蜘蛛の巣を払う女

天才ハッカー、リスベットの“ミレニアム”シリーズ続編
危険なAIプログラムを巡り、死んだはずの妹との再会する
厳冬のスウェーデンを舞台に描くノワール・サスペンス

  • 2019/01/14
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蜘蛛の巣を払う女

全世界で累計9,000万部以上、スウェーデンのベストセラー“ミレニアム”シリーズの『Det som inte dodar oss』を映画化。出演は『ファースト・マン』のクレア・フォイ、『ボルグ/マッケンロー氷の男と炎の男』のスベリル・グドナソン、『ブレードランナー2049』のシルヴィア・フークス、『ゲット・アウト』のレイキース・スタンフィールドほか。2011年の『ドラゴン・タトゥーの女』で監督を務めたデヴィッド・フィンチャーが今回は製作総指揮にまわり、監督は『ドント・ブリーズ』の新鋭フェデ・アルバレスが手がける。特殊な映像記憶能力をもつ天才ハッカーのリスベットは、AI(人工知能)研究の世界的権威であるバルデル教授から、自身が開発したプログラムをアメリカ国家安全保障局(NSA)から取り戻す依頼を受けるが……。危険なプログラムを巡る激しい攻防戦、徐々に見えてくる事件の全体像、そしてリスベットの過去と因縁が事件に絡んでゆく。凍てつく冬のスウェーデンを舞台に、孤高のヒロインと事件の顛末を描くダークなミステリーである。

シルヴィア・フークス

真冬のストックホルム。天才ハッカーのリスベット・サランデルは仕事の依頼を受ける。AI研究の権威バルデル博士が自ら開発した核攻撃プログラムを、アメリカ国家安全保障局(NSA)から取り戻すことだ。リスベットはすぐにNSAのシステムに侵入し、重要な暗号を盗み出すことに成功。だがNSAのスペシャリストであるエド・ニーダムが不正侵入に気づき、暗号を取り戻すべくハッキング元であるストックホルムへと向かう。その頃リスベットは謎の侵入者に襲撃され、暗号データを強奪される。リスベットは記者のミカエルと3年ぶりに再会し、事件の黒幕を調べてほしいと頼む。そんな折、リスベットは事件の現場で16年前に生き別れ、3年前に自殺したはずの双子の妹カミラと再会する。

危険なプログラムを巡る、それぞれの思惑をもつ複数の見えない敵、謎の組織との激しい攻防戦のなか、リスベットと記者ミカエルとのつながり、死んだはずの双子の妹との再会といった人間模様とともに描くミステリー。スタッフ&キャストがパンチの効いた布陣だった2011年の『ドラゴン・タトゥーの女』とはまた別物として、派手さや強いインパクトはなくとも今回のメンバーなりのまとまりや味わいのある内容となっている。アルバレス監督は独特の個性をもつこのストーリーの魅力について、このように語っている。「これはアクション映画と強烈な人間ドラマと北欧のノワール・サスペンスが融合した作品だ。そうした要素がすべて独特な形で合わさって、ほかとはまるで違う映画になっているんだ」

クレア・フォイ,スベリル・グドナソン,ほか

天才ハッカーのリスベット役はクレア・フォイが、彼女なりの新しいキャラクターとして表現。ルーニー・マーラ版とは異なり、健康的な肢体でアクションもという意外性がありつつも、純粋さと陰が同時にあるような内面の雰囲気が伝わる感覚だ。今回のリスベットにはアルバレス監督のイメージも反映している、と衣装デザイナーのカルロス・ロサリオは語る。「ダークでリアルであると同時に、これまでの作品のリスベットよりも親しみやすい感じをフェデ(監督)は求めていた。彼女にもっと深みを与えることで、観客が彼女にもっと共感できるようにしたかったんだ」
 リスベットが信頼を寄せる雑誌『ミレニアム』を発行する記者ミカエル役はスベリル・グドナソンが微妙な距離感で、リスベットの妹カミラ役はシルヴィア・フークスが執念深く、リスベットを追うNSAのエド役はレイキース・スタンフィールドが真相を見極めようとし、AI研究の権威バルデル博士役はスティーヴン・マーチャントが、リスベットを追い詰める謎の男役はクレス・バングが、それぞれに演じている。

見ていて思わず息苦しくなるようなあの拷問シーンを含め、リスベットが次々と窮地に陥るシーンはこのシリーズの見どころのひとつであり、文字通り息が詰まる場面もしばしば。知恵と機転とスキルと根性、仲間との連携できわどいながらも乗り切るスリルを描いている。本作でアクションをより多く描いたことについて、アルバレス監督は語る。「リスベットは被害者になることを見事なまでに拒否している。どんな試練にも彼女は耐え抜き、勇敢に戦うんだ。過去のどのストーリーよりも、今回それが明確になっているよ。彼女の鋼のように強い意思が見えるんだ。どんなに殴られ、叩きのめされ、這いつくばされても関係ない。また立ち上がって戦い続ける。そんな彼女の姿には、誰もが感情移入できると思うよ」

スベリル・グドナソン,クレア・フォイ

この映画の原作である『Det som inte dodar oss』を執筆したのは、スウェーデンのジャーナリストで作家のダヴィド・ラーゲルクランツ。彼はそもそもの“ミレニアム”三部作、2005年の『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(原題:Man som hatar kvinnor)』、2006年の『ミレニアム2 火と戯れる女(原題:Flickan som lekte med elden)』、2007年の『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(原題:Luftslottet som sprangdes)』の原作者である故スティーグ・ラーソンから継いで、同シリーズの新作を執筆した。
 故スティーグ・ラーソンは、スウェーデン通信でグラフィック・デザイナーとして20年勤務し、英国の反ファシズムの雑誌『サーチライト』の編集を経て、人道主義的な政治雑誌『EXPO』を創刊、のちに同誌の編集長を務めた人物。その後、ラーソンはパートナーである女性とともに2002年から三部作を執筆、2004年のはじめに三冊の出版契約を結ぶも、同年の11月に心筋梗塞のため50歳で死去。自身の処女作が世界的なベストセラーになると知らないまま、著者ラーソンは三部作の出版前に急死したのだ。そしてラーソンは死後、2008年には世界で2番目に売れている小説家となり、2015年3月には“ミレニアム”シリーズは全世界で累計8000万部を売り上げたとも。
 一方で2013年、この三部作の続きを、ラーソンと同じくスウェーデンのジャーナリストで作家であるラーゲルクランツが継いで執筆すると出版社が発表。ラーゲルクランツはタブロイド紙『エクスプレッセン』の記者として活動後、1997年に登山家の伝記『Goran Kropp』を発表して作家に転身。2015年8月に『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女(原題:Det som inte dodar oss)』を、2017年に『ミレニアム5 復讐の炎を吐く女(原題:Mannen Som Sokte Sin Skugga)』を発表し、ともに世界的なベストセラーとなった。
 世の中の理不尽、女性への暴力や抑圧と断固戦うリスベットをサポートする記者ミカエルというキャラクターは、ラーソンの思いを投影しているかのようで、ラーゲルクランツもそうした面を意識して執筆しているのかもしれない。

本作の続編であるミレニアム5は2017年に出版され、小説『ミレニアム6』は2019年に発表予定とのこと。これらもハリウッドで映画化なるか? スタッフ&キャストは今回と同じメンバーか異なるメンバーとなるか、いずれにしてもスタジオとしては本作の収益や注目度次第となるだろう。リスベットの数奇な物語が映画としてどのように展開していくか、今後も注目していきたい。

作品データ

劇場公開 2019年1月11日より新宿ピカデリーほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2018年 アメリカ
上映時間 1:58
配給 ソニー・ピクチャーズ
原題 The Girl in the Spider's Web
監督・脚本 フェデ・アルバレス
脚本 スティーヴン・ナイト
製作総指揮 デヴィッド・フィンチャー
原作 ダヴィド・ラーゲルクランツ
出演 クレア・フォイ
シルヴィア・フークス
スベリル・グドナソン
レイキース・スタンフィールド
スティーヴン・マーチャント
クレス・バング
ジェイ・バス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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