eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

ハウス・オブ・グッチ

レディー・ガガ主演×リドリー・スコット監督
GUCCI創業者の孫マウリツィオ暗殺事件を描く
実話から着想を得たスタイリッシュなサスペンス

ハウス・オブ・グッチ© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

1995年にミラノで実際に起きた、GUCCIの創業者の孫で3代目社長マウリツィオ・グッチ暗殺事件をもとに、リドリー・スコット監督が映画化。出演は、一流アーティストであり映画出演は今回が2作目となる『アリー/スター誕生』のレディー・ガガ、『スター・ウォーズ』シリーズのアダム・ドライバー、『ゴッドファーザー』のアル・パチーノ、『ジャスティス・リーグ』のジェレミー・アイアンズ、『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャレット・レト、『エターナルズ』のサルマ・ハエックほか豪華なメンバーが顔をそろえる。1995年3月、GUCCIの社長マウリツィオ・グッチが銃殺される。捜査線上にマフィアや一族関係者などの容疑者があがるなか、実行犯の黒幕は彼の妻パトリツィア・レッジャーニと判明した――。愛憎と野心、退廃と裏切り、執念と暗殺、同族経営のなかで誰が大きな資産を継ぎ、ブランドビジネスをどのように展開していくのか。充実のキャストによる演技、ゴージャスなファッションが目を引く、実話から着想を得たスタイリッシュなサスペンスである。

1978年、イタリアのミラノ。父が経営する運送会社の経理を手伝っていたパトリツィアは、パーティでマウリツィオ・グッチと出会う。これまでに見たこともない上品な物腰で上流階級の男性である彼に強く惹かれたパトリツィアは、待ち伏せをするなど積極的にアプローチして付き合い始める。やがて結婚となると、マウリツィオの父ロドルフォに「財産目当て」と反対されるも、それを押し切り2人は結婚。ロドルフォの兄でGUCCIの実質上のトップであるアルドは、パトリツィアとマウリツィオ夫妻をニューヨークに招き、結婚を祝う。マウリツィオは家業に興味がなかったものの、パトリツィアは懇意にしている占い師ピーナの助言で夫を説得。妊娠をきっかけに夫妻はニューヨークへ移り住み、マウリツィオはアルドのもとでGUCCIの仕事を始める。その後、ロドルフォが他界してマウリツィオが財産の半分を相続すると、パトリツィアの言動は徐々に支配的に。彼女はアルドの息子でデザイナー志望のパオロや、ワンマン経営を貫くアルドを排除するべくマウリツィオをけしかけ、グッチ一族は崩壊してゆく。マウリツィオは妻への愛情に冷めてゆき、気の合う友人パオラと再会したことから離婚を決意。パトリツィアは占い師ピーナに相談し……。

アダム・ドライバー,レディー・ガガ

ファッション・ブランドGUCCI創業者グッチオ・グッチの孫であり、3代目社長マウリツィオ・グッチの暗殺事件と、そこに至った背景を描くサスペンス。大きなビジネスと財産を巡る攻防や陰謀、家族の愛憎、ブランドの栄枯盛衰、脱税や公文書偽造など、いわゆる“華麗なる一族”の物語はあまりにも劇的で、実話ベースということに驚かされる。原作はサラ・ゲイ・フォーデンによる2001年の『The House of Gucci: A Sensational Story of Murder, Madness, Glamour and Greed(邦題:ハウス・オブ・グッチ 上・下)』であり、20年前にプロデューサーのジャンニーナ・スコット(監督の妻)がこの本に強く惹かれたことをきっかけに映画化の企画を進めてきた。レディー・ガガの出演は、パトリツィアが極めて重要な役という観点から、スコット監督をはじめ製作陣は彼女しかいないと確信していたという。スコット監督はレディー・ガガについて、「恐ろしい才能を持った人だと思った。エンターテイナーとしても、歌手としても、自身のショーのプロデューサーや脚本家としても、クリエイティビティの塊だ」と称している。

グッチ家に嫁ぐパトリツィア・レッジャーニ役はレディー・ガガが、望む結婚をした野心家の若い女性から、膨れ上がっていく欲望と共に突き進み、どす黒い狂気に呑み込まれてゆくさまを熱演。パトリツィアと結婚した夫、GUCCI創業者グッチオ・グッチの孫であるマウリツィオ・グッチ役はアダム・ドライバーが、影響を受けやすく流されやすい御曹司が勉強家で純情な青年からこじらせた大人の男性となってゆくさまを、説得力をもって表現。マウリツィオの父ロドルフォ役はジェレミー・アイアンズが、ロドルフォの兄で経営のトップに立つアルド役はアル・パチーノが、その息子パオロ役はジャレッド・レトが、パトリツィアが依存する占い師ピーナ役はサルマ・ハエックが、ロドルフォとマウリツィオ父子が信頼する財務顧問のドメニコ・デ・ソーレ役はジャック・ヒューストンが、マウリツィオの昔からの友人パオラ役はカミーユ・コッタンが、それぞれに演じている。
 アダムは劇中の“誘惑”というテーマについて語る。「マウリツィオはパトリツィアに誘惑され、その後権力とプライドに誘惑される。初めは間抜けな感じだが、次第にエレガントさを身に付け、自信がついて高価なスーツも似合うようになってくる。しかし実際には誘惑に負け、いけないと思っていた行動をとってしまう」
 毎日4時間以上の特殊メイクで禿げたおじさんへと変身したジャレッドは、映画のなかのさまざまなテーマについて語る。「権力、家族や情熱、アート、クリエイティビティ、そしてもちろんファッションもテーマと言える。間違いなく、忠誠と裏切りもテーマだ。私自身、このストーリーにショックを受けたので、観客の方々も驚くと思う」

レディー・ガガ

この映画ではファッションと俳優たちの着こなしが見どころのひとつ。パトリツィアの衣装のうち2着はグッチのアーカイブコレクションを使用。ひとつは彼女がニューヨークのダウンタウンにグッチ商品の偽物を見に行くシーンで着用。もうひとつは彼女が娘を学校に迎えに行く時に着ている、Gが2つ重なったロゴのシャツとレザースカートのアンサンブルだ。劇中で70スタイルの衣装を着たレディー・ガガは、試着の時にアクセサリー、バッグ、靴などを衣装デザイナーのジャンティ・イェーツと一緒に考え、私物を持ってきて使用したこともあったという。また宝石のほとんどは、ローマのトップ宝石商から借りたなか、ブシュロンやブルガリが貴重な宝石を提供されたこともあったそうだ。パトリツィアの靴はローマの靴メーカー、ポンペイによるオーダーメイドで、パトリツィアのウェディングドレスはレースひとつひとつから手作りをして実際のものよりも華やかに仕上げ、イタリアで愛される女優ジーナ・ロロブリジーダへの敬意を表すデザインとなっている。2021年11月9日に開催されたロンドンプレミアにて、ガガがまとっていた紫色のやわらかなプリーツドレスは、アレッサンドロ・ミケーレが発表した「GUCCI LOVE PARADE」コレクションより初お披露目となったことも話題に。同イベントでは、長年GUCCIのミューズを務めていてミケーレとも親しいジャレッドはターコイズ色のベルベットスーツに心臓モチーフのバッグを合わせ、サルマもGUCCIのゴールドドレスを着こなしていた。
 また男性陣の衣装のほとんどはオーダーメイド。アダムの整ったスタイルについて衣装担当のイェーツは、「彼のスタイルに合う衣装は、どれほど良い既製品でもなかなか見つからなかった。身長が189 cmで肩幅が広く、胸は厚いのにウエストはすごく細い」とコメントしている。ただアダムやアル・パチーノのスーツは、一流ブランド、ゼニアのものも使用しているという。ジャレッドの衣装はダンディなイメージで、イタリア・ナポリのサルトリア・アットリーニでオーダーし、だいたいのシャツはビバリーヒルズのアントでオーダーメイドしたそうだ。そしてブラック・シーンの1992年のヒット曲「How Gee」が高らかに響く1995年のトム・フォードのファッションショーをはじめ、1984年のヴェルサーチといったライバルデザイナーのファッションショーの衣装などはアシスタント・デザイナーのステファノ・デナーディがすべて作り上げた。また、楽曲はドナ・サマーの「I Feel Love」、ブロンディの「Heart of Glass」、ジョージ・マイケルの「Faith」などなど、当時のヒットナンバーがちりばめられている。

ファッションを家業とするグッチ家の1978〜1995年を描き、’70年代、’80年代、’90年代と時代が移り変わっていく本作。プロダクションデザインのアーサー・マックスは、各時代に即したビジュアルとなるように当時の雑誌、写真、ドキュメンタリー動画など多くの資料を見てリサーチした。撮影はローマ周辺、ミラノ、コモ湖周辺などにて。劇中のロドルフォの家は、以前はイタリアのミシンメーカー、ネッキ家の住宅であり、現在ではミュージアムになっているミラノのヴィッラ・ネッキで撮影。アルドのイタリアの家は、15〜16世紀頃にローマの大司教が住んでいたというコモ湖近くにあるルネサンス期のパラディアン様式の住宅にて。パオロのデザイン・スタジオは、ローマのトラステヴェレ近くにあるアパレルのデザイン・スタジオで撮影された。車は’60年代のメルセデス・ベンツ300SLや’70年代のフェラーリGT4、1971マセラティ・インディや、ポルシェ・タルガ、289エンジン搭載の1968マスタング・コンバーチブル、ランチア・テーマなどを使用。メーカーの歴史博物館からの提供で借り受けた1991 ランボルギーニ・ディアブロ、オリジナルは世界に6台しかない1969 Cタイプのジャガーは、この映画のためにレプリカを特別に制作したとも。

アダム・ドライバー,レディー・ガガ

ガガはパトリツィアについて、脚本を読んで初めて知ったとのこと。「彼女が共謀した邪悪さを、私は本質的に支持しない」としながらも、本作のキャラクターとして惚れ込んだと語る。「この作品において、私たちはある女が崩壊していく物語を観るのだと思う。彼女については、ある意味、女だけが理解できる物語だと思うわ。でも映画『ハウス・オブ・グッチ』が素晴らしいのは、伝説的な監督リドリー・スコットが、ある家族についての作品を作ったということ。イタリア人一家で、そのイタリア人一家のビジネスについて、そして1人の女がそのビジネスに参入しようとするとどうなるか、そして男たちがそれを阻止する様についてよ」
 こうしたガガのコメントをはじめ、映画の内容について、実際のグッチ家が2021年11月29日に「当惑している。映画はまったく正確ではない物語を伝えている」と「ANSA」に抗議の声明を発表。「Variety」によると、「映画の内容だけでなく、出演者の発言においても、(パトリツィアが)男性優位主義の企業文化のなかで生き延びようとする犠牲者として描かれている」と指摘し異議を唱えている。そしてスコット監督はBBCラジオに「グッチ家の1人は殺され、もう1人は脱税で刑務所に入ったことを忘れてはならない」とコメントしている。またGUCCIのもとクリエイティブ・ディレクターのトム・フォードは、2021年11月27日にデジタルマガジン「AIR MAIL」で、「私の意見はおそらく偏っている」と前置きをしながらも、脚本について「大金をかけたメロドラマ」と痛烈に批判。「ガガと(アダム・)ドライバーをはじめキャスト全員による力強い演技、完璧な衣装、見事なセット、美しい撮影」と称賛し、ヒットするだろうとしながらも、4年間一緒に仕事をしたマウリツィオをはじめ登場人物たちを実際に知っていることから「数日間、非常に悲しかった」と複雑な心境を吐露した。

実際のパトリツィア・レッジャーニはマウリツィオ・グッチ殺害の主犯として1997年1月に逮捕。懲役26年の有罪となるが、模範囚として2017年に保釈。逮捕される時に、「毛皮と宝石は私についてくるの」と言ったとか、「自転車に乗って幸せになるより、ロールスロイスに乗って泣いている方がいい」とか、有名な発言も多数、入獄中の暮らしぶり、出所後に離婚の違約金をグッチ家からもぎとり、実の娘2人と裁判になるなど、“黒い未亡人”の異名を裏付けるエピソードは枚挙にいとまがない。彼女も当初は紳士的なマウリツィオに恋をして、男性優位社会で生き抜く女性のいじらしさもゼロではなかっただろうし、殺人を犯す前までの行動すべてが悪行ではなかっただろうけれど、パトリツィアが愛に破れた悲運の女性であり金目当てではないと断言することが本当にできるだろうか。それはどうだろう、と個人的には懐疑的だ。衝撃的な実話を作品にするには特に、物語としての面白さや今日性の追求のみならず、モデルとなる人々や関係者への丁重な説明や配慮が必要であると改めて考えさせられる。映画としては、俳優陣のすばらしい共演やスタイリッシュな衣装や美術を堪能できることは事実だ。スコット監督は本作のストーリーについて語る。「興味を引く家族の歴史だ。グッチ一族はファッション界におけるイタリア王室のような存在で、家族内から破滅が始まり、拡大した。面白くないわけがない」
 プロデューサーのケヴィン・ウォルシュは、観客へのメッセージとこのストーリーの教訓について語る。「観客の方々が本作品の芸術性を楽しめるといいと思う。ストーリーという観点では、金がすべてではないというモラルを持ち帰ってもらえるのではないかと思う。権力や欲にこだわりすぎると、それらに足を引っ張られることになる」
 そしてレディー・ガガはこの映画のエンターテインメント性を称えて、このように語った。「この作品を観ると、純粋によい時間を過ごせるのではないかと思うの。起伏の激しい展開で、どのシーンも楽しめる。リドリーは芸術的なアプローチで製作するけれど、最終的には観客が楽しく過ごしてほしいという思いで魔法をかけているのよ」

参考:「ANSA」、「Variety

2021年12月10日更新

作品データ

公開 2022年1月14日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2021年 アメリカ
上映時間 2:39
配給 東宝東和
原題 HOUSE OF GUCCI
監督・製作 リドリー・スコット
脚本 ベッキー・ジョンストン
ロベルト・ベンティヴェーニャ
原作 サラ・ゲイ・フォーデン
出演 レディー・ガガ
アダム・ドライバー
アル・パチーノ
ジャレッド・レト
ジェレミー・アイアンズ
サルマ・ハエック
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。