レッド・スパロー

ジェニファー・ローレンス主演×元CIA諜報員の原作
性を武器とするスパイに仕立てられたロシア人女性が
苦境を生き抜くさまを描くダークなスパイ・スリラー

  • 2018/04/04
  • イベント
  • シネマ
レッド・スパロー© 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

オスカー俳優のジェニファー・ローレンスとジェレミー・アイアンズをはじめ、『ラビング愛という名前のふたり』のジョエル・エドガートン、『さざなみ』のシャーロット・ランプリング、『リリーのすべて』のマティアス・スーナールツほか、充実のキャストによるスパイ・スリラー。もとCIAの諜報員で本作の原作『Red Sparrow』で作家デビューしたジェイソン・マシューズの小説を、『ハンガー・ゲーム2』のフランシス・ローレンスが映画化。ケガを負いバレリーナの道をあきらめたドミニカは、病気の母を養うためにロシア情報庁(SVR)の訓練を受け、性を武器に対象者を篭絡し操作する特殊な女性スパイとなる。ロシア情報庁の厳しい訓練、懲罰、拷問、陰謀、二重スパイをめぐるアメリカとロシアの諜報戦、そして許されない恋愛。母と自分の命がおびやかされ、困難な指令を下されたドミニカの選択とは。人格を踏みにじられるほどの苦境のなか、ひとりの女性がタフに生き抜く姿を描くドラマである。

ジェニファー・ローレンス

ボリショイ・バレエ団の一流ダンサーだったドミニカは大怪我で再起不能に。病気の母を養うため、ロシア情報庁(SVR)の幹部である叔父ワーニャのつながりでスパイになることを受け入れる。そしてSVRの訓練施設でハニートラップと心理操作を武器とするスパイ“スパロー”としての非道な訓練を経て、ロシア大使館のスタッフとして、ハンガリーの首都ブタペストへ。指令は、アメリカ人のCIA諜報員ネイト・ナッシュに接近し、ロシア政府内に潜むCIA の協力者“モグラ”の名を聞き出すこと。ドミニカはネイトと親しくなっていくが……。

ロシア情報庁の陰謀が渦巻くなか、セクシーな肉体を武器にした女性スパイの暗躍を描く――だけじゃない本作。観る前は、そもそも今まさにハリウッドで、SNSでの<#MeToo><#TimesUp>、黒のドレスと白バラの装いなどで長年のセクシャルハラスメントへの抗議を女性たちが訴え続けるなかでなぜ、こうしたテーマの作品が、と不信感や不快感もあったものの、実際に観てみると、それがメインのストーリーではないとわかり、個人的にホッとした。内容が内容だけに、劇中には、特に女性からすると「最悪すぎる」というシーンも多々あるが、どれほど過酷な状況に陥っても、人質をとられ後ろ盾もない身ひとつであっても、冷静な判断と知識と知恵と技術と行動力でサバイバルできる、という軸もあるにはあるので、観ていて耐えられないこともない。また物語のなかでドミニカは、組織の理不尽な支配や強大な権力に抗うヒロインとして描かれている。

ジェニファー・ローレンス

なかば騙されるような形でスパローとなるドミニカ役は、ジェニファーが気丈に表現。ロシアの情報源と密かに通じているCIAの捜査官ネイト役はジョエル・エドガートンが一本気な男性として、ロシア情報庁の幹部であるドミニカの叔父ワーニャ役はマティアス・スーナールツがやり手として、ワーニャの上司でロシア情報庁の有力幹部コルチノイ役はジェレミー・アイアンズが冷静に、スパロー訓練所の女性監督官役はシャーロット・ランプリングが厳格に、それぞれが演じている。
 ジェニファーはドミニカを演じたことについて、2018年2月26日(現地時間)にアメリカで行われたニューヨークプレミアにて、このようにコメントしている。「脚本を読んだとき、ダークで重厚なこの物語をユニークで、味わい深いものに仕上げることができる人は1人しかいないと思った。フランシスが監督でなければ、私はこの作品に出演できなかったわ。彼は長年の友人で、映画監督としても信用しているの」
 ローレンス監督は本作のストーリーについて語る。「理屈抜きで必要に迫られた人が、信じられないような状況に陥るという展開に惹かれた。このストーリーは、感情に訴えるんだ」

原作者のジェイソン・マシューズは、33年にわたりCIA作戦本部に勤務し、いくつもの海外赴任地で国家安全保障に関する情報収集活動に携わり、CIA退職後に本作の原作で作家デビューした異色の人物。在職時の専門は敵の監視が厳しい地域での工作活動で、旧ソ連(現ロシア)や東欧、東アジア、中東、カリブ諸国を標的にしたリクルート活動も指揮した。2013年に発表した小説『Red Sparrow』はベストセラーとなり、2014年のエドガー賞にてアメリカ人著者によるベスト・ファースト・ノベル賞を受賞。シリーズ第2弾『Palace of Treason』、これから出版予定の第3弾『The Kremlin’s Candidate』で3部作になるという。そしてこの映画では自らコンサルタントを担当した。
 恐ろしいことに、こうした養成所が実際にあったとマシューズは語る。「ソ連では、ターゲットの捜査官をゆするため、若い女性に人を罠にかける方法や、誘惑方法を教えていた。ヴォルガ川の岸辺、カザン市にスパロー・スクールがあった。そこでは若い女性に高級娼婦になる方法を教えていて、彼女たちは“スパロー”と呼ばれていたんだ」

ジェニファー・ローレンス,ジョエル・エドガートン

ところで、この映画で筆者は個人的に、今年3月に起きたロシア人のもと二重スパイ毒殺未遂事件を思い出した。2018年3月4日の夕方(現地時間)、イギリス南部ソールズベリーのショッピングセンターで、ロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリア氏が、旧ソ連で開発された軍事用の猛毒神経剤「ノビチョク」で襲われ、意識不明の状態で見つかった事件だ。ロシアは関与を否定しているものの、これまでにもロシアからの亡命者が不可解な死を遂げたことが何度もあり、今回の事件後、イギリス政府は「事件の実態解明を避けていることへの抗議」として在英のロシアの外交官たちを追放。その後、3月27日までに英国に続きロシアの外交官を国外追放すると表明した国はアメリカやカナダを含む23カ国に。ロシアのラブロフ外相は3月29日、それらの国の在ロシア外交官を国外退去処分とする報復措置を発表した。セルゲイ氏は意識不明のままであるものの、現場に駆けつけて重体となった刑事が回復して退院し、先日には娘のユリア氏の意識が回復したことは何よりだ。
 この映画は内容として評価されない面があるのはよくわかるものの、一般の人間には計り知れない出来事が実際に起きていて、それは許されないことだと知る上で、ある種の意味があるかもしれない。

作品データ

レッド・スパロー
劇場公開 2018年3月30日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2018年 アメリカ映画
上映時間 2:21
配給 20世紀フォックス映画
原題 Red Sparrow
監督 フランシス・ローレンス
原作 ジェイソン・マシューズ
脚本 ジャスティン・ヘイス
出演 ジェニファー・ローレンス
ジョエル・エドガートン
マティアス・スーナールツ
シャーロット・ランプリング
メアリー=ルイーズ・パーカー
ジェレミー・アイアンズ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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