君の名前で僕を呼んで

北イタリアの避暑地を舞台に、少年の初恋を描く
ゆれうごく情感を美しい風景とともにとらえ、
甘くほろ苦くみずみずしく、味わい深く映し出す

  • 2018/04/10
  • イベント
  • シネマ
君の名前で僕を呼んで©Frenesy, La Cinefacture

1980年代のイタリアの避暑地を舞台に思春期の恋をみずみずしく描き、世界的に高い評価を得ている話題作。出演は、本作が初主演となる『インターステラー』の若手俳優ティモシー・シャラメ、『コードネーム U.N.C.L.E.』のアーミー・ハマー、『シリアスマン』のマイケル・スタールバーグ、『サンローラン』のアミラ・カサールほか。原作は作家アンドレ・アシマンの小説『Call Me By Your Name』、監督は『ミラノ、愛に生きる』のルカ・グァダニーノ、脚色・プロデュースは『眺めのいい部屋』『日の名残り』の名匠ジェームズ・アイヴォリーが手がける。17歳の少年エリオは、大学教授の父の助手としてアメリカからやって来た24歳の大学院生オリヴァーと出会い……。まぶしい光と緑に囲まれ、ゆったりとした時間が流れるなか、思春期の恋のもどかしさや切なさ、喜びや苦みを映してゆく。美しい風景とともに自然な成り行きをとらえたかのような、味わい深いドラマである。

ティモシー・シャラメ

1983年の夏。17歳のエリオは毎年、夏になると両親と北イタリアの避暑地を訪れ、母が相続した17世紀に建てられたヴィラで過ごしている。美術史学が専門の大学教授の父と翻訳家の母のもと、エリオはピアノやギターの演奏、クラシック音楽の編曲、読書や夜遊びをして、のびのびと夏を過ごしている。そこに、父の助手として24歳の大学院生オリヴァーがアメリカからやってくる。エリオの父、パールマン教授は毎夏、研究のアシスタントとしてヴィラで一緒に暮らすインターン迎えるのだ。ハンサムで知的、堂々とした振る舞いのオリヴァーに最初はエリオが反発するも、読書をしたり街を散策したりと一緒に過ごすうちに、彼に強く惹かれてゆく。

89歳の名匠ジェームズ・アイヴォリーが脚色・プロデュースを手がけ、今年のアカデミー賞にて脚色賞を受賞した話題作。物語は少年と青年の恋愛であり、性描写も含まれるものの、実際の感覚としてはあくまでも思春期の少年の初恋として、性別よりも、気になる相手への反抗心や衝動、惹かれ合う者同士の特別で微妙な関係を丁寧にとらえているところが、とても微笑ましい。原作者のアシマンに脚本を送ったところ、「とても満足してくれた」そうで、アイヴォリーはこの物語を気に入った理由を語る。「原作を読んで、とても感銘を受けた。舞台がイタリアであることも気に入ったよ。誰しも初めての恋は経験があるし、それを書くのはとても興味深いと思ったんだ」

ティモシー・シャラメ,アーミー・ハマー

音楽や文学、史学などに自然に親しむ少年エリオ役は、ティモシーが無邪気に。彼自身はフランス人の父とアメリカ人の母をもつアメリカ人であるものの、少年の頃は祖母の家があるフランスのル・シャンボン=シュル=リニョンでよく夏を過ごし、ヨーロッパの小さな町の感覚をよく知っていたという。フランス語が流暢で、イタリア語もある程度はできていたとも。そうしたこともあるのか、劇中でエリオが両親やガールフレンドに素直に甘える様子は、いかにもイタリア人ふうでかわいらしい。エリオの父の助手としてやってくる大学院生オリヴァー役は、アーミーがソツなくこなすイケメンとして。195cmの長身に金髪碧眼、実生活では曾祖父が石油王、父が大会社のCEOで裕福な家庭で育ったという出自もこの役にハマッている。
 エリオの父、パールマン教授役はマイケル・スタールバーグが偏見のない懐の深い大人の男性として(彼は実際にジュリアード学校で美術学士を修めている)、エリオの母で翻訳家のアネラ役はアミラ・カサールが理解のある寛容な女性として、リベラルで愛と知性を惜しみなく与え、子どもを信じてしばりつけない、真の意味で知的な両親が魅力的に描かれている。またエリオのフランス人のガールフレンド、マルシア役はエステール・ガレルが、オリヴァーに迫る美人キアラ役はヴィクトワール・デュボワが、それぞれに演じている。そのほか長年パールマン一家のもとで家事を取り仕切る過保護なおっかさんタイプの中年女性や、物静かで庭仕事などの雑務をするシニア男性など、登場するキャラクターがみんな魅力的だ。

映画の後半には、父がエリオに静かに語りかける素晴らしいシーンがあり、その内容はしみじみと胸に響く。パールマン教授は原作者アシマンの父親がモデルだそうで、アシマンは自身の父親についてこのように語っている。「父は非常に進歩的な人間で、セクシャリティに関しても偏見がありませんでした。父はセックスの話を含めて、どんなことでも相談できる人間だった。だから“皆はこうする”とか“精神科医のところへ行け”なんて普通の父親が言う通り一遍の台詞を書くつもりはなかったんです。父は、そんな人間ではなかったから」
 エリオの母アネラを演じるアミラ・カサールは、パールマン一家の魅力について語る。「彼らは伝統や古いしきたりに愛着をもっているけれど、現代的なの。両親はあの“エデンの園”でエリオに古典作品の深い味わい方を伝えながら、同時に外へ出ていろんな経験をして自分の人生を生きることを彼に推奨する。親というのは大抵、子どもを拘束したがるものだけど、彼らはこう言うの。『外へ行きなさい。人生は贈り物なのよ。思いっきり生きなさい』ってね。アネラも夫も時代を先取りしていて、とても寛容で進歩的で許容範囲が広いの」

アーミー・ハマー,ティモシー・シャラメ,アミラ・カサール,マイケル・スタールバーグ

さまざまな魅力のある本作のなかでも特徴的なのは、全体にゆるやかなやさしい時間が流れているところ。映画の撮影はイタリアでも原作通りのリビエラ地方リグリアではなく、監督の自宅のあるロンバルディア州クレマの町で行われた。撮影中はキャストもスタッフも和気あいあいとなごやかに過ごしたそうで、ほのぼのとした親密な雰囲気がスクリーンからもよく伝わってくる。またグァダニーノ監督は、エリオとオリヴァーの関係が少しずつ築かれてゆくことについて、「私はゆっくり燃え上がるのが好きなんだ」と語る。そしてプロデューサーのピーター・スピアーズは、グァダニーノのゆったりとした撮影が作品にもたらす感覚について、このようにコメントしている。「映画でもTVでも、アメリカでは早くゴールに辿りつかせようとする傾向がある。でもルカはペースを落としてゆっくりやるので、匂いや音、感触、味わいと言ったすべてを感じることができるんだ」

実際に夏のイタリアで撮影するには、チャンスは1年に1回きり。監督やキャストたちのスケジュールもあり、9年かけてようやく2016年の夏に撮影が行われたという本作。その時期は運悪く、天気予報が“世紀に一度の雨”というほどの悪天候で、「34日の撮影の間、28日が雨だった」とも。しかし2010年の映画『ブンミおじさんの森』で知られるタイ人の撮影監督サヨムプー・ムックディプロームは、雨期のあるタイで培った悪天候への対策を総動員し、わずかな日差しもとらえて映し出したという。サヨムプーはイタリアの陽光について語る。「イタリアの光は驚くべき質です。色とコントラストが優れていて、微妙で詩的に変化します。僕はそれに恋しました」

アシマンが2007年に発表した処女作『Call Me by Your Name』は、“初恋文学のモダンクラシック”として、読者やメディア、LGBTコミュニティから熱く支持された。この小説を3カ月という短期間で書き上げたアシマンは、その時のことをこんな風に振り返っている。「今までの人生で、あんなに素早く書き上げたことはないよ。まるで僕自身が恋していたかのような状態だった。書いているとこれまで踏み込みたいと思ったことのなかった世界に、どんどん入って行ったんだ。“自分でもこの本を書いたなんて信じられない!”と本に書いたけど、でも書いたんだよ。何か操られているような感じだった」
 原作に惹かれたもうひとりのプロデューサー、ハワード・ローゼンマンは語る。「この小説を読んだほとんどの人が、初めての恋の焦がれる思いやその痛みに共感するんだ。男女の性別や性的嗜好を問わずね」
 そして最後にグァダニーノ監督による、この物語のテーマをお伝えする。「『Call Me by Your Name』は誰かを前向きに愛することが、人をいかに変えるかを描いている。美しい気づきの映画なんだ」

作品データ

君の名前で僕を呼んで
劇場公開 2018年4月27日TOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 イタリア、フランス、ブラジル、アメリカ映画
上映時間 2:12
配給 ファントム・フィルム
原題 Call Me by Your Name
プロデュース・監督 ルカ・グァダニーノ
プロデュース・脚色 ジェームズ・アイヴォリー
原作 アンドレ・アシマン
出演 ティモシー・シャラメ
アーミー・ハマー
マイケル・スタールバーグ
アミラ・カサール
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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