー作品の大ファンというジョン・ハムのコメントを紹介する。「エドガーの作品は印象的な感性を感じさせるものばかりだ。彼の表現はとても映画的で、あれほど映像的な考え方をする人はほとんどいない。あの若さですごいよ。彼の能力に嫉妬すると同時に魅了された。役者として彼の作品に参加できて最高だった」

アンセル・エルゴート,ジェイミー・フォックス,エイザ・ゴンザレス,ジョン・ハム

スバルの車でカーチェイスをする冒頭のシーンをはじめ、カーアクションは本作の見どころのひとつ。フリーウェイを時速160キロで走るシーンなど大半ををロケ撮影で行い、交通の調整がしやすい夜ではなくほとんど昼の撮影をしていることも特徴だ。また作品全体の振付はシーアの「シャンデリア」など多くのアーティストの振付を手がけるコレオグラファー、ライアン・ハフィントンが担当。車のワイパーの動きやシートベルトを締める音や銃声など、さまざまな動きや音がすべて、エドガー・ライトが自ら選んだ30曲のリズムやビートに合っているのがユニークだ。コモドアーズの「Easy」などたくさんの曲が印象的に使われているなかでも、特に強烈なインパクトで個人的に思わずうなってしまったのが、バリー・ホワイトの「Never, Never Gone Give Ya Up」だ。もともと曲にある暑苦しいほどの濃厚な味わいが、これでもかというほどシーンにマッチしていてゾクゾクするほどたまらなく格好いい。ジョン・ハムはこの映画の音楽について語る。「クエンティン・タランティーノの『レザボア・ドッグス』のサウンドトラックに、みんなが驚いていたのを思い出すよ。聴いたことのある古い曲でも、使われかたが新しい。すごくクールなんだ」
 そしてエドガー・ライトは映画と音楽について、「僕は昔からアクションと音楽を融合させるのが好きだったし、サウンドトラックを巧みに使っている映画が好きなんだ。スコセッシやタランティーノのような監督の作品がね」と語り、本作についてこのようにコメントしている。「ミュージカルではないんだ。僕としては、音楽が突き動かすカーチェイス映画、と呼びたいな」

派手なカーアクションのクライム・スリラーでありつつ、若い2人のまっすぐなラブ・ストーリーでもあり。さらには悪事とつぐない、日々の誠実さは報われるということまでさらりと描き、観る側に伝えるともなく伝わるものがある面も粋な本作。続編について、スタジオからエドガーに打診がきているというニュースも。最後に、この映画について語った俳優たちとエドガー・ライトのコメントを紹介する。
 リリー・ジェームズ「彼のような監督は滅多にいないわ。難なくやっているように見せているけれど、彼の作品にはいつもとてもたくさんの要素が含まれているの。この映画は伝統的な強盗もののなかにエドガーらしさが貫かれている、画期的な作品だと思うわ」
 ジョン・ハム「ものすごく野心的な作品だけれど、見事に成功しているんだ。完成したのを観て、心底驚いた。本当に楽しい映画だよ」
 エドガー・ライト「この映画は、アクションや犯罪映画でおなじみの要素に、新しいひねりを加えたんだ。作品全体を音楽で動かしてゆく、というのは僕のほかの作品でもやってきたことだけど、今回はそれを限界までつきつめている。目と耳を楽しませる、純粋な映画にしたかったからね。僕は音楽がアクションをつき動かすというのが大好きで、全編を通してそれをやっているのがこの映画なんだ」

作品データ

劇場公開 2017年8月19日より新宿バルト9ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 アメリカ映画
上映時間 1:53
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題 Baby Driver
監督・脚本・製作総指揮 エドガー・ライト
出演 アンセル・エルゴート
リリー・ジェームズ
ケヴィン・スペイシー
ジェイミー・フォックス
ジョン・ハム
エイザ・ゴンザレス
ジョン・バーンサル
CJ・ジョーンズ
フリー
スカイ・フェレイラ
ラニー・ジューン
ジョン・スペンサー
ウォールター・ヒル
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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