eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

約束の宇宙(そら)

ドイツやロシアやカザフスタンなど欧州宇宙機関の
全面協力により、「すべてのロケーションが完全に本物」
母であり宇宙飛行士である女性の視点から描く人間ドラマ

約束の宇宙(そら) ©Carole BETHUEL © DHARAMSALA & DARIUS FILMS

歴代の女性宇宙飛行士たちに敬意を捧げ、宇宙飛行士であり母親でありひとりの女性であるサラと幼い娘ステラの関係を描く物語。出演は、『007/カジノ・ロワイヤル』のボンドガールや、ティム・バートン監督作『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』『ダンボ』などで知られるエヴァ・グリーン、オーディションで約300人のなかから選出されたゼリー・ブーラン・レメル、『ハウス・ジャック・ビルド』のマット・ディロン、『ありがとう、トニ・エルドマン』のザンドラ・ヒュラー、『パーソナル・ショッパー』のラース・アイディンガーほか。監督・脚本は『裸足の季節』アリス・ウィンクール、音楽は坂本龍一が手がける。ドイツの欧州宇宙機関(ESA)で訓練中の宇宙飛行士サラは、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在するミッションに選出。ひとり親のサラは7歳の娘ステラと約1年離れ離れになることになり……。宇宙飛行士としての日々の厳しい訓練、大きなチャンスである重要なミッションに向けて集中すること、女性であることで受ける重圧や差別、幼い娘と離婚したもと夫とのこと、毎日のトレーニングと思うように関われない子育てのなかで追い詰められてゆく気持ち、さまざまなことを映す。欧州宇宙機関(ESA)の全面協力を得て、母であり宇宙飛行士である女性の視点から描く人間ドラマである。

ゼリー・ブーラン・レメル,エヴァ・グリーン

ドイツのケルン。欧州宇宙機関(ESA)で訓練中のフランス人の宇宙飛行士サラは、人類初の火星探索への最終準備を目的とする国際宇宙ステーション滞在のミッション「プロキシマ」に急遽選出される。日々訓練を続けるなかで巡ってきた大チャンスに喜びながらも、ひとり親のサラは7歳の娘ステラと2カ月後には約1年間離れ離れになることに戸惑っていた。離婚した物理学者のもと夫トマスに、学習障害のあるステラを任せられるのか、もし自分に何かあったら。サラが心配するなかステラは明るくふるまい、父のもとへと向かう。ミッションの新メンバーとなったサラは、出発前の訓練のためにロシアのスターシティへ。同ミッションのクルー2名は共に宇宙滞在経験があり、ロシア出身のアントンと会い、アメリカ出身でリーダーのマイクと顔を合わせると、マイクから露骨に邪魔者扱いをされる。2人を見返そうと、連日の過酷な訓練を好成績でこなすなか、緊張を強いられる毎日と子育てに思うように関われない焦燥のなか、心身のバランスが崩れ……。

ひとり親の宇宙飛行士サラが重要任務に選出され、7歳の娘と離れること、男性優位の世界で厳しい訓練に取り組むといったことを描く本作。宇宙飛行士が女性であり母親である場合に起きるさまざまな出来事、実際に取り組む過酷なトレーニングについて、フランス初の女性宇宙飛行士クローディ・エニュレをはじめ関係者や関係施設への取材をもとに描かれている。ウィンクール監督は本作のテーマに惹かれた理由について、幼い頃から宇宙に魅了されてきたこと、そして自身も母親であることだと語る。「私にも8歳の娘がいるせいか、自分と同じ子供のいる女性宇宙飛行士たちの親子関係について、特に心惹かれるものがありました。母と娘が離れ離れになるプロセスを、地球を離れる宇宙飛行士に重ねて探求したいと思いました」

エヴァ・グリーン

フランス人の宇宙飛行士サラ役はエヴァ・グリーンが、娘を心から愛し、仕事に誇りをもって打ち込む努力家として。エヴァはこれまで多く演じてきたミステリアスな美女とは異なりナチュラルメイクで、宇宙飛行士と同様の訓練プログラムで鍛え上げた肉体で演じている。エヴァは前述のフランス初の女性宇宙飛行士クローディ・エニュレやイタリア人初の女性宇宙飛行士サマンサ・クリストフォレッティと直接会い、関連書籍をたくさん読んで役作りをしたと語る。「準備期間中、監督からは読むべき本を沢山もらいました。また、女性宇宙飛行士のサマンサ・クリストフォレッティや、クローディ・エニュレにお会いしました。彼女たちは自らの経験を惜しげなく共有してくれて、彼女たちの苦労や葛藤について話してくれました。この仕事には尋常でない情熱、強い意志、精神力、高い身体能力を必要とすることに気づかされました。私は自らの限界を容赦なく押し広げる、宇宙飛行士たちの自己犠牲とも取れる精神に魅力を感じました」
 サラの7歳の娘ステラ役はゼリー・ブーラン・レメルが時には無邪気に、時にはアンニュイな雰囲気で大人びた感情表現をする独特の存在感で。サラのもと夫で物理学者のトマス役はラース・アイディンガーが、ステラをサポートするカウンセラーのウェンディ役はザンドラ・ヒュラーが、サラを値踏みするチームリーダーのマイク役はマット・ディロンが、同じミッションのクルーであるアントン役はアレクセイ・ファティーフが、それぞれに演じている。またモスクワのスターシティの施設で、サラやマイクに宇宙での体重の感じ方について説明するESAのスタッフ役として、フランス人として初めて国際宇宙ステーションに6カ月間滞在した宇宙飛行士のトマ・ペスケが出演している。

ウィンクール監督は女性が主人公の映画では、ヒーローであり母親であるキャラクターはほとんど存在しないのでは、という疑念に向き合ったという。「これまでの映画では、あたかもヒーローと母親が相容れないものかのように、2つの要素を1人の人物に投影したキャラクターが見当たらない。女性のスーパーヒーローは、母性や女性らしさからかけ離れた存在として描かれる傾向にあると感じていました。ESAの女性コーチによると、男性の宇宙飛行士は子どもについて誇らしげに語るのに対し、女性の宇宙飛行士は母親である事実を、まるで信頼を失うことを恐れているかのように隠す傾向があるそうです。これは完全なる社会的概念ですが、子どもは母親の責任であるという一般論が背景にあると思います」
 音楽を担当した坂本龍一は本作に寄せて、映画のテーマと楽曲についてこのようにコメントしている。「アメリカのエージェントからこのような映画があるが、興味があるかと聞かれ、なかなか面白そうだと思った。監督が女性であること、主演も女性であり、内容は母と娘の話なので、主要な部分は全て女性だ。#metoo運動以降多く取り上げられるようになったとはいえ、まだまだ女性による映画は少ないので、サポートしたいと思った。エヴァ・グリーン演ずる女性宇宙飛行士についての映画だが、内容はSF的なものではなく、母親と小さな娘の関係が中心だ。働く母親と子の複雑な関係は世界的な問題で、悩みを抱えた母親は多いので多くの女性たちの共感を得られるだろう。そのような内容なので、音楽は僕のなかでは特に女性的な優しさを強調したもので、珍しく実際の人による合唱も使った」

エヴァ・グリーン,マット・ディロン,ほか

監督は本作の制作にあたり、アメリカのNASAではなくヨーロッパを舞台に宇宙の映画を作りたいと思い、脚本を執筆するためにESAの施設に滞在。そこで監督は前述の宇宙飛行士トマ・ペスケとクローディ・エニュレに会ったという。そして、「2人とはその後の脚本執筆中も定期的に連絡を取りあっていました」とコメントしている。
 撮影は欧州宇宙機関(ESA)の全面協力を得て、ドイツのケルンにある欧州宇宙飛行士センター(EAC)やロシアのモスクワ近郊にあるスターシティ、カザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地など実際の施設にて。劇中で俳優たちが訓練に使用する小道具もすべてESAから提供された本物であり、俳優たちが行っているトレーニングは長距離宇宙飛行に人体の適応力を向上させるためのESAのプロセスとのこと。そして撮影中は監督をはじめスタッフもキャストも施設で働く宇宙飛行士やコーチたちと交流。トマ・ペスケは撮影現場に立ち会って俳優たちにさまざまなアドバイスをしてくれたとも。監督はESAでの撮影について語る。「彼らは私たちクルーを歓迎し、日常生活のあるがままを共有してくれました。この映画に登場する施設は擬似品やセットではありません。すべてのロケーションが完全に本物です」
 また映画のラストには、馬が生き生きと駆けてゆくシーンがある。このシーンはウィンクール監督がカザフスタンのバイコヌール宇宙基地にロケハンに行った時に野生の馬の群れを見て、脚本に書き入れたとのこと。劇中の映像も、「野生の馬が現れるのをあてもなく待つのは馬鹿げて」いると思いながらもバスで待機していた時に、偶然に現れた野生の馬の群れを撮影できたというから面白い。

エンディングには、実在する女性宇宙飛行士たちの写真と名前が紹介されてゆく本作。劇中では、彼女たちが宇宙飛行士の世界で、「この男性社会に参入するために2倍の努力をしなければならず、さらには女性としての存在を感じさせないよう立ち回らなければいけないのです」(監督)ということが伝わってくる。“女性初”として厳しい世界に飛び込み結果を出してきた方々、そして現在活躍している女性宇宙飛行士たちに心からの畏敬を感じた。
 本作の日本公開にあたりJAXA(宇宙航空研究開発機構)の後援を得て、宇宙飛行士・山崎直子氏がスペシャルアンバサダーに就任。山崎氏は本作の公開に向けて、このようにコメントしている。「宇宙から帰還したとき、そよ風や緑の香りに感動しました。当然のようにある空気や、身近にいる家族も、決して当たり前ではなく、とても有り難いと。完璧な宇宙飛行士なんていない。完璧な親も。周囲に支えられていることに感謝し、子供も大人も葛藤しながら成長していくのだと、心を照らす星は、案外身近に、当たり前と見過ごしてしまいそうな中にあるのだと、気づかせてくれる映画です」

2021年4月7日更新

作品データ

公開 2021年4月16日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 フランス
上映時間 1:47
配給 ツイン
原題 Proxima
監督・脚本 アリス・ウィンクール
音楽 坂本龍一
出演 エヴァ・グリーン
ゼリー・ブーラン・レメル
マット・ディロン
アレクセイ・ファティーフ
ラース・アイディンガー
ザンドラ・ヒュラー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。