eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

ふたりの女王 メアリーとエリザベス

シアーシャ・ローナン×マーゴット・ロビー
スコットランドのメアリーと、イングランドのエリザベス
王位を巡る女王の愛憎と生き様をドラマティックに描く

ふたりの女王 メアリーとエリザベス© 2018 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

16世紀のイギリスを舞台に血縁関係にある2人の女王、スコットランドを治める“恋多き女”メアリー1世と、イングランドを統治する“処女王”エリザベスT世の愛憎と生き様を描く。出演は『レディ・バード』のシアーシャ・ローナン、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』のマーゴット・ロビー、『ダンケルク』のジャック・ロウデン、テイラー・スウィフトの彼氏としても知られる『女王陛下のお気に入り』のジョー・アルウィン、『英国王のスピーチ』のガイ・ピアースほか。幼少時に渡仏して16歳でフランス王妃となり、18歳で未亡人となったメアリーは、スコットランドに帰国して再び王位につく。一方イングランドではエリザベスT世が25歳で即位するが……。監督は、イギリスの演劇界で活躍する女性演出家であり本作で長編映画監督デビューをしたジョージー・ルーク、脚本は映画『スーパー・チューズデー〜正義を売った日〜』のボー・ウィリモンが手がける。お互いに最大のライバルであり、女王としての理解者でもあるメアリーとエリザベスの対立や駆け引き、それぞれに波乱に満ちた半生を描く、女たちのドラマである。

イアン・ハート,ジャック・ロウデン,シアーシャ・ローナン,ジェームズ・マッカードル,ほか

16世紀のイギリス。スコットランドでカトリックとして生まれたメアリー・スチュアートは、イングランドによる侵攻に巻き込まれないために、フランス国王アンリU世の采配で幼少時に渡仏。フランス王宮で生活し15歳でフランス王太子フランソワU世と結婚、16歳でフランスの王妃になるも18歳で未亡人となり、母国スコットランドに帰国して王位に戻る。しかしスコットランドではプロテスタント教徒が勢力を拡大し、それまで摂政をしていたメアリーの異母兄マリ伯や長老派の指導者ジョン・ノックスらが陰謀や内乱を何度も画策。メアリーの統治はうまく立ち行かないままだった。一方イングランドでは、エリザベスT世が25歳で即位。イングランドの王位継承権をもつメアリーの帰国の知らせに枢密院内は緊迫し、エリザベスに早く結婚し世継ぎを産むようプレッシャーがかかる。メアリーを恐れたエリザベスは、彼女をコントロールするために自身の寵臣ダドリーを結婚相手として提案するが……。

歴史学者ジョン・ガイが2004年に発表した評伝『Queen of Scots:THE TRUE LIFE OF MARY STUART』を原作に映画化した本作。この物語の内容は、著者が明らかにした「メアリーの幽閉中もふたりの間に連帯感があった」ことを証明する手紙や、2010年に新たに発見された、エリザベスT世がメアリーに対して女王の同志として好意を感じていたとわかる手紙の内容も取り入れ、練り上げられている。イギリスの歴史や当時の政治、カトリックとプロテスタントの宗教対立、離婚が認められていないカトリックのもと、エリザベスはイングランド国王ヘンリー8世と2番目の妻・侍女のアン・ブーリンとの娘であることから庶子であり、メアリーはスコットランド王ジェームズ5世とフランス貴族ギーズ公家出身の王妃メアリー・オブ・ギーズの娘であり、その血統からメアリーこそがイングランド王位継承権者であるという主張、といったことが前提で描かれている面もあるので、そのあたりをざっくりとわかっているとより楽しめるだろう。メアリーが帰国後に再婚したダーンリー卿はバイセクシュアルであり、“great cock chick(偉大な雄娘)”と呼ばれ、メアリーの秘書官であるイタリア出身の男性デビッド・リッチオと性的な関係があったという事実をはじめ、2人の女王の恋愛や結婚話、暗殺や陰謀の裏にあるプライベートな人間関係を描いている面も興味深い。

マーゴット・ロビー,ジョー・アルウィン,ほか

スコットランドの女王メアリー・スチュアート役はシアーシャが、フランス育ちらしく自身の思いや欲望に充実で、本能的な女性らしい女性として。イングランドの女王エリザベスT世役はマーゴット・ロビーが、国家や社会の利益や繁栄を第一に、男性的な資質を自覚する理知的な女性として。ルーク監督は2人の女王について、「初めて愛を知り、大きな恐怖や不安を抱いている若者たち」とキャストに伝えたとのこと。女王を演じることに不安や重圧を感じていたシアーシャとマーゴットは、そのアドバイスにより権威ある立場についたひとりの若い女性として理解し、演じることができたとコメントしている。
 メアリーがスコットランドで再婚した夫ヘンリー・スチュアートことダーンリー卿役はジャック・ロウデンがバイセクシャルの野心家として、メアリーと対立する異母兄のマリ伯爵ことジェームズ・スチュアート役はジェームズ・マッカードルが、長老派の指導者ジョン・ノックス役はデヴィッド・テナントが、国務大臣メイトランド役はイアン・ハートが、そしてスコットランドの軍事を担いメアリーの後ろ盾となるボスウェル伯爵ことジェームズ・ヘップバーン役はマーティン・コムストンが、メアリーの秘書官で彼女の夫ダーンリー卿と肉体関係をもつ音楽家のデビッド・リッチオ役はイスマエル・クルス・コルドバが演じている。またエリザベス1世を支持する枢密院のひとりで、彼女が恋愛感情を抱いた寵臣レスター伯爵ことロバート・ダドリー役は、ジョー・アルウィンが忠実に女王を支え愛する家臣として、エリザベス1世の重臣であるバーリー男爵ことウィリアム・セシル役はガイ・ピアースが、エリザベスをそばで支える侍女ベス役はジェンマ・チャンが、それぞれに演じている。
 「メアリー・スチュアートは演劇作品の経験から馴染みのある題材だった」と語るルーク監督は、メアリーとエリザベスの関係性について語る。「これはお互いの心理的な執着についての映画です。メアリーは映画全編にわたってエリザベスの中にいます。エリザベスの意識に住み着き、彼女の人生すべての選択に影響を与えています。メアリーとエリザベス、ふたりだけが、実は完全に理解し合える関係にあるのです。彼女たちは正反対の道を辿りますが、ふたりの女性はコインの裏表です。バットマンにはジョーカーがいて、シャーロック・ホームズにモリアーティがいるのと同様に、メアリーとエリザベスにも、切っても切れない強固な関係性があるのです」

撮影は実際にスコットランドとイングランドにて。エリザベスT世が過ごすハンプトン・コート宮殿の修道院と回廊はグロスター大聖堂にて、またメアリーが幽閉される独房は大聖堂の地下室にて撮影された。そして大人数のキャストやクルー、かさばる衣装や美術セットの移動に骨を折りながらもスコットランドでの撮影にこだわり、メアリーの世界はより木々や土の質感で自然を感じさせる雰囲気を大切にしたとも。また2019年の第91回アカデミー賞にノミネートされた華やかな衣装デザインとヘアメイクも見どころのひとつ。“美貌の女王”と称されたメアリーは美しさと洗練された雰囲気に実用性を備えたヴィジュアル、またエリザベスI世は29歳で天然痘を患ってからは髪が抜け落ち肌が荒れていたため、肌を白く厚塗りしカツラを着用して豪華に着飾ったという独特のスタイルを表現。歴史的な正確さよりもキャラクター性などを重視し、メアリーが当時には存在しなかったデニムのドレスを纏うシーンも話題となっている。

シアーシャ・ローナン,ほか

本作の原作を執筆した歴史学者ジョン・ガイは、ケンブリッジ大学クレア・カレッジの特別研究員であり、『Elizabeth: The Forgotten Years(エリザベス:忘れられた日々)』、『Henry VIII: The Quest for Fame(ヘンリー8世:名声を求めて)』、『The Children of Henry VIII(ヘンリー8世の子供たち)』などの著作で知られる人物。BBC2など数多くのドキュメンタリー番組で司会を務め、BBCラジオの教育番組への出演も。原作の『Queen of Scots:THE TRUE LIFE OF MARY STUART』では、メアリー・スチュアートの一生を新たな視点で執筆。エリザベス1世の重臣で政治家だったウィリアム・セシルによって改ざんされた記録ではない、細かな資料に目を通して考察し、書き上げたという。メアリーとエリザベスの会合の証拠は史実としてはないものの、これまでにもさまざまな演劇やオペラなどの作品で描かれてきたように、この映画でも印象的に映されている。

現在も続くイギリス王室はメアリー・スチュアートの産んだジェームズ1世の子孫であり、英国王室の祖ともいえるメアリー。そして“国家との結婚”により生涯独身のまま国政に打ち込み、イギリスの黄金時代を築き上げたエリザベス。本作には女王2人分の大河ドラマといった趣がある。時代や状況が違っていれば仲の良い親戚同士であったかもしれない、年の近い2人の女性が女王となり、熾烈な権力争いのなかでいがみ合う様子にはもの悲しさも多分に漂う。美人として知られ、恋をして結婚し、出産して母となるも女王としての統治は立ち行かなかったスコットランド女王のメアリー1世と、惹かれる男性はいながらも国のゆるぎない発展を常に最優先し、天然痘により風貌が衰えるも着飾って威厳を保ち、私情を殺して生涯にわたり高い統治能力を発揮したイングランド女王のエリザベス1世。歴史ドラマでありながら、憧れとコンプレックスと競争心が入り混じる女性としての心情を描いたことについて、ルーク監督はこのように語っている。「これは、ある意味で今の時代の話でもあります。男性優位の時代に女性が力をもつこと、その中で人の上に立つ女王として重圧の中で多くを犠牲にしたふたりの女性についての物語なのです。歴史上の人物を通して、感情的、歴史的、政治的に、女性の生き方についての真実を描くことで、現代の女性たちに伝わるものがあるのではないかと思いました」

2019年3月5日更新

作品データ

劇場公開 2019年3月15日よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamura ル・シネマほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2018年 イギリス
上映時間 2:04
配給 ビターズ・エンド、パルコ
原題 Mary Queen of Scots
監督 ジョージー・ルーク
脚本 ボー・ウィリモン
衣装 アレクサンドラ・バーン
ヘア&メイク ジェニー・シャーコア
出演 シアーシャ・ローナン
マーゴット・ロビー
ジャック・ロウデン
ジョー・アルウィン
ジェンマ・チャン
マーティン・コムストン
イスマエル・クルス・コルドバ
ブレンダン・コイル
イアン・ハート
エイドリアン・レスター
ジェームズ・マッカードル
デヴィッド・テナント
ガイ・ピアース
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。