マイ・サンシャイン

黒人が犠牲になった事件への不当な判決をきっかけに
米国の世情は混乱、1992年にLA暴動が勃発した――
市井の人々の実話をもとに当時を描くヒューマンドラマ

  • 2018/11/26
  • イベント
  • シネマ
マイ・サンシャイン©2017 CC CINEMA INTERNATIONAL-SCOPE PICTURES-FRANCE 2 CINEMA-AD VITAM-SUFFRAGETTES

『チョコレート』のオスカー女優ハル・ベリーと『007』シリーズのダニエル・クレイグ共演による、実話から着想を得た物語。監督・脚本はデビュー作の『裸足の季節』が、2016年の第88回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンが手がける。1992年のロサンゼルス、サウスセントラル。家族と暮らせない子どもたちを育てるミリーは、貧しいながらもみんなで平穏に暮らしている。だが、黒人が犠牲になった事件に不当な判決が下されたことで暴動が広がり……。 “ロドニー・キング暴行事件”と“ラターシャ・ハーリンズ射殺事件”、1991年に起きたふたつの事件をきっかけにアメリカの世情が混乱し、市井の人々や子どもたちが騒動に巻き込まれてゆくさまを描く。ほんの20数年前のアメリカであった人種差別にまつわる公正を欠く出来事について、サウスセントラルで暮らすアフリカ系アメリカ人の暮らしの視点から描くヒューマンドラマである。

ハル・ベリー,ほか

1991年のロサンゼルス、サウスセントラル。アフリカ系アメリカ人のミリーは長男ジェシーとともに、家族と暮らせない子どもたちを育て、裕福ではなくともあたたかい家庭を築き平穏に暮らしている。隣人の白人男性オビーは騒々しさにいつも文句は言うものの、一家をやさしく見守っていた。ある日、ミリーは母親が逮捕されひとりきりになった気の荒い少年ウィリアムを保護して同居するように。またジェシーが家を失った同級生の少女ニコールに住む場所を教えると、そこに素行の荒い少年たちが集まるようになってくる。そんななか、 “ラターシャ・ハーリンズ射殺事件”と“ロドニー・キング暴行事件”の公判は、前者は韓国系である加害者側が事実上無罪のような軽い判決、後者は集団暴行をした4人の白人警官全員が無罪という報道が。街では白人と韓国系商店を標的にLA暴動が起こり、ジェシーの周囲の少年たちも決起して街へと向かうが……。

アメリカで人種差別が引き起こした世情の混乱について、巻き込まれた民間人や少年少女たちの目線で描く物語。エルギュヴェン監督は、フランス国立映画学校(FEMIS)卒業後からずっとこの企画を温めていたとのこと。また2005年にフランスで起きたパリ郊外暴動事件(警察に追われた北アフリカ出身の3人の若者が変電所に逃げ込み、2人が感電死。これを機に起きた暴動)、トルコで生まれフランスで暮らす自身の不安定な立場を交えて、本作の製作のきっかけについてこのように語っている。「2005年のパリ郊外暴動事件がすべての始まりです。この事件の最中に私自身も尋問を受けました。私は生後半年からずっとフランスで暮らしているにも関わらず、フランス人として扱われていません。国籍申請は二度却下され、パスポートも申請する度に、通るか不安になります。母国と思っている国に認められない、という拠り所のなさを感じ続けてきました。私自身がよく知っている『愛している母国に拒絶される』という感情がパリ郊外暴動事件を引き起こしたのです。その1年後、ある女性が思春期の私にLA暴動について話してくれました。このふたつの暴動はまったく違う環境で起こりましたが、究極の絶望感が発端という点は同じなのです」

ダニエル・クレイグ

手作りケーキのデリバリーをしながら子どもたちを育てるミリー役はハルが愛情豊かに表現。隣人オビー役はダニエルが口が悪くとも気は優しい大人の男としてフランクに演じている。ミリーとオビーがほのかに惹かれ合う様子は、緊張感が増してゆく展開のなかでホッとする要素になっている。ミリーの長男ジェシー役はラマー・ジョンソンが真面目な少年として、ミリーが保護する少年ウィリアム役はカーラン・ウォーカーが荒っぽく、ジェシーが肩入れする少女ニコール役はレイチェル・ヒルソンが蠱惑的に演じている。

この映画に登場するトイレを盗む男や、暴徒を説得するファスト・フードの店長といった人々は、実在の人物であり、多くのシーンは事実をもとにしているとのこと。監督は3年かけてロサンゼルスを何度も訪れ、サウスセントラルや暴動が始まった地区を回り、取材を進めていった。その時のこと、こうしたエリアの特殊な地域性ついて監督は語る。「ギャングのメンバー、ロス市警、特定の地域に住む人たちのメンタリティについて知りたいと思いました。この都市の住人が決して超えない見えない境界線が、どのように機能しているのか。サウスセントラルは、都市から切り離された島のようなものです。白人はめったにそこに足を踏み入れません。それぞれのコミュニティの間には複雑な関係があり、その機能を理解するのに、時間が必要でした」。また、「彼らにとってLA暴動は栄光の物語ではないにも関わらず、ロス市警でさえ非常に公平でした」とも。

マイ・サンシャイン

エルギュヴェン監督は差別について、世界では現在2つの重要な問題があると語る。「今でも2つの問題が片付いていません。まず、アメリカの“人種問題”です。解決からほど遠い。例えば、ニュー・オーリンズは奴隷制の痕跡が深く残る街です。この街で取材したときは、様々なタブーやヒステリックな反応を見ました。次に、“B級市民”的な感覚です。多くの人がその存在を無視している市民がいます。世界中での移民難民への対応が顕著ですが、出自や肌の色で命に価値がある人とそうでない人を分けている。この2つは現在に続く問題です」
 アメリカの現政権下では、メキシコ国境の壁建設の推進、中米からは1万人を超える移民キャラバンがアメリカ国境を目指し、そして白人を優遇するような人種差別の風潮が色濃くなるなか、そうした状況に反発する声も日増しに大きくなってきている今。主演のハル・ベリーはこの映画のストーリーについて、このように語っている。「この物語はアメリカの歴史のなかで重要な出来事で、私たちはまだ解決策を見出していません。もっと表に出て、話し合われ、注目されるべき物語だと思います」

作品データ

劇場公開 2018年12月15日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 フランス=ベルギー映画
上映時間 1:27
配給 ビターズ・エンド、パルコ
原題 Kings
監督・脚本 デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
音楽 ニック・ケイヴ
ウォーレン・エリス
出演 ハル・ベリー
ダニエル・クレイグ
ラマー・ジョンソン
カーラン・ウォーカー
レイチェル・ヒルソン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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