1960年代の米ソ冷戦時代、不安定な情勢のなか、
声の出ない女性が不思議な生きものと出会う
ギレルモ・デル・トロ監督が贈る、不思議な愛の物語
2018年3月4日(現地時間)に米国ハリウッドで行われた第90回アカデミー賞にて、作品賞・監督賞・作曲賞・美術賞を受賞した話題作。出演は『ブルージャスミン』のサリー・ホーキンス、『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』のオスカー女優オクタヴィア・スペンサー、『扉をたたく人』のリチャード・ジェンキンス、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』のマイケル・シャノン、『ヘルボーイ』のダグ・ジョーンズほか。監督・脚本・製作・原案は『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロが手がける。アメリカ政府の研究所で清掃員として働くイライザは、極秘で運び込まれた不思議な生きものに惹かれてゆき……。1960年代のアメリカを舞台に、幻想的なキャラクターや映像、ノスタルジックな建物やインテリアとともに、街で単調に暮らす人たちに起きた、思いがけないドラマを描く。不思議な生きものが登場するファンタジーであり、権力への反乱を描くサスペンスであり、種族を超えたラブ・ストーリーである。
1962年、アメリカとソ連の冷戦時代。1階が映画館のアパートに1人で暮らすイライザは、アメリカ政府の機密機関“航空宇宙研究センター”で清掃員として働いている。彼女は幼い頃のトラウマから声が出せないものの、職場と家を往復するだけの毎日で不便は感じていない。ある日、研究所にものものしい警備で不思議な生きものが運び込まれる。その後、掃除の合間にその生きものを盗み見たイライザは、奇妙でもどこか神々しい“彼”の姿に惹かれ、交流を試みるように。食べ物や音楽、アイコンタクトや手話により、イライザと彼はどんどん心を通わせてゆく。そんな折、彼が国家の威信をかけた実験の犠牲になるとわかり……。
ひとりの女性に訪れた運命的なロマンスとして、種族を超えた愛を描く物語。その背景には米ソ間の熾烈な競争、研究者の探究心、独裁的な軍人の野心、そして人々の孤独やあたたかい友情といったことが絡み合い、ストーリーが展開してゆく。2018年1月30日に行われた来日記者会見にて、この映画を制作したことについてデル・トロ監督はこのように語った。「この作品は美しいおとぎ話で、今の困難な時代にこそふさわしいものになっています。この映画では、感情と愛について描きました。こうした作品が希少となっているので、この映画で感じていただきたいと思っています」
不思議な生きものに恋をするイライザ役は、サリーが単調な日々が徐々に喜びに満ちてゆくさまを、セリフはなくとも豊かな表現力で繊細に。明るく世話焼きの同僚ゼルダ役はオクタヴィアがあたたかく、1950〜’60年代のミュージカル映画と猫を愛する画家のジャイルズ役は、リチャード・ジェンキンスが心優しい隣人として、権力至上主義のエリート軍人ストリックランド役は、マイケル・シャノンが冷酷に、水棲の不思議な生きものである“彼”は、デル・トロとは6作目のコラボとなるダグ・ジョーンズが、プリミティブで神秘的な存在として演じている。
デル・トロ監督はすべての役を、今回演じている役者にあて書きをして脚本を執筆。ヒロインについては、「主人公の女性には、まるで化粧品のコマーシャルから飛び出してきたような、若くて綺麗なムービー・スターをキャスティングしたくなかった。平凡でも輝きをもっている、30代後半の女性を描きたかったんです」と前述の会見にてコメント。すべての俳優を称えるなか、独裁的で残忍なストリックランドのキャラクターについて、デル・トロは語る。「単なる悪いヤツにはしたくなかったし、同情さえ感じるほどの男にしたかった。なぜなら、彼自身が体制や時代の犠牲者であり、とても悲しい役だから。普通の悪役にはないような信念の喪失、反省、絶望を見せたいと思いました。はじめは祖国を信じ、正しいことをしていると思っているが、そのうちにとても簡単に人から嫌われ捨てられることに気づく。ここは私の自伝的な部分です。映画ビジネスが、まさにそうだからね」
ストリックランドを演じたマイケル・シャノンは、このストーリーの魅力について語る。「この映画に惹かれたのは、お互いに対してもっと優しくなるように人々に刺激を与えると思ったからだ。そういう気持ちは、今ひどく不足している。これはどんな犠牲を払っても、愛情をもつことの価値を描いたストーリーだ」
劇中のノスタルジックなインテリアや舞台セットも見どころのひとつ。イライザとジャイルズが暮らすアパートの外観は、カナダの国立史跡に指定されているトロントのマッセイホールを利用。1894年に建築家のシドニー・バドグレイがネオクラシックの伝統にもとづき設計し、1940年代には大規模に刷新され、現在はパフォーミング・アーツ・シアターとなっている建物という。色彩はデル・トロが「緻密に計算した」そうで、青を基調として常に水の中にいるかのような感覚のイライザの部屋の壁は、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」から影響を受けたとも。
またオスカー受賞経験があり、本作でもアカデミー賞にて作曲賞を受賞したアレクサンドル・デスプラは本作の音楽について、ニーノ・ロータやジョルジュ・ドルリューのアプローチを取り入れたとコメントしている。またデル・トロは本作のミュージカル・シーンにて、映画『雨に唄えば』などでジーン・ケリーと共同で監督をつとめたスタンリー・ドーネンの“活気に満ちた優美で滑らかなスタイル”を参考に、「古典のモノクロ・ミュージカルの美学に、大がかりなクレーンを組み合わせようと思った」とも。会見でデル・トロは本作の特徴について、「ハリウッドの黄金時代のようなクラシカルで、でもちょっとクレイジーな映画だと感じてもらえたら」とコメントしている。
そして水が画面いっぱいにゆったりと広がる冒頭とクロージングのシーンは、古い演劇手法である「Dry For Wet(類似水中撮影技術)」を用いて水を一切使わずに撮影。部屋全体を煙で満たしてビデオプロジェクターで水の流れを透写し、俳優やセットをワイヤーで吊り、すべてが水のなかにあるような動きをするなか、スローモーションで撮影することで、独特の浮遊感を実現。ただし劇中のなかばのバスルームのシーンでは、本当に水を使用して撮影したそうだ。
「1962年はテレビがどんどん出てきて、映画が少し衰退しました。そして今の映画業界が衰退している時代に、私は愛をこめて、映画に対する愛を描いたんです」
前述の来日記者会見にて、本作に込めた思いを語ったデル・トロ。そして1960年代のアメリカを舞台にしたこと、愛を描くこの映画をなぜ今届けたいと思ったのかについて、真摯に語った。
「今の時代は愛や感情を感じられにくい困難な時代です。だから映画を現代の設定にすると、(そうしたテーマの映画に)なかなか人は耳を傾けてくれません。現代の設定だと携帯電話とかいろいろなメディアがあり、やはりそれでは語れない部分もあります。それなら(昔の時代の)おとぎ話として語ればいいのではないかと思いました。“昔あるところ、1962年にとある声のない女性がいました。そしてこういう獣がいました”という語り口なら、(本作のような愛の映画でも)人は聞く耳をもってくれると思ったんです。現代は、『他者を信用するな! 恐れろ!』と言われていると思います。我々と違うアザー(Other)、他者や異種のものを恐れている今の時代に、このストーリーは必要だと私は感じています」
※2018年1月30日に行われた記者会見のコメントはすべて、WEBサイト「uDiscovermusic」の「デル・トロ監督来日記者会見の全文公開」より引用、参考にしています。
劇場公開 | 2018年3月1日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー |
---|---|
制作年/制作国 | 2017年 アメリカ映画 |
上映時間 | 2:04 |
配給 | 20世紀フォックス映画 |
原題 | THE SHAPE OF WATER |
監督・脚本・製作・原案 | ギレルモ・デル・トロ |
脚本 | ヴァネッサ・テイラー |
プロダクション・デザイン | ポール・デナム・オースタベリー |
音楽 | アレクサンドル・デスプラ |
出演 | サリー・ホーキンス マイケル・シャノン リチャード・ジェンキンス ダグ・ジョーンズ マイケル・スツールバーグ オクタヴィア・スペンサー |
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。