真実

カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュが初共演
自伝本を機に、国民的女優である母とその娘の確執が深まり…
パリを舞台に家族のドラマを描く、是枝裕和監督の最新作

  • 2019/10/10
  • イベント
  • シネマ
真実© 2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

是枝裕和監督の最新作で、フランスが誇るトップ女優、『シェルブールの雨傘』のカトリーヌ・ドヌーヴと『ポンヌフの恋人』のジュリエット・ビノシュが初共演。共演は、『6才のボクが、大人になるまで。』のイーサン・ホーク、『8人の女たち』のリュディヴィーヌ・サニエほか。フランスの国民的女優が自伝本を出版。どんな内容なのかと家族や周囲の人々が気をもむなか、彼女と娘の確執が露わになり……。大物女優をめぐり、母に反発する娘、今のパートナーともと夫、娘の夫と孫娘、長年の秘書、といった人々のつながりを描き出す。撮影前に是枝監督がこの作品への思いについて、「今回は自分のなかでも最も明るい方へ振ろうと決めて現場に入りました」と語り、観た後に軽やかなトーンが広がる家族のドラマである。

カトリーヌ・ドヌーヴ,ジュリエット・ビノシュphoto L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

フランスの国民的女優ファビエンヌによる自伝本『真実』が出版され、“出版祝い”として家族や関係者が彼女の家に集まってくる。アメリカで脚本家をしている娘のリュミール、テレビ俳優である彼女の夫ハンク、夫妻の幼い娘シャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーであるジャックともと夫のピエール、彼女の公私すべてを把握する長年の秘書。自伝本の内容が明らかになると、娘は抗議、秘書は嘆き、ファビエンヌと関わりのある人々はピリピリとして混乱してゆく。ファビエンヌは「事実なんて退屈だわ」と周囲の反応など“どこ吹く風”で、新作の撮影に取り組むなか、母のライバルで親友、若くして他界したサラの名前が本に一度も出てこないことをリュミールが指摘すると、それまでまったく動じなかったファビエンヌが顔を曇らせる。

真実があまり記されていない本をきっかけに、さまざまな対立やもめごとを経て、人々のつながりが改めて結び直されてゆくまで。秘められた過去や思いにも軽妙さやいたずらっぽさがあり、フランスのスタイルへのオマージュを感じさせる。この作品は2019年の第76回ヴェネチア国際映画にて、日本人監督の映画が初めてオープニング作品に選ばれたこと、上映後に約6分間のスタンディングオベーションがあったことも話題に。オープニング作品に選出された時のコメントで、是枝監督はこの作品のテーマについて、感謝とともにこのように語っている。「キャストは本当に華やかなのですが、物語の七割は家のなかで展開していく、小さな小さな、家族のお話です。その小さな宇宙の中に出来る限りの後悔や嘘や見栄や寂しさや、和解や喜びを詰め込んでみました」
 そして同映画祭に出席した監督は囲み取材にて、本作で描いたイメージについて、このように語った。「今回は本当に軽いタッチで秋のパリの水彩画を描くように、日差しに溢れてほかほかするような読後感で、観客の方には劇場を出ていってほしいなと思っています」

ジュリエット・ビノシュ,クレモンティーヌ・グルニエ,イーサン・ホークphoto L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

尊大でマイペース、母や妻や友人としては問題がありつつも女優としては一流で、どこか憎めないファビエンヌ役は、ドヌーヴが自然体で表現。あふれでる大物オーラがそのまま役に活かされている。ファビエンヌの娘で脚本家のリュミール役はビノシュが、母とソリが合わない真面目で一本気な女性として、義母と妻という強い女性に挟まれながらも気遣いとイケメンぶりで乗り切るリュミールの夫ハンク役は、イーサン・ホークが軽妙かつ温かみをもって、夫妻の娘シャルロット役はクレモンティーヌ・グルニエが天真爛漫に愛らしく、ファビエンヌの長年の秘書リュック役はアラン・リボルが、ファビエンヌの現在のパートナーで“料理担当”のジャック役はクリスチャン・クラエが、ファビエンヌのもと夫ピエール役はロジェ・ヴァン・オールが、“サラの再来”と評判の新進女優マノン役はマノン・クラヴェルが、マノンと同じく劇中劇でファビエンヌと競演する女優アンナ役はリュディヴィーヌ・サニエが、それぞれに演じている。日本語吹き替え版の声のキャストとして、宮本信子と宮アあおいが参加しているのも注目だ。
 ドヌーヴとビノシュは今回の初共演と互いの印象について、前述のヴェネチア国際映画祭にてこのように語った。
 ビノシュ:「カトリーヌとの共演は光栄で夢のようです。『ロバと王女』は私が子どもの頃大好きな映画でした。この映画は私にとって夢の実現なのです。それに未来の頼もしい才能に出会うこともできました。私にとってとても鮮烈で、貴重な経験でした」
 ドヌーヴ:「私もジュリエットと共演したいと思っていました。彼女の映画はほとんど全部、見ています。でも不思議なことに、これまで一度も共演したことがなかったのです。初めての共演はうれしい驚きであり、待ち望んだものでした」
 ドヌーヴとビノシュとの撮影について、是枝監督は2019年10月3日に東京で行われたジャパンプレミアにて、大きな喜びと共にこのように語った。「こんな形で2人と映画を撮るなんて、撮り始めてからも現実味がなく、夢のようなことでした。こうして完成して三人で壇上に並んでいるのが、本当に信じられないです。撮影自体もパリで楽しい時間を過ごすことができ、その様子も作品へ映っていると思いますので、ぜひお楽しみください」
 そして監督は前述のヴェネチア国際映画祭にて、このストーリーへの思いについて語った。「演じることを通して、一組の母と娘が和解とは言わないまでも、お互いがお互いの人生を、つまりは自分自身の人生を少しだけ受け入れて先へと進む、女性2人の物語です。2人の周りには血縁関係だけでなくいろいろな人たちがいて、その輪が広がっていくことで、いろんな場所に魔法が使われて、その魔法には嘘も含まれているんですが、それが人と人を繋いだり、和解させたりしていくという、そのような物語を描きたいと思いました」

錚々たる顔ぶれのこの企画は、そもそもビノシュが是枝監督との映画製作を望んだことから始まった。監督は2005年以降、フランスの映画パブリシストの紹介でビノシュと何度か会い、2011年2月に来日したビノシュは監督とトークイベントで対談。その際に「いつか一緒に映画を作りましょう」と話し、アイデアのやりとりが始まったという。本作の企画にあたり、監督はフランスで映画を作るならカトリーヌ・ドヌーヴを撮りたい、ドヌーヴとビノシュという海外で最も尊敬する2人の女優の初共演を、自身の作品で母娘の物語として実現できたら、と考えたとも。脚本を練り上げていった経緯について、監督は前述のヴェネチア国際映画祭にてこのように語った。「脚本が完全に固まる前の段階で、何度もお2人にお会いして、インタビューをさせていただき、女優という人生を送られている方の生の言葉を、どのように脚本に落としていくかという作業を、継続的な信頼関係のなかで、数年に渡って行っていきました。その結実したものがこの『真実』です」
 ドヌーヴも同映画祭にて、「同じ女優でも自分とはかけ離れた人物を演じる、とても愉快な経験でした」とコメントし、是枝監督との製作の経緯、自身の役作りについて語った。「是枝監督とは脚本の初稿を読んだ後で会いました。それからパリとカンヌで会って、日本でも会いました。こんなことが1年以上続きました。面会や本読み、コメントを通して、彼が言ったように、作られていったのです。監督は映画の中で演じる人物を少しずつ私たちに近づけることを考えていました。私の場合、映画に出演する時は、人物を演じるにしても、自分というものを作品に投入します」
 そしてビノシュは「是枝監督の映画に出ることは、役者が監督に対して抱く夢を実現すること」と話し、2019年9月にスペインのバスク地方で開催された第67回サン・セバスティアン国際映画祭にて、是枝監督との仕事について熱く語った。「情熱と温かさと知性を持ち合わせた、素晴らしい是枝監督と共に仕事ができるという素敵な機会に恵まれました。14年前から映画祭などで見かけるたびに監督を追いかけてきて、ようやくこの作品の撮影に至り、夢が叶いました」

ジュリエット・ビノシュ,カトリーヌ・ドヌーヴ,イーサン・ホーク,クレモンティーヌ・グルニエ,ほかphoto L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

撮影は『夏時間の庭』や『モーターサイクル・ダイアリーズ』のエリック・ゴーティエが担当。是枝監督は自身が切望して実現した、ゴーティエの映像について「人間と空間を非常に瑞々しく撮っている。素晴らしかった」とコメントしている。また映画のなかでファビエンヌとマノンが演じる劇中劇の原作は、中国出身の作家ケン・リュウの小説『母の記億に』。劇中劇でも母と娘を描く、この映画の内容について、是枝監督は前述のジャパンプレミアにてこのように語った。「映画のなかでは母と娘が、娘と母に見えたり、昔の誰かと誰かの親子関係が見えたり、いろいろな見え方をするように重層的に作ったつもりでいるので、劇中劇も含め、注目して観ていただけると、より楽しめると思います」

フランスとアメリカの俳優を迎えて全編フランスで撮影した、是枝監督初の国際共同製作である本作。エンドロールでは、レオパード柄のコートを纏い、のんびりと犬の散歩をするドヌーヴの姿から、ゆったりとした感覚が伝わってくる。最後に、前述のサン・セバスティアン国際映画祭にて、是枝監督が伝えたメッセージをご紹介する。「この『真実』という映画は、僕が初めて日本の外へ出て、日本語ではない言語で、スタッフとキャストと一緒に作った作品です。映画のなかに何組もの母と娘が出てきます。その母と娘の関係を重ねあわせながら、映画の最後でちょっとだけ気持ちが軽やかに、温かくなるような、僕にしては珍しい作品になったんじゃないかなと思います。終わった後に劇場を出て、少し遠回りして、歩いて自宅に帰りたくような、そんな作品だと思いますので、楽しんでください」

作品データ

公開 2019年10月11日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 日本・フランス
上映時間 1:48
配給 ギャガ
原案・監督・脚本・編集 是枝裕和
撮影監督 エリック・ゴーティエ
出演 カトリーヌ・ドヌーヴ
ジュリエット・ビノシュ
イーサン・ホーク
リュディヴィーヌ・サニエ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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