イエスタデイ

目覚めたら、ビートルズが存在していないことに!?
予想外の人生にスイッチした青年が成功と愛を模索する
名曲と共にハッピーな余韻が広がるダニー・ボイル監督作

  • 2019/09/24
  • イベント
  • シネマ
イエスタデイ© Universal Pictures

「ALL YOU NEED IS LOVE」「HEY JUDE」などビートルズの27の名曲が全編を鮮やかに彩るダニー・ボイル監督の最新作。出演は、BBCのTVシリーズ「EastEnders」のヒメーシュ・パテル、『シンデレラ』のリリー・ジェームズ、2016年の『ゴーストバスターズ』のケイト・マッキノン、そして世界的な人気アーティスト、エド・シーランほか。脚本は『ラブ・アクチュアリー』『ノッティングヒルの恋人』のリチャード・カーティス、製作は同2作などで知られる製作会社ワーキング・タイトル。世界規模の停電が発生し、売れないミュージシャンのジャックは交通事故で昏睡状態に。目覚めると、この世にはザ・ビートルズが存在していないことに……!? 何もかもうまくいかない人生から一転、スターダムを駆け上る大成功の人生へ。思いがけない世界へとスイッチした主人公が、夢と成功と愛について、思い悩み逡巡しながらも自身の本心を見出してゆく。主人公が予想外の出来事に右往左往するコメディであり、たくさんの名曲と共に、観た後に明るくハッピーな余韻が広がる人間ドラマである。

ヒメーシュ・パテル

売れないシンガーソングライターのジャックが夢をあきらめたその日、世界規模の大停電が発生。その瞬間に交通事故に遭ったジャックが、昏睡状態から目を覚ますと、この世にはザ・ビートルズが世の中に存在していないことに! 混乱しながらも確認すると、手持ちのレコードからビートルズが消えていて、周囲の誰も名曲を知らない、ということにショックを受ける。そこでジャックがビートルズの曲を歌うとライブは大盛況、SNSで大反響、一気に時の人に。そして超人気ミュージシャンのエド・シーラン本人から、ツアーのオープニングアクトの依頼が。エドのツアーでのパフォーマンスも大成功、一流エージェントからメジャーデビューのオファーを受け、ジャックの長年の夢は叶うかのように思えたが……。

「これは、ビートルズへのラブレターだ」とダニー・ボイル監督が語り、子どもの頃からビートルズのファンだったという脚本家リチャード・カーティスと初タッグで作り上げた本作。脚本家ジャック・バースの原案を練り上げて脚本を書き上げたカーティスは、監督として真っ先にボイルが浮かんだものの、互いの作風がまったく異なり、同時期に活躍してきたライバルでもあることから、監督を受けてもらえるとは思っていなかったという。しかしボイルは監督のオファーを即快諾、脚本を読んですぐに気に入り、「この脚本は驚きだった」と語っている。プロデューサーのティム・ビーヴァンが2人のタッグについて語る。「1980年代後半から90年代初頭に、2人はそれぞれ『トレインスポッティング』と『フォー・ウェディング』で頭角を現した。イギリス映画で成功を収め、イギリスで映画を作り続け、自分の文化圏を題材とした作品を作る方がよいとわかっている。今回はリチャードとダニー、ビートルズの名曲、ワーキング・タイトルというイギリスを代表するクリエイティブな才能がタッグを組んだことになるね」

ヒメーシュ・パテル,リリー・ジェームズ

ミュージシャンのジャック役は、売れないシンガーソングライターから一転、“ビートルズのいない世界”で彼らの楽曲を演奏することで、“天才”として有名になる青年の喜びと戸惑いと混乱をヒメーシュ・パテルが好演。本作でヒメーシュを主役に大抜擢したことは、リバプール出身の無名の青年たちだったビートルズのメンバー、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、ジョージ・ハリスンが楽曲によって世界的な人気スターとなった逸話と重ねているとも。ジャックの才能を信じてマネージャーとして支えてきた幼なじみのエリー役は、リリー・ジェームズが健気に、“ビートルズのいない世界”でジャックにメジャーデビューをもちかけるエージェントのデブラ役はケイト・マッキノンがいかにもアメリカ西海岸のやり手として、それぞれに演じている。また俳優で司会者としても活躍するジェームズ・コーデンが、本人役として出演も。

注目は、本人役で登場するエド・シーランだ。脚本は当初、別のアーティストをイメージして執筆されたそうで、そのことについて製作のティム・ビーヴァンは笑いながら話す。「コールドプレイのクリス・マーティンをイメージして書かれたが、クリスはやりたがらなかったから。すぐにエドに打診したよ」。このことはエドも知っていて、撮影中は自分を第一候補にしなかったことについて、製作チームに何かとツッコミを入れていた、という身内づきあいの大らかさがあるのも微笑ましい。
 カーティスは「これはある意味エドについての映画なんだよ」と語り、その理由についてこのようにコメントしている。「エドとは長い付き合いで、息子のような存在だ。(ジャックは)エドと同じサフォーク出身で、私にはエドの人生のさまざまな要素がインプットされていたんだ」
 ボイル監督はエドへのオファーについて語る。「エドの人生は本作の概要そのものだ。サフォークのパブで演奏していたシンガーソングライターで、努力が実り人気に火がついて大成功を収めた。だからエド自身として出演してもらうのがベストだと思ったんだ」
 カーティスとボイル監督はエドをサフォークでの食事に招待し、出演の意思確認をしたとのこと。エドはその時点ではボイル監督を知らなかったそうで、彼が『あの人、映画監督?』と言ってグーグル検索をしたのを見た、とボイル監督はその時のことを笑いながら話している。そして出演を快諾したエドは、「リハーサルに必ず来てくれ」というボイル監督に従い、多忙ななかリハーサルに参加して「真剣に熱心にメモをとっていた(ボイル監督)」とも。これまでにエドは、『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』、TVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ 第七章:氷と炎の歌」に出演しているものの、本格的に出演するのはこの映画が初めて。今回の出演についてエドは語る。「この映画に出演して、映画作りには音楽作りよりももっと長い時間と大がかりなプロセスが必要だと知ったよ。ダニーはフレンドリーで優しく問題点を説明してくれるから、ミスをしても自分に自信をもつことができたんだ」
 またエドは本作に、この映画のために描き下ろした「One Life」とアルバムに未収録の「Penguin」の2曲を提供。「One Life」は後半のクライマックスのシーンとエンディングで、「Penguin」はジャックに即興の曲作り競争をもちかけるシーンで楽しむことができる。

ヒメーシュ・パテル,ほか

本作のサウンドトラックには、ヒメーシュ・パテルが歌うビートルズの27曲を収録(エドの2曲は未収録)。名曲の数々を劇中で使用し、俳優が映画のために楽曲を収録することについて、ビートルズのメンバーや家族から承認を得て、この映画が完成した。劇中では、タイトル曲の「YESTERDAY」はもちろん、エドのロシア公演でジャックが歌う「Back in the USSR」、またアルバム発売記念にホテルの屋上でジャックが演奏するシーンで、目まぐるしくヒートアップしてゆく音楽活動と良心の呵責によるプレッシャー、多忙ななかでもつれた恋愛に思い悩み、心の底からの思いで歌う「Help !」など、印象的なパフォーマンスが収録されている。さらに映画の終盤で「OB-LA-DI-, OB-LA-DA」が流れるシーンでは、知っている人なら誰もが「この曲でしょ!」と思うタイミングでスパッとくるストレートな気持ちよさも。
 ボイル監督は劇中の演奏について、「映画製作ではライブシーンの音楽を事前に収録して、撮影ではその音源に合わせて俳優に口パクさせることがよくあるが、それはやりたくなかった」という思いから、楽曲すべてのライブ収録を決断。技術的に非常に難しいと知りながらも、2012年の映画『レ・ミゼラブル』でアカデミー賞録音賞を受賞したサイモン・ヘイズの手腕により、すべての楽曲のライブ収録を実現した。生演奏のレコーディングにこだわった理由について、ボイル監督は語る。「オーディションでヒメーシュの演奏を聴いて、ライブでレコーディングすべきだと思ったんだ」
 24の音楽シーンすべてのライブ演奏を行ったヒメーシュについて、自身でも60歳の誕生日パーティーで6人のファン仲間と共にビートルズの楽曲40曲を5時間にわたって演奏したという筋金入りのファンであるカーティスは語る。「彼はウィットに富んでチャーミング、透明感がある。彼が演奏すると、ビートルズの曲自身がまるで呼吸しているかのように感じるんだ」
 またヒメーシュのパフォーマンスについては、エドも太鼓判を押している。「ヒメーシュ以外にジャックを演じられる俳優はいなかったと思う。『The Long and Winding Road』の歌声を聴いて鳥肌が立ったよ。あの時、これは特別な映画になると確信した」
 「The Long and Winding Road」は、劇中でエドが「Penguin」を即興的に演奏した後、ジャックがピアノで弾き語りをする前述のシーンで楽しむことができる。

撮影はイギリス東海岸全域で実施。クラクトン=オン=シーからゴールストン=オン=シーまで移動し、エドと主人公ジャックの出身地であるサフォークと、その隣接エリア、ビートルズ誕生の地であるリバプールなどにて。カーティスはサフォークについて、「イギリスの小さな田舎町で、よく知っている場所だ。エドのような大スターがここから生まれるなんて想像もつかない」と語り、ボイルは劇中でジャックがリバプールを訪れたシーンについて、このように語っている。「ミュージシャンと出身地には関連がある。その地の雰囲気や文化が彼らに音楽を作らせ、作品に影響を与える。このシーンはリバプールで撮影するべきだと思った」

時代性を取り入れて独自のメッセージを打ち出すボイル監督のスタイルに、ラブ・ストーリーの名手であるカーティスの手腕が相まって、オリジナルの作品となっている本作。カーティスとの初タッグについて、ボイル監督は喜びと共に語る。「今回、彼が脚本を書く過程に関わることができて、そして愛を信じる温かい映画を観客に届けることができて嬉しいよ。ビートルズに対する信奉は、愛に対する信奉と同じだ。リチャードにはそういった心がある」
 成功と愛について、「君ならどうする?」という問いかけを感じる本作。ありえない状況のなか、主人公が懸命に生きて思い悩んだ末に本心を打ち出す、心情の行方をきっちりと映すくだりはとても監督らしく、観ていてスッキリする。ボイル監督作品というと、観終わった後にピリッとした辛口か、ダークな苦み走った感じ、人間賛歌のような爽やかさ、といった作品が多いものの、本作はカーティス効果もあり、ほのぼのとしたハッピーと甘さが広がる感覚だ。ボイル監督は、この作品では2つのラブ・ストーリーを描いている、と語っている。「ビートルズの曲と聖書に“愛”という言葉が何回出てくるのかを調べた記事を読んだんだけど、ビートルズの曲の方が圧倒的に多かったんだよ。この映画は二重のラブ・ストーリーだ。音楽へのラブ・ストーリーと、主人公がたどるローラーコースターのような旅を通じて起こる予想外のラブ・ストーリー。ここで描く“愛”を感じてほしい」

作品データ

イエスタデイ
公開 2019年10月11日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 イギリス・アメリカ
上映時間 1:57
配給 東宝東和
原題 『YESTERDAY』
監督・製作 ダニー・ボイル
脚本・原案・製作 リチャード・カーティス
原案 ジャック・バース
製作 ティム・ビーヴァン
作曲・音楽 ダニエル・ペンバートン
出演 ヒメーシュ・パテル
リリー・ジェームズ
ジョエル・フライ
エド・シーラン
ケイト・マッキノン
ジェームズ・コーデン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。