J・ムーア×渡辺謙×加瀬亮、日米の実力派俳優が共演
日本大使公邸占拠事件から着想を得たベストセラーを映画化
極限の状況下、敵味方に関わらず支え合うつながりを描く
『アリスのままで』のオスカー女優ジュリアン・ムーア、国内外の映画や舞台、ドラマなど第一線で活躍し続ける渡辺謙、『硫黄島からの手紙』『ライク・サムワン・イン・ラブ』など海外の監督作品に多数出演している加瀬亮ほか各国の俳優が共演。Amazonのベスト・ブック・オブ・ザ・イヤーとなったアン・パチェットの小説「Bel Canto」を、『アバウト・ア・ボーイ』のポール・ワイツが監督・脚本を手がけて映画化。南米の某国、副大統領邸で要人が集まるパーティの最中、武装したゲリラが急襲し建物を占拠、600人以上の人々が人質となってしまう。1996年12月〜1997年4月にペルーで起きた日本大使公邸占拠事件から着想を得て、対立する立場だったはずのテロリストと人質たちとの間にあった交流を描く。緊張感にさらされ続ける特殊な状況下で生まれるつながりの経緯を描く人間ドラマである。
日本人の実業家ホソカワは通訳のゲンと共に招かれた、南米某国の副大統領邸でのパーティに参加。現地の名士や各国の大使が集い、ソプラノ歌手ロクサーヌ・コスのサロンコンサートが始まるなか、突然テロリストたちが建物を急襲して建物を占拠。その場にいた要人たちを人質として、政府に対し収監中の同志の解放を言い渡す。大統領はテロリストの脅しには屈しない、という姿勢を示し、赤十字国際委員会から派遣されたメスネルは、テロ組織の指揮官ベンハミンと政府側を行き来して交渉するも双方の主張が平行線のまま膠着状態が続いてゆく。状況が長びくなか、占拠された邸内ではロクサーヌの歌をきっかけに、貧しく教育を受けられなかったテロリストの若者たちと、教養ある大人である人質たちの間に、親子や師弟や恋人のような交流が生まれ始め……。
脅す側と支配される側である、テロリストと人質。敵対的な両極の立場に分かれた集団のなかで、“ストックホルム症候群”と一般的に知られている状況がどのように生じていったかを、実話から着想を得てフィクションとして描く物語。限られた空間で決まった面々が毎日を共に過ごし、精神的にも肉体的にもストレスにさらされ続けるギリギリの状況下だからこそ、敵味方に関わらず励まし合い支え合うかのような関係が生まれてゆく経緯を映している。実際に起きた日本大使公邸占拠事件では、ペルーの首都リマにある日本大使公邸で行われていたレセプションの最中、武装組織「トゥパク・アマル革命運動(MRTA)」の14人が会場を襲撃、その場にいた621人を人質にして建物を占拠。最後まで人質として残されたのは男性72人のみで女性は全員解放され、実際には女性オペラ歌手が人質になっていない。当時の建物内ではラテン音楽などで緊張や摩擦をやわらげ、ゲリラ14人のうち幹部4人を除く若い男女10人は、ペルーの体制側である政府関係者や日本企業の駐在員たちと、日本語や料理や将棋などへの興味を通じて親しくなっていったという。(参考:プレステキスト:神奈川大学外国語学部教授、元在ペルー大使館一等書記官の小倉英敬氏のコラム)
劇中でロクサーヌが歌うアリアへの感動をきっかけに親しくなっていく登場人物の心情について、ワイツ監督は語る。「映画の最初の部分では、キャラクターたちは敵対している。しかし日常や恋愛や音楽、“死ぬかもしれない”という運命を共有し合うことで、彼らは互いに絆を結んでいくんだ」
オペラ愛好家でありロクサーヌのファンとして彼女を守る、実業家のホソカワ役は渡辺謙が、人間味のある大人の男性として。ホソカワの通訳を務めるゲン役は加瀬亮が、冷静で知的な人物として。赤十字の交渉人メスネル役はセバスチャン・コッホが、ゲリラの少年を息子のように案じるフランス大使ティボー役はクリストファー・ランバートが、コスの世話係となり、ゲンからスペイン語と英語を学ぶカルメン役はマリア・メルセデス・コロイが、武闘派テロ組織の幹部で知的な側面をもつベンハミン指揮官役はテノッチ・ウエルタが、それぞれに演じている。
劇中で多言語を流ちょうに話す通訳を演じた加瀬亮は、もともと話せる英語に加え、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ロシア語を身につけるのに、「撮影中も部屋の中で語学の勉強ばかりやっていました」とコメント。2019年10月9日に東京で行われたジャパンプレミアにて、加瀬亮は勉強漬けの撮影のなか、“謙さんが握ってくれたオニギリをいただいていた”ことや、自身の役名についてのエピソードを語った。「僕の役名がワタナベゲンで、作者の方が謙さんのファンだったからこの名前になったらしいんですけど、謙さんの前で役名を話すのは恥ずかしかったです」
「Bel Canto」とは、イタリア語で“美しい歌”の意。18世紀にイタリアで成立した歌唱法であり、声楽用語では滑らかで柔らかな声の響きを強調することとも。劇中のロクサーヌの歌は、アメリカの人気ソプラノ歌手ルネ・フレミングが吹き替えを担当。もともとは原作者のアン・パチェットが小説を執筆する際、リサーチのためにルネに連絡を取ったことから2人が友人となり、映画化にあたり本作のスタッフもルネと会い、製作への協力を得たそうだ。そしてルネは歌うシーンについてジュリアンと話し合い役作りをサポートするなど積極的に参加。監督は吹き替えの歌を録音した時に、ルネと交わしたふとした会話をそのままロクサーヌのセリフにしたとも。ジュリアンはソプラノ歌手の役作りのため、メトロポリタン歌劇場でリハーサルを見学し、「ルサルカ」の演技に参加。ルネのボーカルコーチで伴奏者でもあるジェラルド・マーティン・ムーアから指導を受け、ルネが劇中の歌を録音する時はジュリアンも立ち会い、歌い方、姿勢、動きなどを役作りに取り入れたそうだ。
2001年に出版された原作の小説「Bel Canto」は、同年のPEN/フォークナー賞とオレンジ賞(現在のベイリーズ賞)のフィクション部門最優秀賞を受賞し、Amazonのベスト・ブック・オブ・ザ・イヤーに選出された作品。全米で100万部以上を売り上げ、30の言語に翻訳されベストセラーに。原作者のアン・パチェットは1963年、ロサンゼルス生まれ。サラ・ロレンス・カレッジ創作学科在学中、長篇作品が「The Paris Review」に掲載、1992年に小説「The Patron Saint of Liars」で作家デビュー、この小説が1998年にTVシリーズ化。「Bel Canto」は彼女の長編4作目であり、2011年には「State of Wonder(邦題:密林の夢)」を出版。また同年にテネシー州ナッシュビルに書店「PARNASSUS BOOKS」を友人と共同で設立、2012年にTIME誌の“世界で最も影響のある100人”に選出された。
映画化の企画は10年前からすでにあり、世界情勢から企画が止まった状態となったものの、社会が分断されてゆくなかで「今こそ作るべき作品」という思いのもと、改めて製作されたという本作。渡辺謙はこの映画への思いを語る。「事実とは異なりますが、あの事件をモチーフにしたこの話を演じるのは勇気がいりました。911の後、世界でさまざまなテロが起きているなかで、この話が受け入れてもらえるのかが懸案となり、企画は止まっていました。時代も変化して再び始動した時、この作品は運命なのだと感じました」
本作の脚本・製作を務めるアンソニー・ワイントラーブは、この物語のテーマとその大切さについて語る。「これは人間のつながりを描いた作品だ。最も深刻な状況下で、私たちはどのようなつながりを作り、違いを乗り越え、愛を見出そうとするのか。この物語は嫌悪や暴力に目を向けるのではなく、私たちひとりひとりが同じ人間なのだということを訴えかけてくる。人は離れていくのではなく、互いに引き寄せられていくのだ」
公開 | 2019年11月15日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2017年 アメリカ |
上映時間 | 1:41 |
配給 | キノフィルムズ/木下グループ |
原題 | BEL CANTO |
監督・脚本 | ポール・ワイツ |
脚本・製作 | アンソニー・ワイントラーブ |
原作 | アン・パチェット |
出演 | ジュリアン・ムーア 渡辺謙 セバスチャン・コッホ クリストファー・ランバート 加瀬亮 |
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