日日是好日(にちにちこれこうじつ)

黒木華、多部未華子、樹木希林が初共演
ひとりの女性が茶道教室に25年通って見出した
人生の機微を、大森立嗣監督がゆったりと描き出す

  • 2018/09/25
  • イベント
  • シネマ
日日是好日© 2018「日日是好日」製作委員会

黒木華、多部未華子、そして2018年9月15日に惜しまれながら他界した樹木希林が初共演。エッセイストの森下典子が茶道教室に通い続けた約25年の日々を綴ったエッセイ『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』を、映画『まほろ駅前多田便利軒』『光』の大森立嗣が監督・脚本を手がけて映画化。共演は鶴見辰吾、鶴田真由、本作が映画初出演となる乃木坂46の山下美月ほか。主人公がお茶を習い始めた20歳の大学生の頃から24年、さまざまなことが起こるなか、お茶を通じて大切な気づきを得てゆくさまを描く。作法や道具など茶道(表千家)について、また現代では一般的にあまり意識されなくなりつつある二十四節気の季節感を丁寧に描写。主人公と一緒に茶道の世界を体感するかのような、ゆったりとした作品である。

黒木華

20歳の典子は大学生活のなか、「本当にやりたいこと」を見つけられずにいる。ある日、母からの勧めにより、同い年の従姉妹・美智子とともになんとなく“お茶”を習いに行くことに。わけのわからない決まりだらけの“形”に戸惑いながらも、「タダモノじゃない」と噂の武田先生のもとで、2人は毎週土曜のお稽古を続けてゆく。その後、美智子は大学を卒業し商社へ就職したことを機にお稽古をやめたものの、典子は希望する会社に就職できず出版社でアルバイトを始め、茶道教室に通い続ける。さまざまな出会いや別れ、挫折などを経験していくなか、教室に長年通ううちに、五感を生かして心が満たされること、ささやかだけれど大切な人生の機微を、お茶を通じて実感してゆく。そんななか、典子にある転機が……。

充実のスタッフとキャストにより、茶道教室に通うひとりの女性の心の変遷をおだやかに描く作品。2018年7月31日に京都で行われた本作の完成披露試写会での舞台挨拶が、樹木希林が公の場に登場した最後となった。このとき、自身が演じたお茶の先生の役について、茶道の経験がないため引き受けることに躊躇があり演じてみたら大変だったと率直に話しながらも、物語と製作の特徴について、「時代劇でお茶を瞬間的に出すのはありますが、これだけ丁寧に、現代の若い女性がかかわっているのはめずらしいです。お茶のいろいろな流派の方が全部協力していただけているのというのはとてもありがたいこと。お礼を申し上げます」とコメントした。また主演の黒木華は初めて共演した樹木希林への思いを、このように語った。「かっこいいんです。人としても女優さんとしても。こういう人になりたいという人は今までいなかったんですが、初めてそう思いました」

多部未華子,黒木華

茶道教室に通い続ける典子役は、黒木華が内面の変化を自然体で表現。前述の完成披露試写会舞台挨拶にて、樹木希林は黒木華について、「まだ28歳ですが、しなやかでとても強い。これから日本を背負って立つ役者だと思います」と称賛している。大きな家に1人で暮らし、茶道教室をしている武田先生役は樹木希林がいつもながらいい味わいで。典子の同い年の従姉妹で快活な美智子役は多部未華子が明るくさっぱりと、典子の父役は鶴見辰吾が、武田先生の親戚で典子が憧れる雪野役は鶴田真由が、茶道の才能を感じさせる15歳の高校生ひとみ役は、高校時代に茶道部(裏千家)の副部長だった山下美月が、それぞれに演じている。
 つい先日、樹木希林「死去」とテレビの速報で知ったとき、筆者は思わず「そんなーーーーー」と声をあげてしまった。体調が思わしくないとずっと報じられていたけれど、そうはいってもご本人の気力や医療のサポートでこれからもずっとご活躍していくのだろうと思い込んでいた。大勢の方々がさまざまに語る通り、人間的な魅力にあふれ、演技派の役者として惹きつけられ、ひとりの女性としての独特の賢さと器の大きさに筆者も憧れていた。いちファンとして、今はただご冥福を祈るばかりだ。

茶道をモチーフにひとりの女性の日常と心情を描く本作は、ハードボイルドな作品の多い大森監督の新境地とも。監督は原作への思いと映画化について、このように語っている。「茶道とは無縁の僕が原作を読み終えていたく感動していました。一人の女性が大人になっていく過程で、きらびやかな宝石とは違う、胸の奥にずっと、でも密かにある大切なものにお茶を通して気付き、触れていくお話です。観た人の心に深く響く映画になればいいと思っています」
 原作者の森下典子は、今も自宅近くにある“武田先生のお茶教室”に通い続けているとのこと。映画化決定の際には、「この上ないキャストで、これほどの光栄はありません。この映画の実現にお力をくださった多くの方々に、心から感謝いたします。ありがとうございます!」とコメント。そして本作の撮影では原作者が自ら、茶道関連のアドバイザーとして全面的に参加したとも。2018年7月31日に行われた記者会見にて、森下氏は今回の映画化について大きな喜びとともにこのように語った。「60歳になったばかりで、盆と正月が一緒に来たというのはこういうことなんだと。神様から還暦祝いをいただいたのだと思いました」

樹木希林

「人間はどんな日だって楽しむことができる。そして人間は、そのことに気付く絶好のチャンスの連続の中で生きている」
 心が満ちること、精神の自由。流れてゆく時間とさまざまな出来事のなか、茶道教室で得た目線や磨かれた感性により、人生の機微をより深く実感してゆく。2018年9月4日に東京で行われたプレミアム試写会では、高円宮妃久子殿下が来場。原作者の森下典子、大森監督はこの映画の魅力について、このように語った。
 森下典子:「日本文化の素晴らしさを語るとしたらやはりお茶に尽きると思います。でも、お茶をとても遠いものと思っている人が多いです。お茶をご存知ない方にもお茶室に座るとどんな気持ちになるか、季節の移り変わりをどのように感じるか、この映画の中で堪能していただきたいと思います」
 大森監督:「ものすごいスピードで時代が流れていく中、お茶室の中は時間が止まっているかのよう。それを映画化したいと思いました。楽しんでいただけたら幸せです」

作品データ

劇場公開 2018年10月13日よりシネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、イオンシネマほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2018年 日本
上映時間 1:40
配給 東京テアトル/ヨアケ
監督・脚本 大森立嗣
原作 森下典子
出演 黒木華
樹木希林
多部未華子
鶴見辰吾
鶴田真由
原田麻由
川村紗也
滝沢恵
郡山冬果
岡本智礼
山下美月
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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