eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

パーム・スプリングス

もし同じ1日に永遠に閉じ込められたら!?
リゾートを満喫し、不条理にもがく男女を描く
陽気に疾走するタイムループ・ラブコメディ

パーム・スプリングス©2020 PS FILM PRODUCTION,LLC ALL RIGHTS RESERVED.

新人の若手監督・脚本家コンビの作品でありながら、2020年1月のサンダンス映画祭でのプレミア上映後に「同映画祭史上最高額で配給権が売買」され、同年の7月10日にはアメリカのHuluでネット配信すると「同サービス史上最も視聴された映画」となった注目作。出演は、アメリカの人気コメディ・ユニット「ザ・ロンリー・アイランド」のメンバーで、『俺たちポップスター』やドラマシリーズ「ブルックリン・ナイン-ナイン」のアンディ・サムバーグ、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のクリスティン・ミリオティ、『セッション』のJ・K・シモンズ、『セックスと嘘とビデオテープ』のピーター・ギャラガーほか。監督は本作が長編映画デビューであるマックス・バーバコウ、脚本は監督の映画学校時代からの盟友アンディ・シアラが手がける。カリフォルニア州にあるリゾート地パーム・スプリングスで、サラは妹の結婚パーティで幸せムードに馴染めずにいた。そんななか知り合った男ナイルズを追って洞窟に入ったら、一度眠ると結婚式の日の朝にリセットされる“タイムループ”に閉じ込められ……。人がもし永遠に同じ1日に閉じ込められたらどうなるか。それはどこか繰り返す日常のマンネリにも似たものがあるような? 同じ時間を何度も繰り返すSF“タイムループ”ものであり、ちょっとくたびれた(イカれた)大人たちのラブコメディである。

クリスティン・ミリオティ,カミラ・メンデス,タイラー・ホークリン,ほか

アメリカのカリフォルニア州にある砂漠の保養地パーム・スプリングス。ナイルズは恋人ミスティと泊まっているリゾート牧場の一室で目を覚ます。ミスティの親友タラの結婚式に2人で出席するのだ。一方、花嫁の姉サラは最悪の気分で目が覚める。結婚式で付添人を務めることになっているが、家族のなかで問題児扱いされてきたサラは周囲の幸せなムードに馴染めずにいた。そんななか、結婚パーティでアロハシャツと短パン姿ながらも名スピーチをしたナイルズに興味をもち、サラは彼を追って奇妙な洞窟へと入っていく。そしてふと目を開けると、サラは昨日の朝と同じベッドの上にいた。部屋を出ると、周囲がまた結婚式の準備をしていて、何もかもが昨日と同じように進んでいる。何かがおかしいと動揺し、プールでナイルズを見つけたサラは、一体何が起きているのかと詰問する。

「よくあるタイムループものだよ。みんな好きだろ?」
 へらっとしたアンディのシニカルな物言いと、ガチ切れする猪突猛進タイプのクリスティンの掛け合いが笑える本作。この作品は2020年1月のサンダンス映画祭で新進の配給会社ネオンと動画配信サービスのHuluが共同で、1750万ドル69セントで配給権を買い付けた。それまでのサンダンス映画祭の最高契約金額は『バース・オブ・ネイション』(1750万ドル)であり、69セントの記録更新が話題に(後に関係者により保証金などを含めて総額2200万ドルと判明した)。その後、新型コロナにより全米の大半の映画館が休業状態となったことから、アメリカでの劇場公開は2020年の7月10日にほぼ限定されたドライブインシアターのみとなり、同日にアメリカのHuluにてネット配信を開始。最初の3日間でHuluのオープニング視聴記録をマークし、最初の1カ月で全加入者の8.1%が視聴したとも。主演と制作を兼ねているアンディ・サムバーグは本作に参加したきっかけとストーリーの魅力を語る。「この作品では脚本をもらって、出演と可能なら制作への参加を依頼された。映画のトーンとしては、僕の得意な範囲だと思ったけど、この作品は独自性やシリアスさがあり、ジャンルを融合している。実存的な不安も描かれているね。そこにみんながワクワクしていた」

アンディ・サムバーグ,J・K・シモンズ

脚本家のアンディ・シアラ曰く、「タイプループに閉じ込められて約40年」という裏設定をもつナイルズ役はアンディ・サムバーグが陽気かつ諦めきって。ナイルズを追ってタイムループにハマったサラ役はクリスティン・ミリオティが、個性的でバイタリティーあふれる女性として。ナイルズの命を狙う謎の男ロイ役はJ・K・シモンズが、お約束通りおっかなく、味わい深い面もあるおっさんとして。ナイルズの彼女ミスティ役はメレディス・ハグナーが、サラの妹で結婚式の新婦タラ役はカミラ・メンデスが、新郎エイブ役はタイラー・ホークリンが、サラとタラ姉妹の父親ハワード役はピーター・ギャラガーが、それぞれに演じている。

パーム・スプリングスは、ロサンゼルスから東の内陸方面に車で2時間弱、約170km行ったところ。都市に近い砂漠のリゾート地であり、コーチェラ渓谷のなかあるため夏は酷暑になるものの、冬の避寒地として西海岸の人々に愛されてきたという。フランク・シナトラ、マリリン・モンロー、バーバラ・ストライザンド、エルヴィス・プレスリーが住んでいたとも。本作の撮影は製作費とスケジュール上の理由から、パーム・スプリングスではなくロサンゼルス郊外のサンタクラリタやパームデイルにて行ったそうだが、明るい陽射しのリゾート感覚や、どこか異空間のような砂漠や洞窟などいい感じの映像となっている。また劇中の音楽は、ダリル・ホール&ジョン・オーツの「When The Morning Comes」、元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルの「You Know More Than I Know」、グラム・パーソンズのカントリー・ロック「In My Hour Of Darkness」といったサウンドでどこか懐かしく。予告編では、物語のテーマに曲名と歌詞の一部がぴったりなシンディ・ローパーの「Time After Time」が流れているのも頓智が利いている(本編では流れない)。

アンディ・サムバーグ,クリスティン・ミリオティ,ほか

マックス・バーバコウ監督は、アメリカのカリフォルニア州サンタバーバラ出身。エール大学での卒業制作課題として、監督・脚本を務めて自身の養子縁組について映した長編ドキュメンタリー『Mommy, I’m a Bastard!』がサンタバーバラ国際映画祭でプレミア上映。そして監督について学び美術学修士号を取得した米国映画協会(アメリカン・フィルム・インスティチュート、通称AFI)で制作した短編『The Duke: Based on the Memoir “I’m the Duke” by J.P. Duke』がトライベッカ映画祭でプレミア上映され、ハンプトン国際映画祭とレイキャヴィク国際映画祭で賞を受賞。AFIを卒業後にキューバで2本の短編映画を制作し、現在はアクション映画『Good Bad & Undead』を監督する予定だ。そして脚本のアンディ・シアラは、カリフォルニア大学アーバイン校を卒業後、数年間にわたりインディ・ロックバンド“ザ・ヘンリー・クレイ・ピープル”のメンバーとともに国内ツアーを行っていたというユニークな経歴の持ち主。バンド解散後にAFIで学び、その時に出会ったバーバコウ監督と前述の『The Duke〜』を共同制作。その後、ドラマシリーズ「ロッジ49」の脚本などを手がけ、現在はPeacock配信の待機TVシリーズ「Angelyne」で共同製作を担当している。
 監督のマックス・バーバコウと脚本のアンディ・シアラは、AFI在学中にこの物語を着想したとのこと。コンビのデビュー作として低予算で手頃な企画を考えていたことから、初稿ではタイムループの要素はなく、「自殺するためにパーム・スプリングスに旅立った30代の男が、人生の意味を再発見していく物語」を考えていたという。その後、シアラがドラマシリーズ「ロッジ49」の脚本チームに参加して自信を強めたことで、タイムループのアイデアを取り入れたという。そして脚本を気に入ったアンディ・サムバーグが主演とプロデューサーとして参加。アンディと同じく人気コメディ・ユニット「ザ・ロンリー・アイランド」のメンバーであるアキヴァ・シェイファーとヨーマ・タコンヌも製作に名を連ね、脚本も一緒に練り上げていった。またバーバコウ監督とシアラは共にカリフォルニア育ちで砂漠の風景に愛着があり、本作の最初のアイデアもパーム・スプリングスのエースホテルで一緒に考えたという。特にシアラは自身がパーム・スプリングス近辺で結婚式を挙げていて、これまでに出席した結婚式も7割以上が同エリアだったとも。監督と脚本家が自身になじみのあるエリアをイメージし、何度も体験したシーンをもとに作り込んだことからか、観ているとどこか「あるある」という感覚がわいてくるのが面白い。アンディは本作の制作について、「最初から全員が協力し合えるという、クリエイティブな面でとても恵まれた状況だった。みんなのこの映画に対しての考え方が似ていたんだ」とコメント。バーバコウとシアラの監督・脚本コンビを讃えて、アンディはこのように語った。「この役は僕が普段演じる範囲からは少し外れていたし、低予算になることもわかっていた。スケジュールも非常にタフになるとわかっていたけど、本当に大変だったよ。でも、最終的に編集室に入った時、素晴らしい映像と演技があり、映画はうまくいっていた。迷いなく、そう言い切れる自信がある。この映画では、みんなで会った初日に『この映画を作りたい』と思った。それは大部分がバーバコウ監督と脚本のアンディのおかげだ。彼らが最初から作り上げた彼らの映画だよ」

タイムループの映画というと、桜坂洋作による同名の小説をトム・クルーズ主演で映画化した『オール・ユー・ニード・イズ・キル』を思い出す人も多いだろう。筆者は子どもの頃からSFコミックが好きだったことから、萩尾望都の短編「金曜の夜の集会」を思い出した(「SFマガジン」1980年11月臨時増刊号に初出、短編集『A-A’―SF傑作選』や文庫本『半神』などに収録)。これらのタイムループ2作品はどちらもシリアスな内容だ。『パーム・スプリングス』の場合はドラマとしてシリアスな要素もあるものの、基本的には陽気に突っ走るトーンが軽快で楽しい。また最後の最後には、ロイおじさんのオチもちゃんとあるのでお見逃しなく。気になるキャラクターの伏線を置いてけぼりにしないところも観ていて気持ちいい。コメディ作品で人気のアンディ・サムバーグが見込んだ、新鋭の監督・脚本コンビ、マックス・バーバコウとアンディ・シアラの今後の作品にも注目したい。

2021年3月26日更新

作品データ

公開 2021年4月9日より新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2020年 アメリカ・香港
上映時間 1:30
配給 プレシディオ
原題 Palm Springs
監督 マックス・バーバコウ
脚本 アンディ・シアラ
出演・製作 アンディ・サムバーグ
出演 クリスティン・ミリオティ
ピーター・ギャラガー
J・K・シモンズ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。