フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

ウェス・アンダーソン監督×豪華キャスト
フランスの雑誌編集部で急逝した編集長に捧ぐ
個性的な記者たちによる最後の記事の内容とは?

  • 2021/12/23
  • イベント
  • シネマ
フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

『グランド・ブダペスト・ホテル』のウェス・アンダーソン監督最新作。出演は、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のベニチオ・デル・トロ、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のジェフリー・ライト、そしてアンダーソン監督作品の常連である『美女と野獣』のレア・セドゥ、『ノマドランド』のフランシス・マクドーマンド、エイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントン、シアーシャ・ローナン、マチュー・アマルリック、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、リーヴ・シュレイバー、エドワード・ノートン、ジェイソン・シュワルツマンほか、とても豪華な顔合わせで。20世紀フランスの架空の街に編集部をおく「フレンチ・ディスパッチ」誌は、急死した編集長の遺言により廃刊が決定。編集長が大切にしていた才能豊かで曲者ぞろいの記者たちは、追悼号にして最終号を渾身の記事で仕上げていく。映像へのこだわりを軽妙に表現し、誌的な味わいがありポップでカラフル、画面を眺めているだけでもじわじわと楽しくなる。雑誌や映画、フランスのカルチャーへの愛をたっぷりと詰め込んだ、ウェス・アンダーソン式の群像劇である。

アメリカの新聞「カンザス・イヴニング・サン」の別冊で、フランスの街アンニュイ・シュール・ブラゼに編集部を構える、雑誌「フレンチ・ディスパッチ」。アメリカ生まれの名物編集長アーサーが集めた、才能豊かで曲者ぞろいの記者たちが活躍し、独自の視点によるオリジナルの記事で50か国50万人の購買者を獲得している。しかし編集長が仕事中に心臓まひで急逝し、「フレンチ・ディスパッチ」は彼の遺言により廃刊が決定。編集長の追悼号にして最終号には、向こうみずな記者エルブサンが自転車で街の過去と現在を紹介するレポートと、美術界の表も裏も知り尽くすJ・K・L・ベレンセンの「確固たる名作」、高潔なジャーナリストであるルシンダの「宣言書の改定」、祖国を追放された孤独な博識家ローバックによる「警察所長の食事室」という3つの記事が載ることになり……。

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

街の紹介、芸術の数奇な運命、恋と青春と学生運動、フィルム・ノワール風の事件など、さまざまな面白さがぎっしりと詰まったウェス・アンダーソン監督の10作目となる最新作。期待に応えるオフビートのニュアンスや自由な展開、ぬくもりのある雰囲気はもちろん、さまざまなディテールにおいて盛りだくさんの楽しい要素に満ちた内容となっている。アンダーソン監督は本作の着想について、「これは『ニューヨーカー』と、出版界で著名な記者たちにインスパイアされた映画だ」とコメント。監督が高校1年生の時に図書館で、表紙のイラストに惹かれて雑誌『ニューヨーカー』を読み始めたところ、ハマったとのこと。アンダーソン監督作品の常連俳優で、学生時代からの親友であるオーウェン・ウィルソンはそのハマりぶりについて、このように語っている。「大学で相部屋だったとき、アンダーソンはいつも『ニューヨーカー』を読んでいました。珍しいですよね。本当に熟読していました。物書きの卵には嬉しい贈り物ですよね」

人情家で記者たちを大切にしている「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集長アーサー役はビル・マーレイが。どこにでも自転車でゆき独自の視点で街をレポートする無鉄砲な記者エルブサン・サゼラック役はオーウェン・ウィルソンが。最終号で、記事「確固たる名作」を執筆した、美術批評家である記者ベレンセン役はティルダ・スウィントンが、その記事に登場する人物として、服役中の凶悪犯であり天才的な画家モーゼス役は、アンダーソン監督が長年「映画を撮りたい」と起用を願っていたというベニチオ・デル・トロが、やり手の画商ジュリアン・カダージオ役はエイドリアン・ブロディが、モーゼスの絵のモデルであり看守のシモーヌ役はレア・セドゥが。同誌の記事「宣言書の改定」を執筆した、ジャーナリストのルシンダ役はフランシス・マクドーマンドが、その記事の登場人物として、学生運動のリーダーであるゼフィレッリ役はティモシー・シャラメが、学生運動の会計係ジュリエット役はリナ・クードリが。同誌の記事「警察所長の食事室」を執筆した、美食を追求する孤独な記者ローバック役はジェフリー・ライトが、その記事の登場人物として、1人息子と美食を愛するシングルファーザーの警察署長アンニュイ役はマチュー・アマルリックが、アンニュイの部下の警察官であり伝説的な名シェフであるネスカフィエ役はスティーヴン・パークが、運転手ジョー役はエドワード・ノートンが、それぞれに演じている。さらにナレーターをアンジェリカ・ヒューストンが務め、シアーシャ・ローナン、ウィレム・デフォー、クリストフ・ヴァルツ、ジェイソン・シュワルツマンらたくさんの俳優たちが出演。また実際に画家やイラストレーターとして活動していて、この映画のポスターでイラストを手がけているジャヴィ・アズナレツも、「フレンチ・ディスパッチ」誌の表紙イラストを担当しているデザイナーとして出演している。

リナ・クードリ,ティモシー・シャラメ,ほか

劇中のキャラクターの一部にはモデルがいると監督は語る。編集長アーサーのモデルは、雑誌「ニューヨーカー」の創業メンバーであるハロルド・ロスと彼の後継者ウイリアム・ショーン。記者エルブサン・サゼラックのモデルは、「Up In The Old Hotel」「オールド・ミスター・フラッド」などの作家ジョゼフ・ミッチェルや、監督の愛読書「The Other Paris」の著者リュック・サンテ。美術批評家の記者ベレンセンのモデルは、美術ジャーナリストのロザモンド・ベルニエ。画商ジュリアン・カダージオのモデルは、画商ジョゼフ・デュヴィーン(『ニューヨーカー』の記事から単行本となったS・N・バーマンの『画商デュヴィーンの優雅な商売』より)。ジャーナリストであるルシンダのモデルは、パリ5月革命について執筆したカナダ人作家メイヴィス・ギャラントであり、「劇中の記事『宣言書の改定』は彼女へのオマージュ」と監督はコメント。記者ローバックのモデルとしては、「アメリカの作家ジェイムズ・ボールドウィンが少し、A・J・リーブリングは大いに、テネシー・ウィリアムズも少し入っている」と監督はコメントしている。

本作の美術セットは約130あり、アンダーソン監督作品のなかで最も多いとのこと。美術スタッフをはじめ、看板や背景を描く職人たちが活躍し、再利用できる資材を有効活用して知恵と工夫でつくり上げていった。監獄の壁に描かれた10幅の巨大なフレスコ画の連作は、ティルダ・スウィントンの実際の伴侶である芸術家サンドロ・コップが描いたそうだ。
 編集部のある架空の街アンニュイ・シュール・ブラゼは、フランスの街アングレームで撮影。ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏の南西部、シャラント県「ロケ地区」のなかにあるエリアで、街の中心部にある古いフェルト工場を借りて撮影スタジオにした。美術のアダム・ストックハウゼンは街の印象を語る。「アングレームには丁度良い経年感と建築があった。奇麗な画になったし、パリやリヨンや他のフランスの街を思わせるところもあった」
 この映画はアンダーソン監督にとって、自身が拠点にしているフランスの映画、文学、文化へのラブレターでもあるとのこと。本作で音楽を担当しているフランス生まれの作曲家アレクサンドル・デスプラは、映画全体の風合いについて語る。「監督の頭を通したイメージだから少し歪んでいる。フランスと言えるけれど、詩的なフランスだ。これが本物のフランスかと問われれば、違う。けれど、どういうわけか、フランスなんだ」
 撮影は、アニメーション映画を除くこれまでのアンダーソン監督作品と同じくフィルムにて。劇中ではカラー、モノクロ、ストップモーション、アニメーションとさまざまな映像が楽しめる。なかでもかわいさで目を引くのは、アニメーションによる「警察署長の食事室」のクライマックス。曲芸的なデフォルメした動きを派手に表現し、アニメならではの特性が生きている。ロケ地のアングレームが“漫画のメッカ”であることから、この場面はすべてアングレームでアニメーションを学んだスタッフが作成した、というこぼれ話もどこか心が温まる。

ベニチオ・デル・トロ,レア・セドゥ,ほか

アンダーソン監督が雑誌『ニューヨーカー』と記者たちに着想を得て、フランスのカルチャーへの愛も表現した本作。思えば、今年はジャーナリストに関わるニュースがいろいろあった。2021年6月には香港の新聞「リンゴ日報」が廃刊になり、同年7月には同紙の元編集長・林文宗氏が逮捕。その前後に複数名の関係者たちが逮捕されたことも報道された。そして2021年10月には、ノーベル平和賞をフィリピンのジャーナリスト、マリア・レッサ氏とロシアの独立系リベラル新聞「ノーバヤ・ガゼータ」編集長のドミトリー・ムラトフ氏への授与が決定。2人とも強権的な政権の弾圧にひるまず、命がけで報道を続けている人物であり、第2次世界大戦後初となるジャーナリストによるノーベル平和賞受賞となったことも記憶に新しい。またこの映画を観ていて、スティーブン・R・コヴィーの著書『7つの習慣』にある、第2の習慣「終わりを思い描くことから始める」をふと思い出した。自分の葬儀の場をイメージして人生の最後を思い描き、それを念頭において今日という一日を始める、という考え方だ。この映画の編集長アーサーのように、生涯かけて愛した仕事を現役で続け、愛する仲間たちに偲ばれて逝くのは、ひとつの素晴らしい最期であり、このイメージを目指していくことは素敵だ、と個人的に感じた。
 ウェス・アンダーソン監督は、自身の原点のひとつともいえる『ニューヨーカー』と、大好きなフランス映画へのオマージュを込めたこの映画について、このように語っている。「短編のオムニバス映画を撮ることが長年の夢でした。『ニューヨーカー』と出版界で著名な記者に触発された映画です。長年にわたりフランスに住んでいましたので、フランスの文化、特にフランス映画に関係する映画を撮りたいとずっと思っていました」

参考:「CNN Digital」、「日本経済新聞

作品データ

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊
公開 2021年1月28日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開
制作年/制作国 2021年 アメリカ
上映時間 1:48
配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題 THE FRENCH DISPATCH of The Liberty, Kansas Evening Sun
監督・脚本 ウェス・アンダーソン
出演 ベニチオ・デル・トロ
エイドリアン・ブロディ
ティルダ・スウィントン
レア・セドゥ
フランシス・マクドーマンド
ティモシー・シャラメ
リナ・クードリ
ジェフリー・ライト
マチュー・アマルリック
スティーブ・パーク
ビル・マーレイ
オーウェン・ウィルソン
クリストフ・ヴァルツ
エドワード・ノートン
ジェイソン・シュワルツマン
アンジェリカ・ヒューストン

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。