女性ミュータントにダークな別人格が覚醒し暴走
悲劇のなか、彼女自身、仲間たちのだした答えとは?
シリアスなドラマとして描く人気シリーズの最終章
マーベル・コミックスを映画化した人気シリーズ『X-MEN』が、現在のキャストによる最終章へ。出演は、前作『X-MEN:アポカリプス』から引き続き、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のソフィー・ターナー、『ミスター・ガラス』のジェームズ・マカヴォイ、『世界にひとつのプレイブック』のオスカー女優ジェニファー・ローレンス、『イングロリアス・バスターズ』のマイケル・ファスベンダー、そして新たに『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェシカ・チャステインほか。監督・脚本・製作は、これまでに10年以上『X-MEN』シリーズの脚本を手がけ、本作が監督デビューとなるサイモン・キンバーグが手がける。X-MENの女性ミュータント、ジーン・グレイは、ある宇宙ミッション中の事故により心の闇に潜んでいたもうひとつの人格“ダーク・フェニックス”が覚醒し……。大切な仲間が脅威となり暴走し、X-MEN のメンバーたちは難しい決断を迫られる。シリアスなドラマとして描く、人気シリーズの最新作である。
特殊能力を持つミュータントたちで結成されたX-MENは、人類と共存し平和を守っている。ある日、メンバーのジーン・グレイは、NASA乗組員を救出する宇宙ミッション中の事故で謎の熱放射を大量に浴び、心の闇に潜んでいた彼女のもうひとつの人格“ダーク・フェニックス”が覚醒。テレパシーやサイコキネシスのパワーが極端に増幅し、自身でもコントロール不能となる。ジーンの育ての親であるプロフェッサーX、恋人のサイクロップスをはじめ、メンバー皆で彼女を救おうと心を砕くが、暴走する彼女の強大なパワーが周囲を巻き込み悲劇が起きる。そんな折、孤立するジーンのパワーを狙う謎の女が現れ……。
1980年の『ダーク・フェニックス サーガ』を原作に映画化したシリアスなSFアクション。マーベル・コミックスが2000年の映画『X-MEN』で本格的にハリウッドに参入してから19年、現在の俳優たちによるシリーズの最終章となることからか、渾身の力みからくるような、息をつく間もないほど重量級の内容となっている。これまでに脚本家や製作スタッフとして活躍し本作で映画監督デビューしたキンバーグ監督は、2005年のブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの共演作『Mr.&Mrs.スミス』の脚本家として知られる人物。ただ本作には、『Mr.&Mrs.スミス』のようなハイテンポなコメディとアクションでキレとノリと遊び心のある感覚はまったくない。キンバーグ監督は原作『ダーク・フェニックス サーガ』の大ファンであり、脚本を執筆するなか絶対に自分で監督したいと思ったそうで、この物語のテーマについて熱く語る。「この映画には深遠で根源的な問いがある。愛する者が壊れて脅威の存在となった時、その破滅に引き込まれて大きな犠牲を払うとしても、愛する者を助け、救い出すことができるのか。X-MENは暴走する仲間をあきらめることができるのか。僕はあえて答えたい、愛する人を決してあきらめてはならないと」
X-MENのメンバーであり、テレパシーとサイコキネシスを持つジーン・グレイ役は、ソフィー・ターナーが増幅した自身のダークなパワーが制御不能となり混乱する様子を表現。強力なテレパシーの持ち主でありX-MENを組織したプロフェッサーXことチャールズ役はジェームズ・マカヴォイが、金属を意のままに動かすマグニートーことエリック役はマイケル・ファスベンダーが、あらゆるものに変身する能力を持つミスティークことレイブン役はジェニファー・ローレンスが、獣人に変身する科学者ハンク役はニコラス・ホルトが、ジーンの恋人であり目から強力な光線を発射するサイクロップスことスコット役はタイ・シェリダンが、雷や嵐、風雨などの気象を自在に操るストーム役はアレクサンドラ・シップが、音速を超えるスピードで動くことができるクイックシルバーことピーター役はエヴァン・ピータースが、テレポート(瞬間移動)能力をもつナイトクローラー役はコディ・スミット=マクフィーが、ジーンの別人格“ダーク・フェニックス”のパワーに目をつける謎の女役はジェシカ・チャステインが、それぞれに演じている。
今回はヒーローもヴィランも女性であり、この設定はコミック映画ではとても珍しいとも。監督は、「現代は女性が率いるスーパーヒーローの時代で、この物語はX-MENの歴史のなかでも、最もパワフルな女性がリードするストーリー展開となっている」とコメント。また善悪で割り切れない内容について、このように語っている。「今日の我々の社会も混乱しており、物事をわかりやすく善と悪のように二元的に捉えられない世の中になっている。まさにジーン/ダーク・フェニックスの物語そのものが、1人の女性の心の分裂、彼女に起因するX-MENファミリーの分断も含め、とても現代的で預言的だと思う」
余談ながら、本作でもMIB最新作と同じく、女性キャラクターがメインなのに、「X-ウーマン」ではなく「X-メン」であることについて、劇中でチャールズとレイブンの会話のなかで、レイブンが言い渡すシリアスなセリフとなっている。
アクションはマイケル・ファスベンダー演じるマグニートーのシーンに注目。ジーンとエリックの再会シーンで至近距離に降りてくる空軍の約1.8トンのヘリコプターも、クライマックスのシーンで登場する地下鉄の車両も、ともにCGではなく本物のヘリと車両を使用。ただ劇中では俳優が動く以上に、大きくゴツい乗り物を出演者たちの付近で動かすアクションなので、俳優たちのリスクが大きい上に観客にとってのスリルや興奮はそれほどでもない、という面もある。アクションは俳優の身体能力と動き自体を生かしたものの方が引きつけられる、と個人的に思うがどうだろう。本作ではアクションの撮影中、本番で予想外のきわどい状況があったなか集中して演じ切ったというマイケルの格好いいエピソードが素敵だ。キンバーグ監督はその時のことを感謝とともに語る。「複雑に入り組んだ撮影だった。本物の地下鉄車両がファスベンダーから数インチの所で停車した時に、壁が彼の頭の上で割れるとは思っていなかった。ファスベンダーの両側から破片が雨のように降り注いだが、彼は大胆不敵で、たじろぎもしなければ、瞬きさえもしなかったよ。本当に感謝しかない。その撮影は1度しかできなかったからね」
2019年6月7日に全米で公開した本作は、全米オープニング週末興行成績がマーベル・コミックスの映画作品として最低を記録というニュースが。実際に観て、気になったことが筆者は2つあった。暗く重くシリアス一色でコメディやジョークがほぼないこと、女性キャラクターの苦悩を描くのに、女性のリアルな視点がまったく感じられないことだ。時流に合わせて女性メインで、という向きは多いし魅力的な作品もたくさんある。例えばMIB最新作のように、女性の心情や内面について触れるのではなく、あくまで女性キャラクターの個性と演じる俳優の持ち味を生かしてストーリー全体で引きつけるのは、シンプルでわかりやすい。ただ本作のように、「女性キャラクターの内面の葛藤」という心情を物語の鍵にするのであれば、女性監督か女性のアドバイザーがしっかりと関わることが大切ではないだろうか。“X-メン”という人気シリーズで流行だから女性メイン、ということだと、男性ファンにとっても女性ファンにとってもピンとこないぼやけた感じになり、もったいない気が個人的にする。マーベルでは初の女性監督アンナ・ボーデンの手がけた2019年の映画『キャプテン・マーベル』が期待したほどの結果に至らなかったことがあるためかもしれないが、DCコミックスの2017年の映画『ワンダーウーマン』で女性監督パティ・ジェンキンスが大成功を収めたのは記憶に新しく、2019年11月1日全米公開予定の続編ではジェンキンスが監督・脚本・製作を務める、という例もあるのは周知の通り。今後はアメコミ映画でも、特に女性キャラクターをメインに描く場合は、女性スタッフを積極的に受け入れ、丁寧に連携していくようになることを期待している。
2000年から続くX-MENシリーズ最終章の行方やいかに。現在の俳優たちによるシリーズ最終章をファンの誰もが注目していることだろう。ヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンをずっと観てきた流れで見守る、筆者のような女性ファンも少なくないはずだ。そんな折、マーベル・コミックスの数々の原作を手がけ、本作の製作総指揮としてクレジットされている、マーベル・メディア名誉会長スタン・リーが2018年11月に他界。マーベル映画のこれからとともに、X-MENシリーズ最終章の展開を、いち映画ファンとして楽しみにしている。
公開 | 2019年6月21日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2019年 アメリカ |
上映時間 | 1:54 |
配給 | 20世紀フォックス映画 |
原題 | DARK PHOENIX |
監督・脚本・製作 | サイモン・キンバーグ |
製作総指揮 | スタン・リー ジョッシュ・マクラグレン |
音楽 | ハンス・ジマー |
出演 | ソフィー・ターナー ジェームズ・マカヴォイ マイケル・ファスベンダー ジェニファー・ローレンス ニコラス・ホルト タイ・シェリダン アレクサンドラ・シップ エヴァン・ピーターズ コディ・スミット=マクフィー ジェシカ・チャステイン |
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