TENET テネット

C・ノーラン監督がオリジナル脚本で監督・製作
名もなき男は第三次世界大戦から人類を救えるか?
時間の概念を革新的に映像化したSFサスペンス

  • 2020/09/18
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TENET テネット© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

『インセプション』のクリストファー・ノーランが「これまでで最も野心的な映画」と語り、6年ぶりのオリジナル脚本で監督・製作を手がけるSFサスペンス。出演は、『ブラック・クランズマン』のジョン・デビィッド・ワシントン、2021年に公開予定のバットマンの新作『The Batman』のロバート・パティンソン、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のエリザベス・デビッキ、『ダンケルク』のマイケル・ケイン、『ナイル殺人事件』のケネス・ブラナーほか。ひとりの男が、突然あるミッションを命じられる。時間のルールから脱出し、第三次世界大戦から人類を救え――。不可解な任務のために彼は危険な人物と接触するが……。“名もなき男”は謎のキーワード「TENET」を巡るミッションに巻き込まれてゆく。黒幕は誰なのか、その目的とは? “時間の概念”をコンセプトに世界7カ国を舞台に展開するストーリーを作り込み、車やヨットのアクション、空港での大がかりな爆破シーンなど数々のアクションで引き付ける。70ミリフィルムのIMAX®カメラで撮影した映像と振動のように全身に響くサウンドと共に、感覚と思考にビリビリと訴えかけてくるSFサスペンスである。

ジョン・デビィッド・ワシントン,ロバート・パティンソン

満席の観客で賑わうウクライナのオペラハウスで、テロ事件が勃発。罪のない人々の大量虐殺を阻止するべく、特殊部隊が館内に突入する。部隊に参加していた名もなき男は、仲間を救うために身代わりとなって捕えられ、秘密保持のために毒薬を飲む……しかし、その薬はなぜか鎮痛剤にすり替えられていた。昏睡状態から目覚めた彼は、フェイと名乗る男から“あるミッション”を命じられる。それは、未来からやってきた敵と戦い、第三次世界大戦を防いで世界を救うというもの。未来では、“時間の逆行”と呼ばれる装置が開発され、人や物が過去へと移動できるようになっていた。名もなき男は科学者と会い不可思議な事象について聞き、さらなる情報を得るために危険な人物と接触するが……。

「この物語のコンセプトは時間の概念であり、私たちが時間をどう体験するかを描いている。それを、サイエンスフィクションとスパイジャンルの要素を交えて紡ぎ上げている」とノーラン監督が語る本作。作り込んだストーリーと映像、ダイナミックなアクションの数々で引き込む内容となっている。ゴリゴリのSFでありながら、主人公と登場人物たちの会話がシニカルでユーモアを含む、有機的な味わいや魅力があるのにホッとする感覚も。そして観るうちに湧いてくる、「なぜこういう物語を創ったのか?」という疑問には、後半のクライマックスシーンの最後でさっと答えてくれるところがさすがだ。ビジュアルやサウンドのアプローチが革新的でありながら、内容は決して奇をてらっているわけじゃないのがノーラン流SFのクールなところ。“時間の逆行の概念は現代の物理学において不可能ではない”ことに基づいて映像化したという本作について、監督は語る。「この物語は根拠のある物理学に基づいている。実際に物理学者であるキップ・ソーン(重力理論、相対論的宇宙論が専門。2017年ノーベル物理学賞受賞)に脚本を読んでもらい、コンセプトについてアドバイスをもらった。科学的に正しい物語だと主張する気はないが、実際の科学にゆるく基づいて作られた物語なんだ」
 そもそも本作の構想は長い間アイデアとして監督のなかにあったそうで、“『ダンケルク』以降、より広い意味での映画製作に立ち戻りたいという気持ちと、世界中の観客を行ったことのない場所へ連れて行きたいという気持ちが重なる”タイミングが合ったことで実現したとも。また監督はスパイ・アクションへの思い入れを語る。「ずっと挑戦してみたかったスパイジャンルに取り組む準備ができたという感覚もあった。スパイ映画は小さい頃から大好きだった。フィクション映画のなかでも、楽しくてワクワクするジャンルだ。でも何か新しい風を吹き込めない限り、スパイ映画には手を出したくないとも思っていた。簡潔にいうと、『インセプション』が強盗ジャンルにもたらしたアプローチと同様に、『TENET テネット』ではスパイジャンルに影響を与えようとしているんだ」

ケネス・ブラナー,ほか

米海軍特殊部隊出身で武器に精通する主人公の“名もなき男”役はジョン・デイビッド・ワシントンが、ミッションと目の前の助けるべき人たちに集中してゆく姿を熱く表現。『ブラック・クランズマン』でもそうだったように、ジョン・デイビッドはガーディアン・エンジェル(守護天使)ふうの役がよくハマる。俳優になる以前はプロのアメリカンフットボール選手だった頑強な肉体によるアクションや格闘の迫力に加え、彼自身がもつ情の深さや人間的なあたたかさや正義感がにじみ出ているからだろうか。主人公の任務遂行をサポートする敏腕エージェントのニール役はロバート・パティンソンが、一代で新興財閥を築いたロシアの富豪で武器商人であるアンドレイ・セイター役はケネス・ブラナーが、イギリスの貴族階級の生まれで美術品の鑑定士、セイターの妻で一児の母であるキャット役はエリザベス・デビッキが、主人公にセイターの情報を伝えるイギリスの有力者クロズビー卿役はマイケル・ケインが、主人公とニールと共に計画に加わる工作員マヒア役はヒメーシュ・パテルが、科学者バーバラ役はクレマンス・ポエジーが、インドの武器商人でTENETを知る秘密組織のメンバーである女性プリヤ役はディンプル・カバディアが、プリヤが指揮する部隊のリーダー、アイブス役はアーロン・テイラー=ジョンソンが、セイターの部下ボルコフ役はユーリ・コロコリニコフが、テロ事件に潜入し負傷した主人公を助けて、新たなミッションのキーワード「TENET」を伝えるフェイ役はマーティン・ドノヴァンが、それぞれに演じている。
 実力派俳優たちによるキャラクター全員の個性が立っている本作。こうしたハードなSFだと女性の存在感が薄い場合もよくあるものの、セイターの妻キャットをはじめ、ほんの数シーンだけの武器商人プリヤも科学者バーバラも、くっきりとした印象で自分の意見や意思をきっぱりと伝えるところが小気味いい。こうしたバランス感は、ノーラン監督と監督の妻であり製作を手がけるエマ・トーマス、夫婦タッグによるところかもしれない。

見どころはやはり大がかりなアクションシーンの数々だ。CG用のグリーンバックではなく実際に組んだセットでの撮影を好み、視覚効果ではなく特殊効果を活用するノーラン監督が、70ミリフィルムのIMAX®カメラで生々しい迫力のアクションを映し出している。主な撮影はアメリカ、イギリス、エストニア、イタリア、インド、デンマーク、ノルウェーの7カ国にて。劇中の激しいカーアクションは、エストニアの都市タリンの中心部にある交通量の多い6車線の高速道路ラーニャ・ティーを8kmにわたって3週間封鎖して撮影。セイターが主人公を誘ってキャット共にヨットのレースをするシーンでは、最新式F50フォイリングカタマランをレーシングチームSailGPに所属するベテランが操縦し、時速90キロ以上のスピードで洋上を走るシーンも見ごたえがある。高層タワーにバンジージャンプで潜入するといったトリッキーな仕掛けも面白い。なかでも特に驚いたのが、空港での747ジャンボジェット機の爆破シーンだ。CGにもミニチュアにも見えないけどまさか、と思ったら、引退した飛行機を撮影のために修理→整備して実際に撮影したとのこと。製作のエマ・トーマス曰く、もともとはミニチュアと視覚効果による撮影を予定していたものの、試算したところミニチュアと関連セットを作るより、「引退した飛行機を購入した方が費用対効果が高いとわかった」そうだ。またラスト近くにメインキャストたちやスタントチーム全員が登場するクライマックスのシーンでは、数百名のエキストラが参加。そのエキストラたちは、暑さのなかフル装備の軍装で1日10時間の撮影に耐えられるように、全員がもと軍事関係者だったとも。アクションシーンでは最も危険なパートはスタントチームが担ったが、多くのシーンで俳優たち本人が撮影。ノーラン監督は俳優たちへの感謝の思いをこのように語っている。「スパイアクション映画の難しさだけでなく、ジョン・デイビッドの役は肉体的に本当に大変な役だった。その上、時間の逆行という要素が幾重にも加わってくる。それが彼に非常に大きな要求を課していた。これほどの情熱とスキルを兼ね備えた役者がいなければ、カメラで実写撮影するのは不可能だったかもしれない。この映画では本当にそう感じたよ。ジョン・デイビッドは特にそうだが、ロバート・パティンソンもケネス・ブラナーも同様だ。作品が要求する精神に彼らが身を投じれば投じるほど、カメラを使った実写撮影が可能となり、この映画の質感や没入感を作り上げることができたんだ」

TENET テネット

「頭で考えず、感じて」とは、劇中で主人公に事象について説明する科学者バーバラのセリフ(ブルース・リーの有名なセリフ「Don’t think! Feel.」を思い出す)。難解なSFでは、何もかもすべてを理解しようとがんばらずに、だいたいわかるくらいでOKとすれば、気楽に観ることができる。アルゴリズム(特定の問題を解いたり、課題を解決したりするための計算手順や処理手順)、エントロピー(熱力学)の法則といった物理学のワードは古くからSF作品の定番的なキーワードで、ストーリーの展開やルールに関わっていることが多い。すべてを完璧に把握しようとしたら物理学の勉強からスタートすることになるけれど、ストーリーを楽しむにはふんわりとわかればそれで充分だ。例えば子どもの頃からSFが好きだった筆者は、いろいろなSF作品をなんとなく観たり読んだりするうちに、ふと、あの時のあれはこういうことだったのか!とか、まったく別の作品のシーンを思い出す、といった“アハ体験”みたいなのがたまにあって、それがまた面白かったりする。時には、わからなさはそのうちにいつか解決する面白さの種でもある。この映画の物語をとことん理解したいなら何度も観ればいいし、ほかの映画やコミックや小説でもSF作品にいろいろ触れてみると、それが脳トレになってSFの世界観に入り込む感覚がざっくりとつかめて面白いと思う。もしこの映画をとことん味わいたいと思うなら、映画の日本公開日に発売となるこの映画の制作舞台裏を伝える本『メイキング・オブ・TENET テネット クリストファー・ノーランの制作現場』を手がかりにするのもいいだろう。

こうしたSFは予測を立てながら観るのが個人的に楽しくて。あの覆面はあの人だな、こういう理由かも、だから彼はこうしたんだ、とか推測して、かすった! 当たり! おお、まさか、とか思いながら観て本作も大いに楽しんだ。例えば回転する形状は時空移動のイメージがあるので、回転式の入口を見てピンときてワクワクしたりとか。
 ノーラン監督は、「まるで渦中にいるかのような、スリルを味わってほしい」という思いからIMAX®カメラでの撮影を多用したとのこと。映像で順行と逆行の両方を撮るという前例のない手法のために、IMAX社との協働による技術プロジェクトで内部構造や電気配線を新たに作り、本作のストーリーへの臨場感と没入感のある映像が実現したという。すでに公開中の全米や中国、イギリス、フランス、ドイツでも観客動員が順調で、現在は自宅で配信やDVDなどを観ることが主流になっているなか、「観客を映画館に連れ戻した」と話題になっているとも。最後に、ノーラン監督と製作のエマ・トーマス夫妻から観客へのメッセージをお伝えする。
 トーマス「観客には、この物語にいざなわれるように、逃避行を体験してほしい。ここ数カ月間、私たちは別世界への没頭体験をすることができなかった。それをもう一度、皆さんに楽しんでもらいたいわ。この映画は本当にそれを可能にする作品よ。映画館の席に座った観客の心をしっかりとつかみ、エンドクレジットが終わるまで決して放さないと思うわ」
 ノーラン「『TENET テネット』で、もう一度アクション映画やスパイ映画のジャンルにアプローチし、体験してもらいたい。私が幼い頃にアクション映画やスパイ映画を観て感じた興奮を、観客に新たな視点を提供するこの映画で感じてほしい。映画のアクションに未知の感覚を投入することで、新しい体験をしてほしい。今までにはなかった映画体験を提供したい。そう願っているよ」

作品データ

公開 2020年9月18日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2020年 アメリカ
上映時間 2:30
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 TENET
監督・脚本・製作 クリストファー・ノーラン
出演 ジョン・デイビッド・ワシントン
ロバート・パティンソン
エリザベス・デビッキ
ディンプル・カパディア
アーロン・テイラー=ジョンソン
クレマンス・ポエジー
マイケル・ケイン
ケネス・ブラナー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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