スリー・ビルボード

3枚の広告看板に、事件で娘を亡くした母が思いを掲示
真相が不明のまま、新たな事件が次々と起きてゆく
重厚なクライム・サスペンスにして胸に響く人間ドラマ

  • 2018/01/23
  • イベント
  • シネマ
スリー・ビルボード© 2017 Twentieth Century Fox

諦めないこと、赦すこと。人間の情や業をありありと描き、ブラック・ユーモアにホッと息をつき、思いがけない展開に力強く引き込んでゆく。重厚なテーマで本質を突く、クライム・サスペンスにして濃厚な人間ドラマ。出演は、『ファーゴ』のオスカー女優フランシス・マクドーマンド、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』のウディ・ハレルソン、『コンフェッション』のサム・ロックウェル、『ウィンターズ・ボーン』のジョン・ホークス、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の若手俳優ルーカス・ヘッジズほか。監督・脚本は、イギリスの演劇界で活躍し、映画監督デビューとなった2004年の短編映画『Six Shooter』で第78回アカデミー賞最優秀短編映画賞を受賞、本作が長編第4作目となるマーティン・マクドナーが手がける。さびれた道路に並ぶ3枚の広告看板に、事件で娘を亡くした母親が強烈なメッセージを打ち出すが……。アメリカの架空の田舎町を舞台に、それぞれの思いを信じて突き進む人々の姿を描く、非常に見ごたえのあるドラマである。

ウディ・ハレルソン,フランシス・マクドーマンド

アメリカのミズーリ州。さびれた田舎町エビングの道路に並ぶ3 枚の大きな広告看板に、7カ月前に何者かに娘を殺された母親ミルドレッドが広告をだす。それは進展のない捜査状況に対して、地元警察のウィロビー署長を批判する内容だった。ミルドレッドは署長を慕う暴力的な巡査ディクソンからの執拗な嫌がらせをはじめ、署長を敬愛する大勢の町の人々からさまざまに抗議をされ孤立する。しかしまったくひるむことなく、ミルドレッドはさらなる事件の捜査と犯人の逮捕を求め続ける。そんななか、町で事件が次々と起きてゆく。

架空の田舎町を舞台に、ある凶悪事件の捜査と関係者たちの顛末を描く本作。対立しぶつかり合い、変化してゆく人やつながり、明かされてゆく心情や状況の描写、ゾッとするような感情の暴発、肩の力が抜けるような皮肉なユーモア、と緩急のつけ方も味わい深い。人は悲しく、つらく、醜く、残酷で、それでも捨てたもんじゃなく、良い方へ変わってゆくこともあれば、涙したり笑えたりすることもある。登場人物たちが決然と自分の意思を貫こうとするところは、ある種の突き抜けたすがすがしさを感じる。マクドナー監督はこのストーリーと、人生のとらえ方について語る。「出発点はとても悲しいが、コミカルなところが多く、ところどころで感動的になればいいと思っていた。これが人生に対する私の見方だ。悲しみに直面してはいるが、ユーモアをもって絶望と向き合い、葛藤している」

サム・ロックウェル

娘を亡くした母親ミルドレッド役は、フランシス・マクドーマンドが一念を貫くタフな女性として、彼女の1人息子ロビー役はルーカス・ヘッジズが繊細に、離婚した元夫のチャーリー役はジョン・ホークスが一般的な男性として、家では良き夫であり2人の幼い娘の父であるウィロビー警察署長役は、ウディ・ハレルソンが人間味のある人物として、ウィロビー署長を慕うディクソン巡査役はサム・ロックウェルが目的のためには手段を選ばない、そしてそれだけではない青年として、ミルドレッドが広告を依頼するエビング広告社のレッド役はケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、意外と気骨のある青年として、それぞれに演じている。
 ウディ・ハレルソンは監督の執筆する脚本の魅力について語る。「マーティンの脚本のすごいところは、人物の内面まで見せることだ。こういう人だと思っていると、さらに奥があることに気づき、その人のことが気になり始める。最初にこうだと思った以外の面が見えてくるんだ」
 マクドナー監督は俳優とのコミュニケーション、監督としての仕事について語る。「私はその役者が好きで起用していますので、役者を大道具のように扱うことはありえません。最高の役者に出てもらっていますから、いつも意見を出し合います。自分の考えを脚本に込めることで役者に知ってもらい、あとは彼らの考えにまかせます。良い役者の邪魔にならないようにする、良い脚本を書く――それが監督の仕事の要点だと思います」

2回ある火事のシーンでは、CGではなく本物の炎を使用。ディクソン巡査がドカドカと階段をのぼりことを起こして警察署に戻るまでのあの長いシーンは、ワンカットで撮影しているのだ。張り詰めた緊張感、何が起こるかわからない得体の知れない恐怖がビリビリと伝わってくる。撮影監督のベン・デイビスはワンカットの撮影の特性について語る。「大きなワンショットのシークエンスの撮影は技術的にはワクワクするが、物語を伝える上で理由がある時か、物事をドラマティックに見せる時にのみやるべきものだ。今回は両方があるケースだと思う。カットが入らないから非常に臨場感があって、観客はディクソンと一緒にずっと旅をしているような気持ちになる。残忍性があるからいっそう、信ぴょう性が増す。フィクションを見ていることを思い出させるようなカットがないからだ」

サム・ロックウェル,フランシス・マクドーマンド

匿名による広告費、ある重要な手紙、事件調書を持ち出す、ジュースを渡す、あるものを手に入れ、報告を聞いて感謝を伝え、告白された事実に、さらりと答える。あらゆるシーンで、さまざまな思いをにじませながら登場人物たちがとっさにとる行動や、ふとした会話にハッとさせられる本作。誰が一体どうして、ということがじわじわと明かされてゆく展開からも目が離せない。人はじっくりと考え抜いて判断することもあれば、突然の状況や気持ちの昂ぶりに際し一瞬で思いがけない行動をとることもある。その感覚がとてもリアルに生々しく、時には気色悪く、時には感動的にくっきりと映し出されているのだ。
 アカデミー賞どうこうはこの映画にはちょっと無粋かなとも思いつつ、受賞は間違いないだろう本作。その前哨戦のひとつ、2018年1月7日(現地時間)にアメリカのロサンゼルスで行われた第75回ゴールデン・グローブ賞授賞式にて、ドラマ部門の作品賞をはじめ最多4冠を獲得、2018年1月21日(現地時間)に行われた第24回全米映画俳優組合賞(SAG)の授賞式にて作品賞に相当するキャスト賞とフランシス・マクドーマンドが主演女優賞を、さらに2017年の第74回ヴェネツィア国際映画祭にて脚本賞、第42回トロント国際映画祭にて観客賞を受賞したことも話題となっている。製作のグレアム・ブロードベントはこの映画が格別な力強さと深みをもっていることについて、マクドナー監督を称える。「映画を作ってみると、マーティン(監督)は人間の美しさと寂しさ、そして愛を守ることにとても注意を払っていた。そのおかげで本作は別のレベルに達したんだ」
 この物語は多面的で、ある一面だけをとらえれば暗く重いクライム・サスペンス、と思われる向きもあるかもしれない。しかし、マクドナー監督は本作のテーマについてこのように語っている。「本作には希望がある。フランシスが演じるミルドレッドには、彼女が暗い闇から来ているにもかかわらず感動するだろう。観客が楽しみ、時には腹を立ててくれればいい。何よりも、意味深長で、どこか予想のつかないタイプのストーリーを見たと思ってくれるといいと思っている」

作品データ

スリー・ビルボード
劇場公開 2018年2月1日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 イギリス・アメリカ映画
上映時間 1:56
配給 FOX サーチライト・ピクチャーズ
原題 Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
監督・脚本・製作 マーティン・マクドナー
出演 フランシス・マクドーマンド
ウディ・ハレルソン
サム・ロックウェル
アビー・コーニッシュ
ジョン・ホークス
ピーター・ディンクレイジ
ルーカス・ヘッジズ
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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