ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

レオナルド×ブラッド×タランティーノ監督
1960年代のハリウッドに生きる男2人のバディもので、
実際に起きた殺人事件に虚実を織り交ぜ描くドラマ

  • 2019/08/30
  • イベント
  • シネマ
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

クエンティン・タランティーノ監督の4年ぶりの新作は、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの初共演による、虚実を織り交ぜた人間ドラマ。出演は、『ふたりの女王メアリーとエリザベス』のマーゴット・ロビー、『オーシャンズ8』のダコタ・ファニング、『オーシャンズ13』のアル・パチーノ、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のカート・ラッセルほか豪華なキャストが顔をそろえる。TV俳優のリックは映画への転身を目指して焦るなか、彼のスタントマンで親友のクリフに支えられ日々を過ごしている。ある日、リックの隣家に映画界のセレブ夫妻が越してきて……。1960年代のハリウッド黄金時代の音楽やファッション、人間臭いエピソードや独特のユーモアとともに描く、映画業界で生きる男2人のバディものであり、ハリウッドで実際に起きた殺人事件にフィクションの主人公2人をからめて映す人間ドラマである。

レオナルド・ディカプリオ

1960年代のハリウッド。人気のピークを過ぎたTV俳優リック・ダルトンは、映画スターへの転身を目指して焦っている。彼は付き人でスタントマン、親友でもあるタフなクリフ・ブースに支えられ、撮影やインタビュー、有力者との顔合わせといった日々を2人で持ちつ持たれつ過ごしていた。ある日、リックの隣家に時代の寵児ロマン・ポランスキー監督と新進女優のシャロン・テート夫妻が越してくる。しかし隣人でありながら、セレブ・カップルとは何の交流もないままだった。そしてリックは俳優としての巻き返しを賭けて、イタリアに渡りマカロニ・ウエスタン映画に出演することを決意し……。

映画業界で生きる男2人の友情を軸に、過渡期にある1960年代のハリウッドを描くタランティーノ監督の最新作。カラッとしたロサンゼルスの陽気さのなかに不穏なうごめきがあり、華やかさと表裏一体のむなしさやおかしさ、オフビートの笑いが随所にちりばめられている、タランティーノらしさをたっぷりと堪能できる内容だ。クライマックスのバトルシーンはお約束通り、限度を超えて激しく残虐ながら、アクションとしてリズムや愉快さ、あるキャラクターの意外な活躍、レオ演じるリックがポロッと言うセリフなど、キレと間合いの緩急がやはり格別。血みどろの過激な暴力シーンは好まないもののタランティーノ作品は別、という映画ファンは多いだろうし、筆者もまさにその感覚だ。本作でもそのスタイルが後半にガツンと効いている。この映画のストーリーは、1969年8月9日に実際に起きた“シャロン・テート殺人事件”を織り交ぜて描いている。しかし事件の実話を詳細に描くのではなく、事実とフィクションをミックスして物語として描いているのが特徴。ある意味、この事件への追悼を含むのかも、と個人的に感じた面も。タランティーノは“シャロン・テート事件”を織り交ぜて当時のハリウッドを描いたことについて、2019年8月26日に行われた来日記者会見でこのように語った。「今回描いている時代はハリウッドのカウンターカルチャーが変化している時期で、すごく面白いと思った。街だけでなく業界自体の変化もあり、シャロン・テートの事件の時間軸を入れることで、歴史的な部分も掘り下げられると思ったんだ」

ブラッド・ピット

俳優としての今後に不安を抱えるリック役は、レオが大部分の情けなさと少々のカッコよさで人間臭く表現。リックの付き人でスタントマン、親友でもあるクリフ役は、ブラッドがある暗黒の過去をもちながらも元兵士で戦争の英雄であり、ゆったりと構えて今を楽しむタフな相棒として。“友だち以上、妻未満”という2人のバディぶりが感じよく、自身の現状に満足できずに不安と焦りに渇き、いつも上や先ばかりを見ている危ういリックと、俳優としてはこのまま目が出ないままかもしれなくとも、どんな時も常に今の自分を認めて満足し地に足のついているクリフ、対照的な2人が強固に結びつき支え合うのはとてもよくわかる。彼らの関係について、ブラッドは語る。「今のように一時的な付き合いと違って、役者とスタントマンの間には、昔はもっと強い絆があったんだ。クリフとリックも、本当にお互いに頼り合っている。実際に仕事をしている時よりも、仕事がない時の方が辛かったりするものだから、そういう時に友だち、パートナーがいることはとても大事なことだった。これは、今だってそうだよね」
 そして2019年8月26日に行われたジャパンプレミアのレッドカーペットイベントにて、来日したレオはブラッドとの初めての共演と2人の役柄について、このように語った。「ブラッドはもちろん俳優として本当に優秀ですし、人間としても余裕があっていろいろ与えてくれる人。同じ時期に2人ともLAの映画界で育っていたので、演じる2つの役について非常に熟知していたし、キャラクターに非常になりやすかったです」
 タランティーノは前述の記者会見にて、レオとブラッドの起用の理由について「この2人がぴったりだったから」と言い、笑顔でこのように語った。「自分が選んだというか、彼らが選んでくれたんだ。世界中からオファーがあるなか、自分を選んでくれたことを嬉しく思う。この2人のキャスティングができたことは世紀のクーデターだと思うよ」

リックとクリフの存在はフィクションであるものの、劇中には実在の人物とフィクションが入り混ざったキャラクターが多数登場。マカロニ・ウエスタンの素晴らしさを語る引退したエージェント、マーヴィン・シュワルツ役はアル・パチーノが、スタント・コーディネーターのランディ役はカート・ラッセルが、マンソン・ファミリーのメンバーであるスクィーキー役はダコタ・ファニングが、俳優スティーブ・マックイーン役はダミアン・ルイスが、スパーン牧場の主ジョージ・スパーン役はブルース・ダーンが、それぞれに演じている。またイーサン・ホークとユマ・サーマンの娘マヤ・ホーク、ブルース・ウィリスとデミ・ムーアの娘ルーマー・ウィリスといった若手2世俳優の出演も。
 またタランティーノ作品の特徴のひとつとも言える、グッとくる魅力を放つ女性キャラクターが目を引く(ハッとするほど美しく映す決めカットが必ずある)。なかでもリックの隣人となったポランスキー監督の妻シャロン・テート役のマーゴット・ロビー、クリフの車をヒッチハイクするヒッピー・ガール役のマーガレット・クアリー(俳優アンディ・マクダウェルの娘)、リックと共演するプロ意識の高い美貌の子役トルディ役のジュリア・バターズ(現在10歳)、この3人が特に印象的だ。セレブ妻シャロン役のマーゴットは当然ながら、白のミニスカートに白ブーツ、マタニティのワンピースまでファッションがいつもキマッていてとにかくキュートでコケティッシュ。また基本ホットパンツでスラリと長い手足がキレイなヒッピー・ガール役のマーガレットは、世間知らずの10代こその向こう見ずで挑発的な生意気さに快活なセクシーさがある。そして情緒不安定なリックを数段上から冷静に見つめ、時には彼を諭し時にはいたわるかのように話す美貌の子役トルディ役のジュリアは、一切の迷いがなくプロフェッショナルすぎるブレなさと集中力が幼いながらもカッコよく、個人的には「ジョディ・フォスターの子役時代ってきっとこんな風だったんだろうな」とか思った。

マーゴット・ロビー

音楽はレコード・コレクターとしても知られるタランティーノが、音楽コーディネイターのメアリー・ラモスとともに選曲。劇中では、ポール・リヴィア & ザ・レイダーズの「Good Thing」「Hungry 」「Mr. Sun, Mr. Moon」、ディープ・パープルの「Hush」「Kentucky Woman」、ニール・ダイアモンドの「Brother Love's Traveling Salvation Show」など’60年代を代表するアーティストのナンバーが流れる。音楽の多くはカーラジオから流れるスタイルで、タランティーノも当時に聴いていたというロサンゼルスに実在するAMラジオ局KHJの“ヴィンテージ・ラジオ広告音源”もハマッている。個人的には、スウィング感のあるミッチ・ライダー & デトロイト・ホイールズの「Jenny Take A Ride」、ママス&パパスの1965年のヒット曲を、スペイン語なまりの英語とコブシでホセ・フェリシアーノが歌う「California Dreamin'」、スプリームスの1966年のヒット曲をバニラ・ファッジがカヴァーした「You Keep Me Hangin’ On」、また冒頭のロイ・ヘッド&ザ・トレイツ「Treat Her Right」をはじめ、ヘクターの「The Village Callers」、ロス・ブラヴォスの「Bring a Little Lovin'」といった、ローズ・ピアノ、ワウギターやカッティング・ギター、ブラスなどが響くグルーヴ感のあるロックといった数々の曲のカッコ良さにシビれた。サウンドトラックとしては31曲収録の2枚組CD、アナログ盤も発売と、こだわりの仕様となっている。

以前から「長編映画10作品を撮ったら引退」と宣言し、本作が9作目となるタランティーノ監督。実生活では妻の妊娠が報道され、前述の会見をはじめイベントや舞台挨拶でも、その喜びを嬉しそうに話していた。
 1960年代の古き良き時代のハリウッドや、音楽やファッションといった当時のカルチャーもたっぷりと楽しめる本作。映画をディープに愛するタランティーノは前述の会見にて、この作品の見どころと撮影で楽しかったことについて、このように語った。「この映画ではたくさん楽しいことがあって、素晴らしい俳優たちがいて、この時代やキャラクターたちに息吹を吹き込むことが素晴らしかった。一番何に満足を感じたかというと、50年間という時を逆に回して、今生きている街を、CGやスタジオを使わずに、ビジネスも普通に行われている人通りのある場所を美術や衣装などを駆使して再現できたことなんだ」

作品データ

公開 2019年8月30日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 アメリカ
上映時間 2:41
配給 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
原題 ONCE UPON A TIME… IN HOLLYWOOD
監督・脚本・製作 クエンティン・タランティーノ
出演 レオナルド・ディカプリオ
ブラッド・ピット
マーゴット・ロビー
エミール・ハーシュ
マーガレット・クアリー
ティモシー・オリファント
ジュリア・バターズ
オースティン・バトラー
ダコタ・ファニング
ブルース・ダーン
マイク・モー
ルーク・ペリー
ダミアン・ルイス
アル・パチーノ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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