オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁

役所広司をはじめアジアの俳優陣が日中合作映画で共演
山岳アクションあり陰謀をめぐるサスペンスあり、
山に魅入られた人々の喪失と再生を描く人間ドラマ

  • 2019/11/11
  • イベント
  • シネマ
オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁© Mirage Ltd.

『三度目の殺人』『孤狼の血』の役所広司、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のチャン・ジンチュー、『オーロラの愛』のリン・ボーホンほか、日本、中国、台湾などアジアの実力派俳優たちが共演する日中合作作品。プロデュースは、ジョン・ウーの盟友として知られる『フェイス/オフ』『M:I‐2』『レッドクリフ』のテレンス・チャン、監督・脚本は、ゲーム会社Gameloft社のもと中国グローバル副総裁であり、本作が映画監督デビューとなるユー・フェイが手がける。ヒマラヤ地域の平和を守る公約を締結する会議の開催前、関係する機密文書を載せた飛行機がエベレスト南部、通称デスゾーンに墜落。ヒマラヤ救助隊「チーム・ウィングス」に、機密文書を探す依頼が入るが……。さまざまな思いや過去をもつメンバーたちが出会い、救助隊として困難なミッションにチームで挑み、ベストを尽くしていくことでそれぞれの道を見出していくまでを描く。雪山を舞台に描く山岳アクションあり、機密文書をめぐるサスペンスあり、山に魅入られた人々の心情の行方を映す人間ドラマである。

役所広司,チャン・ジンチュー

ヒマラヤ地域の平和のために公約を締結する会議の開催前、一機の飛行機がエベレスト南部、通称デスゾーンに墜落。その3日後、ヒマラヤ救助隊「チーム・ウィングス」に、インドの特別捜査官ヴィクターとマーカスから機密文書を探す依頼が入る。どこか不穏なものを感じるも、多額の報酬が財政難のチームに必要であることから、“ヒマラヤの鬼”と呼ばれる隊長のジアンは依頼を引き受ける。救助隊には新メンバーとして優秀な女性シャオタイズが加わり、腕の立つ若手ヘリパイロットのハン、お人好しで心優しいカナダ人の救助隊員ジェームズ、シェルパ族とチベット族の血を引く山岳医のタシ、救助隊エージェントで複数の言語に精通するネパール人のスヤ、メンバーたちはジアンの指揮のもと話し合い、機密文書の捜索プランに取り組む。実働はジアン、シャオタイズ、ジェームズに決定、依頼者の2人とともに、ハンの操縦するヘリでヒマラヤに降り立つ。残された時間は48時間。酸素ボンベ残量が限られるなか、過酷なエリアのデスゾーンに向けて登頂を開始。しかしある陰謀により、思いがけないことが起きる。

一見するとマッチョでシリアスないわゆる山岳アクションに見えるかもながら、群像劇としての魅力もある本作。個性豊かなメンバー同士の軽妙なやりとりといった明るくユーモラスなところ、シャオタイズの山で遭難した恋人への思い、山で亡くした娘にシャオタイズを重ねるジアンの心情など、登場人物たちの山に対するさまざまな視点が描かれているのが特徴だ。ベテラン、若手、男性、女性、いろいろな目線があることから、幅広い層が感情移入しやすい仕組みになっている。この映画のドラマ性について、テレンス・チャンは語る。「本作は、サスペンス、アクション、登山、ディザスターと、エンターテインメントの要素が詰まっていますが、ヒューマンドラマでもあります。登場人物は一見シンプルに見えますが、それぞれのキャラクターのなかに各々の大事なものや信念が詰まっているのです」

プブツニン,役所広司,ノア・ダンビー,リン・ボーホン,ババック・ハーキー

ヒマラヤ救助隊「チーム・ウィングス」の隊長を務める日系人ジアン役は、役所広司が厳しくも温かみのあるリーダーとして。無茶をするメンバーたちを時にはきつく叱咤しながらも、個性派の彼らをゆるやかに見守りサポートする懐の深さがハマッている。本作の救助シーンで役所は初のワイヤーアクションに挑戦。撮影中に27時間吊るされっぱなしになり、アザだらけになったという驚愕のエピソードも。
 優秀がゆえに救助活動で命がけの無謀な行為をやってのけるチームの新メンバー、シャオタイズ役はチャン・ジンチューが凛として。エベレストのデスゾーンで数年前に遭難した恋人の遺体を探し出すためにチームに加入し、強靭な心身の奥に秘めた哀しみ、彼女なりの決着までを繊細に表現。チャン自身の個性が活きているのか、自然体でギャップの魅力がある魅力的なキャラクターとなっている。チーム最年少で腕の立つ救助ヘリパイロットであるハン役は、リン・ボーホンが軽口を叩きつつも思いやりのあるイケメンとして。カナダ人の救助隊員ジェームズ役はノア・ダンビーが、山岳医のタシ役はプブツニンが、救助隊エージェントのスヤ役はババック・ハーキーが、機密文書の捜索を依頼するインドの特別捜査官ヴィクター役はビクター・ウェブスターが、同捜査官でヴィクターの弟マーカス役はグラハム・シールズが、それぞれに演じている。

標高8848M、氷点下83℃という過酷な条件下の世界最高峰・エベレストを描く映像は、各地で撮影。雪山のシーンはカナダで、街や空港シーンなどはネパールで、そのほかの撮影は中国で行われた。そのそもこの映画は、登山を愛する監督の愛が極まって生まれたという経緯が面白い。本作で映画監督デビューをした新鋭ユー・フェイは、ゲーム会社Gameloft社のもと中国グローバル副総裁、中国支社の創立者だった人物。ゲームプロデュースの代表作は「Order & Chaos Online」、「The Amazing Spider-Man」、「Thor The Dark world」など多数あり、小説「Mirage」をインターネット上で発表も。前職の時にプライベートで北極圏に挑みロングイェルビーンで氷壁を体験し、南極も制覇。ヨーロッパアルプスの最高峰であるモンブランに登頂し、エベレストを完登。1996年にエベレストの事故に関するドキュメンタリーに感銘を受け、さまざまな登山経験を経て2015年1月に脚本を書き始め、2016年にアルプス山脈シャモニーにて多くの登山訓練に参加し登山シーンのポスプロの準備を開始。同年、映画製作に専念するためにGameLoft社を辞めて、映画製作会社「Mirage Film」を設立。脚本と並行して絵コンテづくりを進め、2017年にキャスティングが決まり、同年末から撮影を開始、2018年4月に撮了した。ひとつの感動からそれに関わって経験を積み、脚本執筆⇒映画製作会社を設立⇒オリジナル脚本で日中合作映画を製作と、かなりダイナミックな展開だ。映画界では無名の中国人クリエイターがオリジナル脚本を自身で監督、アジアの有名俳優たちの出演ということも、テレンス・チャンとの出会いによって一気に現実化したのかもしれない。俳優陣が充実していることはもちろん、ストーリー、映像、演出がエンタメ作品として楽しめると筆者も個人的に思う。第32回東京国際映画祭の特別招待作品として2019年11月3日に東京で行われたワールドプレミアにて、フェイ監督は本作への思いを感謝とともに語った。「大好きな登山と映画を融合した作品を作ることができて、とても幸運でした」
 映画界では自身が無名でキャリアもゼロであることから、役所広司へのオファーは“ダメ元”であり、出演を快諾してくれたことがとても嬉しかったとも。同映画祭で役所がフェイ監督に、「将来、大物の監督になる予感がする」とコメントも。

チャン・ジンチュー

アジアの充実の俳優陣の顔合わせによる日中合作映画である本作。きっかけから完成まで、スタッフとキャストにある種の純粋さやシンプルな情熱があって。“好きが高じる”というのは素人っぽいように聞こえるかもしれないが、強い思いで具体的に行動し表現し続けていくことは、とても真っ当で強靭な軸になるのではないだろうか。役所広司は前述のワールドプレミアにて、本作への出演についてこのように語った。「かなり以前から、アジアの力を結集して映画を作る際は、僕もぜひ参加したいという想いがありました。アジア各国の映画人が交流して、親交を深めることで、アジア映画界がより良くなるはずだ、と思うなかで、こうしてチャンスをいただけたのは非常に光栄でした」
 フェイ監督は同じイベントにて、この作品に込めた思いについてこのように語った。「世界最高峰のエベレストには、多くの悲しみや喜びが詰まっています。その物語を、映画を通して描きたかった。この映画は『愛のために、人はどこまで行けるのか』というのが大きなテーマです」

作品データ

公開 2019年11月15日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 中国・日本
上映時間 1:50
配給 アスミック・エース
原題 Wings Over Everest(中国題:冰峰暴)
監督・脚本 ユー・フェイ
プロデューサー テレンス・チャン
出演 役所広司
チャン・ジンチュー
リン・ボーホン
ビクター・ウェブスター
ノア・ダンビー
グラハム・シールズ
ババック・ハーキー
プブツニン
声の出演 役所広司
沢城みゆき
宮野真守
神尾佑
山野井仁
俊藤光利
高木渉
細貝光司
沖原一生
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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