東野圭吾の作家デビュー30周年作品を堤幸彦監督が映画化
愛娘が“脳死”と診断されるも、夫婦は延命を決断する。
まざまな思いが鮮烈に交錯するヒューマンミステリー
“生”と“死”は、何をもって決められるのか。東野圭吾が作家デビュー30周年の作品として2015年に発表、累計発行部数100万部を突破したベストセラー小説を、『SPEC』『明日の記憶』の堤幸彦監督が映画化。出演は篠原涼子、西島秀俊、坂口健太郎、川栄李奈、松坂慶子、田中泯ほか充実の顔合わせで。ある日、愛娘がプールで溺れ、病院に駆けつけた両親は困難な現実に直面する。意識の戻らない娘を巡り、両親、幼い弟、親戚、医師、医療機器の研究者たちがそれぞれの意志で関わっていく様子を描く。さまざまな思いが烈しく交錯し、展開してゆくヒューマンミステリーである。
娘・瑞穂の小学校受験が終わったら離婚する。そう約束していた播磨和昌と薫子のもとに、「娘がプールで溺れた」と連絡が入り、病院の医師から“おそらく脳死”と診断が下される。夫妻は一度はその診断を受け入れるも、瑞穂との別れの直前に翻意。意識がいつか戻ると信じ、自宅で看護し続けることを決意する。父から継いだ会社、IT系機器メーカー・ハリマテクスの社長である和昌は、社員の星野祐也が研究している最新技術に注目。前例のない延命措置を提案し、星野の協力のもと瑞穂の看護に取り入れ、瑞穂は意識は戻らないながらも体は良い状態を保ってゆく。そんな折、薫子が星野とともに瑞穂の看護に盲目的にのめり込んでいくのを目の当たりにした和昌は、自分の決断が正しかったのか迷い始める。
延命すべきか否か。技術の進歩により命を維持してゆく技術がますます進化してゆくなか、患者の家族や周囲で起こりうる、難しい状況や心情について描く。“難病もの”といった、命の危機とその行方、家族や周囲の人たちの思いを描く側面もあるもののそれだけではなく、生と死、愛と狂気、肉体と魂、また医療と倫理といった、表裏一体で切り離すことのできない、さまざまな境界が危うくゆらいでいくさまをとらえている。本作の容易ではないテーマについて、単行本の発売当時、東野氏が自ら、「こんな小説を自分が書いていいのか、今も悩んでいます」とコメントをしていたことを思い出した。個人的には原作を読んだときに圧倒された感覚を映画でも体感し、東野圭吾作品の映画化は『天空の蜂』に次ぐ2度目となる堤監督との相性の良さを感じた。
娘を熱心に看護する播磨薫子役は、篠原涼子が熱演。実際に2人の男の子の母親である彼女は、脚本を読んで目が腫れるほど泣いたとのこと。そして夫・和昌役は西島秀俊が、愛娘に最新の技術による延命をし続けながらも、それが本人にも家族にもいいことなのかを苦悩するさまを丁寧に表現。撮影の合間には篠原涼子とともに子どもたちと一緒に遊び、家族のように和気あいあいと過ごしていたそうだ。
事故に居合わせた薫子の母で瑞穂の祖母・千鶴子役は松坂慶子が、播磨夫妻を心配する薫子の妹・美晴役は山口紗弥加が、ハリマテクスの創業者で和昌の父親である播磨多津朗役は田中泯が、ハリマテクスの研究員・星野祐也役は坂口健太郎が、星野の恋人・川嶋真緒役は川栄李奈が、瑞穂の担当医師・進藤役は田中哲司が、それぞれに演じている。
原作でも映画でも個人的にストーリーで印象的だったのは、大人たちだけでなく、子どもたちの複雑な思いもしっかりと描くところだ。大人たちが目の前のことでいっぱいいっぱいのなか、瑞穂(稲垣来泉)の事故現場にいた美晴の娘・若葉(荒川梨杏)、眠り続ける姉や環境の変化に戸惑う幼い弟・播磨生人(斉藤汰鷹)、子どもたちにも伝えたいことや主張があり、それをぶつけられた大人たちがハッとさせられるシーンは、胸に迫るものがあった。また和昌が心臓移植を待つ子どもの関係者と知り合い、思い惑うシーンも、その言動が正しいかどうかではなく、出来事を俯瞰で見つめることを静かに促される感覚が。堤監督はこの原作を映画化することへの意気込みについて、このように語っている。「原作に描かれていることはたいへん難易度の高い内容ですが、それはどの夫婦にも親子にも突きつけられる究極の問題であり、だからこそ挑戦すべき作品だと確信しています。考えれば考えるほど“他人事”ではない。いろいろな意味で“代表作”になる自信があります。老若男女たくさんの方々に“染み入る”映画になれたらと思います」
そして東野氏は原作の執筆について、「書き上げた今も、何らかの答えに到達できたという自信はありません。ただし、エンタテイメント作家としての役割だけは果たせたのではないかと自負しておりました」と語り、この映画を称えてコメントを寄せている。「この物語を映画化したいという話を聞き、驚きました。拙作が映像化されることは多いのですが、この重たいテーマだけは敬遠されるだろうと予想していたからです。映画を観て、自分の認識が間違っていたのだと気づきました。やはり映像のプロは違いました。プロの役者は違いました。描かれているテーマは重く、ドラマは深く、派手なアクションシーンはありません。しかし間違いなく一級品の娯楽作品になっていました。私が密かに自負していた原作の“売り”を、見事に再現してもらっていました。原作者が泣いたらかっこ悪いという思いから懸命に涙は堪えましたが、皆さんは遠慮なく泣いてくださって結構です」
また映画での原作にはないオリジナルのシーン、“瑞穂がママに見せたかったキレイな景色”についてもエピソードが。このアイデアを東野氏に相談したところ改変を快諾、さらにアイデアとして“子ども目線だから見える景色”という提案があり、魅力的な新しいシーンが加えられたとも。
どこまでが“生”で、どこからが“死”なのか。特殊な延命措置により変化してゆく家族の気持ち、最新技術の可能性にのめり込む研究者、それを見つめる周囲の目。法律や医療上の判断はあれど、家族や親しい人たちの心情としては簡単に割り切ることは難しい。意識のある大人であれば、尊厳死や蘇生措置の拒否といった本人の意志を尊重することができるが、意識のない子どもであれば、それは周囲の大人にゆだねられる。生と死の分かれ目について、クライマックスでの薫子の切実な問いかけについては、絶対的な正解やひとつの明確な答えがあるわけではなく、各人の答えがそれぞれにあれば、それでいいのではないかと筆者は思う。
そして2018年10月29日には全国公開に先がけて、第31回東京国際映画祭にてGALAスクリーニング作品としてワールドプレミア上映を実施というニュースも。最後に、観客へのメッセージが込められた、薫子の妹・美晴役を演じた山口紗弥加のコメントをご紹介する。「善とか悪とか、正しいか正しくないかじゃなくて、命って誰のものなんだろうって、答えの見つからない問いを皆がそれぞれに追いかけているような。観た人の数だけ答えがあっていいと思いますし、“生命”というものを考えるきっかけになればいいなと願いながら、祈るような気持ちで演じました」
劇場公開 | 2018年11月16日より丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2018年 日本 |
上映時間 | 2:00 |
配給 | 松竹 |
英題 | The House Where the Mermaid Sleeps |
監督 | 堤幸彦 |
脚本 | 篠ア絵里子 |
原作 | 東野圭吾 |
出演 | 篠原涼子 西島秀俊 坂口健太郎 川栄李奈 山口紗弥加 田中哲司 田中泯 松坂慶子 |
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