マチネの終わりに

平野啓一郎の代表作を福山雅治×石田ゆり子で映画化
大人の恋愛の戸惑いやためらい、静かな強さを描く
現代社会の背景と世代的な実感とともに映すドラマ

  • 2019/10/31
  • イベント
  • シネマ
マチネの終わりに© 2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

芥川賞作家・平野啓一郎の代表作を、福山雅治と石田ゆり子の初共演で、『容疑者Xの献身』『昼顔』の西谷弘監督が映画化。共演は、『忍びの国』の伊勢谷友介、ドラマ「G線上のあなたと私」に出演中の桜井ユキ、ドラマ「セミオトコ」に出演中の木南晴夏、『海街diary』の風吹ジュン、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』の板谷由夏、連続テレビ小説「ひよっこ」の古谷一行ほか。脚本はドラマ「緊急取調室」シリーズや「ハラスメントゲーム」などの井上由美子が手がける。東京、パリ、ニューヨークを舞台に、世界的に活躍するクラシックギタリストと海外通信社に所属する女性ジャーナリストが出会い、相手の立場や心情を互いに慮り、自分たちの気持ちに戸惑いながらも惹かれ合うさまを描く、恋愛ドラマである。

福山雅治,石田ゆり子

世界的なクラシックギタリストの蒔野聡史は、パリの通信社に所属するジャーナリストの小峰洋子に出会い、強く惹かれ合う。洋子に婚約者がいると知りながら、蒔野は彼女に想いを伝える。その後、蒔野はしばらく感じていたスランプにより長く続けてきた音楽活動を見つめ直し、洋子はパリで多発するテロを取材し続けるうちにさまざまな出来事が重なり、心身の不調に苦しむ。それぞれの現実に向き合うなかで、2人の間に思いがけない障害が生じ、洋子と蒔野は決定的にすれ違ってしまう。

新聞で連載中から大きな話題となり、単行本化してからも高い人気を得ている平野啓一郎の恋愛小説を映画化。小説は、新聞連載中にWEB上でも公開、コメントを書けるようになっていたことから読者の意見交換が活発に行われ、メディアミックスで物語の人気がいっそう広がった。映画では、人生の苦悩、世界の分断や対立といった原作のテーマは要素として残しつつ、恋愛ドラマをメインに描くことにより、約2時間の尺で引きつける内容となっている。2019年10月7日に東京で行われた完成披露試写会にて、原作者の平野氏が映画を観た時のコメントについて、福山雅治は喜びとともにこのように語った。「試写会の時に、平野さんに『いかがでしたか?』と伺ったら、『自分が書いた小説の映画を観て泣けるとは思いませんでした』と言ってくれました。こんなに嬉しい褒め言葉はないなと思いましたし、同時にホッとしました」

福山雅治

クラシックギタリストの蒔野聡史役は福山雅治が、恋に落ちる大人の男を抑えたトーンで好演。福山はエレキギターとアコースティックギターはミュージシャンとしてずっと演奏してきたものの、クラシックギターは未経験だったことから特訓を受け、劇中で吹き替えなしで自身の演奏を披露。クラシックギターの指導・監修、サウンドトラックを手がけたクラシックギタリストの福田進一氏は、福山の能力について驚きとともにこのように語っている。「同じギターとはいえ、ロックとはまったく異なるクラシックギターの奏法を限られた時間のなかで習得するのは、大変な根気と努力のいる作業だったと思いますが、福山雅治という、天性の音楽家としての勘の良さ、学ばれる時の集中力の高さには目を見張るものがありました。結果として、理想の天才クラシックギタリスト蒔野聡史が誕生したと思います」
 劇中ではクラシックギターのさまざまな楽曲が流れる。数か月でクラシックギターの習得は難しいと、撮影ではギタリストの吹替を考えていたという西谷監督は、福山を称えて語る。「福山さんは爪を何度も割り、関節を痛めながらもクラシックギターとの格闘の日々が続きました。結果、心配には及ばず福山さんは100%クラシックギタリスト蒔野聡史と化しました。ぜひ、映画館で皆さんの目と耳で確かめていただけたらと思います」
 前述の福田進一氏は平野氏と以前から交流があり、原作を執筆する際に主人公のモデルとなった人物。平野氏は西谷監督との対談で、この物語における音楽について、福田氏への感謝とともにこのように語っている。「(小説は)音楽が非常に重要な作品なので、(映画の)BGMがほぼクラシックギターだけ、というのも素晴らしくて。福田さんも(演奏者として)かなりがんばってくださいました。そういう意味では、自分の夢がかなったような作品でしたね」
 劇中曲のなかでも重要なナンバーである映画オリジナル楽曲「幸福の硬貨」は、本作の音楽を担当する菅野祐悟が制作。3年前に原作を筆者が読んだ時、「幸福の硬貨」のメロディは、ロベルト・ベニーニ監督・脚本・主演による1997年のイタリア映画『ライフ・イズ・ビューティフル』のテーマ曲を思い浮かべていたので、イメージ通りで個人的に嬉しかった。

パリの通信社に所属するジャーナリストの小峰洋子役は、もともと「原作の物語が大好き」という石田ゆり子が仕事に打ち込む女性として。大人の恋愛にある戸惑いやためらい、想いの広さや深みを等身大で表現している。洋子の婚約者である経済学者のリチャード新藤役は伊勢谷友介が、蒔野の熱心なマネージャーである三谷早苗役は桜井ユキが、クラシックギター界の巨匠で蒔野の師である祖父江誠一役は古谷一行が、祖父江の娘・中村奏役は木南晴夏が、洋子の母・小峰信子役は風吹ジュンが、レコード会社勤務で蒔野の担当者であり洋子の友人・是永慶子役は板谷由夏が、それぞれに演じている。また1シーンの短い演奏ながら、濃厚な熱量を放つ音色で聴く者を引き込むギタリストとして、クラシックギター界の新鋭ティボー・ガルシアが実名で出演している。

石田ゆり子,ほか

西谷監督は、平野氏の小説をデビュー作の『日蝕』から読んできたことから思い入れもひとしおで、映画化にあたり会話、音楽、映像の三位一体を目指したとのこと。監督はこの映画への熱い思いを、平野氏との対談でこのように語った。「知性、感性はもとより、平野さんの超越的な筆力、並外れた文章力。これは、映像として具現化する人間にとってはとても、こわいこと。ただ、純文学と向き合えるというのもすごく大きなチャンス。不安と喜びが入り混じった状態でした。尊重したいと思ったのは、ダイアローグと音楽。そして心情表現をどう映像化できるか。それが勝負でしたね」
 平野氏の著書は幅広い層の読者から支持される人気作が多く、映画化のオファーはたびたびあり、平野氏もそれを歓迎しているという。しかしさまざまな理由からこれまでは実現せず、今回が初めての映画化となった。平野氏は本作の企画を聞いたときも最初は半信半疑だったそうで、同対談で映画化への思いを感謝とともにこのように語った。「原作の世界観を尊重していただき、素晴らしいかたちに仕上げていただきました。小説自体、映画にするにはかなり長いし、テーマも重層的。どこの部分をどうするかによって、原作からかけ離れたものになる可能性もあったと思いますが、映画のもっている雰囲気、全体から感じ取れる印象が、十分に生かされています。それが作者としては一番ありがたかったし、うれしかったところですね」
 余談ながら、平野氏は同対談で「実は蒔野は、福山さんほどイケメンはイメージしてなかったんです(笑)」と話していて。筆者も原作を読んだ時の蒔野のイメージは、普段はどこにでもいる中年の目立たないおじさんだけれど、クラシックギターを弾くととたんに、心身が音楽の一部となって内側からオーラが輝くような、生粋の音楽家のイメージだったので、映画の配役を知った時は「蒔野役に福山雅治はカッコよすぎかも」と淡く感じた。でも実際に映画として観ると、大人の恋愛をスクリーンで観るのに、美貌の2人だと眺めていてシンプルに楽しい、としみじみと思った。

本作は撮影監督・重森豊太郎の提案により、35ミリフィルムにて撮影。 西谷監督は手間も予算もかかるフィルム撮影をこの映画に選んだ理由について、「クラシックギターとフィルムに通底する“古典性”を見出した」という。また今回は日本映画としては大規模な海外ロケをパリにて実施。スタッフとキャストは約1カ月の間、実際に現地に赴き撮影した。空気感やリアリティを重視し、パリやニューヨークの観光名所が映る場面はほとんどないものの、セーヌ川のほとりで洋子がフランス人ジャーナリストとともに警察に取材をするシーンでは、火災に遭う以前のノートルダム寺院が映っている。そして西谷監督は本作の撮影中に得た気づきについて、平野氏との対談でこのように語った。「撮っていて再認識したのですが、充実した原作を映像化していくときには、いくつもの描いてみたくなるエンディングが生まれるんです。エンディングは閉じるのではなく、個人がその先を想像する始まりだと。この原作に出会い、再びそう思わされました」

累計発行部数50万部超の恋愛小説を、充実のスタッフとキャストで映画化した本作。平野氏は前述の対談にて、これから映画を観る人たちへのメッセージをこのように語った。「映画を観ていて、僕自身、あのふたりにもう1回再会してもらいたい、という気持ちになりました。(原作は)こうだったらよかったのにな……あのとき、なんでこうしなかったんだろう……こうしたかったのに……過去にそういう想いを抱えている人たちに強く共感された物語でした。この美しい映画をご覧になった方も、きっとそのような気持ちになると思います」
 そして前述の完成披露試写会にて、福山雅治はこの物語が伝える感覚を、観客にこのように語った。「皆さんの心のなかに、忘れられない人や思い出、傷つけてしまったことや傷つけられたことがあるかもしれません。でも、この映画を観ると、皆さんが生きてこられたなかでの大切な人や、時間ともう1度会いたくなる、そんな映画になっていると思います。どうぞ楽しんでください」

作品データ

マチネの終わりに
公開 2019年11月1日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 日本
上映時間 2:04
配給 東宝
原作 平野啓一郎
監督 西谷弘
脚本 井上由美子
音楽 菅野祐悟
出演 福山雅治
石田ゆり子
伊勢谷友介
桜井ユキ
木南晴夏
風吹ジュン
板谷由夏
古谷一行
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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