ラストナイト・イン・ソーホー

現代と“スウィンギング・ロンドン”を行き来して
’60年代のファッションやヒット曲と共に描く
エドガー・ライト監督のタイムリープ・サイコ・ホラー

  • 2021/11/12
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『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライトが監督・製作・脚本を手がけ、現代と1960年代のロンドンを舞台に描く最新作。出演は、『ジョジョ・ラビット』のトーマシン・マッケンジー、Netflixオリジナルシリーズ「クイーンズ・ギャンビット」のアニャ・テイラー=ジョイ、イギリスのTVドラマ「ドクター・フー」のマット・スミスら若手俳優、そして『コレクター』のテレンス・スタンプ、『女王陛下の007』のダイアナ・リグ、『蜜の味』のリタ・トゥシンハムといったベテラン勢が顔をそろえる。共同脚本は『1917 命をかけた伝令』のクリスティ・ウィルソン=ケアンズが手がける。ファッションデザイナーを夢見るエロイーズは、ロンドンのデザイン学校に入学。ソーホー地区の古い家に住み始めると、1960年代を生きる歌手サンディの夢を立て続けに見るようになり……。エロイーズがサンディの感覚にシンクロし’60年代の世界にのめり込んでいくなか、ある出来事をきっかけにサンディの受けたショックや恐怖に呑み込まれてゆく。ロンドンとホラー映画を愛するライト監督が、’60年代のヒット曲と共に描くスタイリッシュなタイムリープ・サイコ・ホラーである。

イギリス南西部の町コーンウォールで祖母と暮らすエロイーズは、ファッションデザイナーを夢見てロンドンのソーホーにあるデザイン専門学校に入学。同級生たちとの寮生活に馴染めず、老齢の女性ミズ・コリンズが所有する家の一室を借りて1人暮らし始める。エロイーズはその夜に眠りにつくと、夢の中で’60年代のソーホーにいた。そこで歌手志望の魅惑的なサンディと出会い、彼女の夢を連日見るように。もともと霊感のあるエロイーズは、サンディの経験を体感するうちに身体感覚も心情もシンクロしていく。エロイーズは夢の影響で充実した毎日を送るようになり、タイムリープを繰り返す。しかしある日、夢のなかでサンディが殺されるところを目撃。その日を境に、現実では謎の亡霊が現れるようになり、エロイーズは徐々に精神を蝕まれてゆき……。

トーマシン・マッケンジー,ほか

英字新聞をドレスのようにかたどって着こなすエロイーズが、ピーター&ゴードンの「A World Without Love」に合わせて歌い踊るシーンから始まる本作。現代と「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれた華やかな’60年代のソーホーを舞台に、夢をもつ2人の女性の人生が交錯してゆく物語だ。陽気なトーンで始まったストーリーは、夢のなかでの事件をきっかけに不穏な影が一気に広がり、サイコ・ホラーへと転じてゆく。ホラー映画ファンにとってはオマージュを感じるシーンも多々あるだろう。ホラーが苦手である筆者のような観客にとっては、思っているより怖いシーンはコワイし長く感じる。ホラーのシーンでシンプルながら執拗なところは、夢に見そうな感じがちょっとしんどく、思わず薄目になって視線をスクリーンの隅にそらしたりした。ライト監督は、「僕はロンドンと’60年代が大好きだ」と話し、相反する思いと、本作に込めたテーマについてこのように語っている。「ロンドンには愛憎入り混じった感情を抱いている。残酷にも美しくもなる街だ。絶えず変化し続けてもいる。過去数十年を美化するのは簡単なことだ。だけど、そこには頭から離れない疑問がある。『でも本当に最高かな?』……特に女性の視点で見るとね。’60年代を生きた人と話すと、大興奮しながらワイルドな時代の話をしてくれるんだ。でも、その人たちが語らない何かのかすかな気配をいつも感じる。もし尋ねれば、彼らは『厳しい時代でもあった』と言うだろう。だから、この映画の主題は、バラ色の光景の裏に何があるか、いつそれが現れるかを問うことなんだ」
 脚本家のクリスティ・ウィルソン=ケアンズは監督と同じく、このストーリーには’60年代のロンドンへのあふれる思いがあり、それと共に別の視点も含むと語る。「(この作品は)過去へのラブレターだけど、同時に警告でもある。過剰なノスタルジーを抱いて過去を振り返ったり、いかがわしい暗部のうわべをとりつくろったりするな、という」

アニャ・テイラー=ジョイ,トーマシン・マッケンジー

デザイナーを夢見るエロイーズ役はトーマシン・マッケンジーが、純朴で繊細な女の子として。’60年代のソーホーで歌手志望のサンディ役はアニャ・テイラー=ジョイが、コケティッシュな魅力を放つ女性として表現。’60年代のソーホーで女の子たちのマネージャーをしているジャック役はマット・スミスが、エロイーズが借りる部屋の家主ミズ・コリンズ役はダイアナ・リグが、エロイーズの同級生ジョカスタ役はシノーヴ・カールセンが、エロイーズに好意をもちサポートする青年ジョン役はマイケル・アジャオが、街をうろつく銀髪の謎の人物役はテレンス・スタンプが、エロイーズの心優しい祖母ペギー役はリタ・トゥシンハムが、それぞれに演じている。
 2020年9月に82歳で他界し本作が最後の映画出演となったダイアナ・リグ、そしてテレンス・スタンプ、リタ・トゥシンハムといった’60年代のイギリスを代表する俳優たちの出演について、ライト監督は「あの時代に関わりがあり、役に合う俳優たちに出演してもらいたかった」とコメントしている。

またライト監督にとってロンドンのソーホーは、「今作の重要なキャラクター」であると話し、長年にわたって自分の作品に登場させたいと思っていた場所とのこと。その思い入れについて、監督はこのように語っている。「ロンドンへ移ってから仕事や社交の場として、ソーホーは25年の間僕の人生の大きな一部となった。建物は昔のまま、歴史的なスポットも残っているし、’60年代スウィンギング・ロンドンの震源地ともなった。多くの意味で思い入れの深いところなんだ」
 本作の撮影は実際に街で行われ、ディーン・ストリート、フリス・ストリート、グリーク・ストリートなどにて。そしてエロイーズのバイト先は、歴史あるアイリッシュ・パブ「ザ・トゥーカン」となっている。活気のある街の様子は、当時の服を着たエキストラや、当時の車などを使い、CGではないことが監督のこだわりだ。今回の撮影について監督は語る。「ソーホーは近年急速に変わっている。にもかかわらず、’60年代のソーホーをスクリーンで再現できたのはうれしい。今でも心臓部のいくつかの場所がそのまま残っている。残念ながらカフェ・ド・パリは現在閉鎖され営業はしていない。だが実際の場所で撮影したシーンは多いので、事実を知ったら多くの人は驚くと思う。カフェ・ド・パリの内部撮影はセットを使った。予算の上でセットの方が現地ロケよりも安かったから。でも本物そっくりで、当時を知っているダイアナ・リグも驚いていたよ」
 ライト監督はこの作品の製作にあたり影響を受けた作品について、ロマン・ポランスキーの『反撥』(1965)やニコラス・ローグの『赤い影』(1973)などをあげて、’60年代イギリスのファッション、映画、音楽への愛をめいっぱい詰め込んだ、とも。そして劇中では、エロイーズが最初に見た夢のなかで、映画館に1965年の映画『007/サンダーボール作戦』が上映中という巨大ポスターがでてくるシーンも(ダイアナ・リグがボンドウーマンとして出演した『女王陛下の007』は1969年の作品)。その後のシーンで、サンディが「飲み物は?」と聞かれて「ヴェスパー(・マティーニ)」と答えるところは、007の女優さながらストレートに気取っている感じが、小生意気でかわいい。

アニャ・テイラー=ジョイ,マット・スミス

劇中の楽曲のセレクトが冴えているのは、ライト監督作品の大きな特徴のひとつ。本作でも、冒頭に流れるピーター&ゴードンの「A World Without Love」、かの有名なペトゥラ・クラークの「Downtown」、ザ・キンクスの「Starstruck」、シラ・ブラックの「You’re My World」「Anyone Who Had A Heart」、ザ・フーの「(Love Is Like A) Heat Wave」、そしてエンディングには映画のタイトル曲であるデイヴ・ディー・グループ(正式名:デイヴ・ディー、ドジー、ビーキー、ミック&ティック)の「Last Night in Soho」など’60年代イギリスの名曲がたっぷりと楽しめる。本作の選曲について、ライト監督は生き生きと語る。「2人の女性が中心になっている映画なので、エロイーズとサンディをインスピレーションとして、シラ・ブラック、ペトゥラ・クラークなど、’60年代の女性シンガーを中心に選んだ。彼女たちの曲には、明るくてもどこかメランコリーな気持ちが込められていて、歌詞もどこかビター・スウィートで、それが僕にとっては魅力だったんだ。またその点もこの映画にぴったりだよね」

’60年代のロンドンのソーホーを彩るファッションや音楽やインテリア、エネルギーに満ちた当時の雰囲気をスクリーンで楽しめる本作。新型コロナウィルスによるパンデミックにより、本国イギリスでのこの作品の公開は2020年9月から約1年後に延期となり、2021年10月にようやく公開された。ライト監督は「観客の皆さんがお気に入りの劇場でこの作品を鑑賞するのが待ち遠しいです」と話し、より一層高まったという気持ちを込めて、このようにメッセージを伝えた。「今作は、大きなスクリーンで鑑賞、体感するために作りました。製作過程で、映画ファンにとって鑑賞が完全な体験となるようにすることを目指しました。パンデミックで劇場が閉鎖されたことで、世界中の劇場が再びオープンした今、私が意図した通りに観客に楽しんでもらいたいという思いが強くなりました」

作品データ

公開 2021年12月10日よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
制作年/制作国 2021年 イギリス
上映時間 1:58
配給 パルコ ユニバーサル映画
原題 LAST NIGHT IN SOHO
監督・製作・脚本 エドガー・ライト
脚本 クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
出演 トーマシン・マッケンジー
アニャ・テイラー=ジョイ
マット・スミス
テレンス・スタンプ
マイケル・アジャオ

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