クライ・マッチョ

C・イーストウッド監督・製作・主演による最新作
老いたカウボーイと複雑な家庭事情のある少年、
孤独な2人の道行き、再生と希望を描く人間ドラマ

  • 2022/01/05
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クライ・マッチョ© 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

クリント・イーストウッドの監督デビューから50年、40作目となる最新作。出演は、監督・製作・主演を務めるイーストウッド、カントリー歌手で俳優である『ローガン・ラッキー』のドワイト・ヨーカム、初の長編映画への出演となるメキシコ人の若手俳優エドゥアルド・ミネット、『コラテラル・ダメージ』のメキシコ出身のベテラン女優ナタリア・トラヴェンほか。脚本は『グラン・トリノ』『運び屋』のニック・シェンクと、原作者である故N・リチャード・ナッシュが手がけ、製作は40年前から映画化を考えていたアルバート・S・ラディらが務める。ロデオ界のスターだったマイクは落馬事故以降、テキサスで孤独に暮らしている。ある日、元雇い主からメキシコで暮らす息子を連れ戻してほしいと依頼され……。落ちぶれた男と少年(と鶏)がメキシコからアメリカへ向かい、追手から逃れるなか、思いがけない出会いや交流をしみじみと映し出す。独りで暮らす老齢の男、母から子育てを放棄されストリートで暮らす少年、相続がらみで息子を呼び寄せようとする父親、ゆがんだプライドと執着をもつ母親、メキシコの寒村でタフに生きる女主人、さまざまな人間の思いが交錯する。老いたカウボーイと複雑な家庭事情のある少年、孤独な2人の道行きと再生を描くロードムービーであり、あたたかく心に沁みる人間ドラマである。

1979年のアメリカ、テキサス。ロデオ界のスターだったマイクは落馬事故以来、数々の試練を経て、独りで暮らしている。ある日、元雇い主のハワードから、別れた妻に引き取られメキシコで暮らしている10代の息子ラフォを連れ戻してくれと依頼される。誘拐まがいの犯罪スレスレの仕事だが、元雇い主に恩義があるマイクは引き受ける。メキシコに着くと、ラフォが男遊びに夢中な母に愛想をつかし、“マッチョ”と名づけた闘鶏用のニワトリとストリートで生きていると知る。マイクはラフォに、裕福な牧場経営者である父のもとへ同行するよう話し、ラフォはマイクと共に車でアメリカへ行く旅に出る。しかしマイクへのラフォ誘拐容疑によりメキシコ警察が出動、加えてラフォの母が放った追手が迫り……。

クリント・イーストウッド,ナタリア・トラヴェン

1979年を舞台に描きながら、ストリート・チルドレン、子育ての放棄や相続問題、独居老人など現代的なテーマを感じさせる本作。メキシコからアメリカへ向かう旅のなかで人々と出会い、互いに影響し合いながら再生してゆき、マイクとラフォがそれぞれの人生を自ら選択し決断するさまが静かな感動を誘う。この映画は、以前に依頼のあった企画をイーストウッドが思い出し、実現したとのこと。映画化の経緯とこの役への思いをイーストウッドは語る。「今回の企画が最初にもちあがったのは40年くらい前だったかな。そのとき(製作の)アルバートから出演を頼まれたが、当時の僕はマイク役には若すぎた。だから、『僕は監督をやるから、ロバート・ミッチャムを起用したらいいんじゃないか』と返事をしたんだ。けれども、実現には至らず、企画は頓挫。でも、2年くらい前に脚本を再び検討して、機は熟したと思った。今なら、この役を楽しんで演じられると思ったよ」
 この映画の脚本は、以前に映画化を検討された時に、原作者である故N・リチャード・ナッシュが執筆した脚本を、脚本家のニック・シェンクが練り直した。シェンクは、「クリントは泥臭いストーリーを望んでいました。マイクの人物像や苦しい現状を物語にダイレクトに映し出そうと考えたようです」とコメントしている。またイーストウッドの制作会社マルパソ・プロダクションズの製作担当ジェシカ・マイヤーは、この物語の内容とイーストウッドが見出したテーマについて語る。「人生経験の浅い若者が活躍する話ではなく、苦労と挫折を味わった男のスト―リーです。クリントが強く望んだのは、一種の冒険譚であり、英雄伝でした」

若い頃はロデオ界のスターだったマイク役はイーストウッドが、肝が太く場慣れしていて、筋の通った言動をする老齢の元カウボーイとして。イーストウッドはマイク役について語る。「マイクは否応なくメキシコに出発するが、この旅が冒険になる。再起のきっかけをつかむ落ちぶれた男――それがマイク・マイロじゃないかな」
 マイクと旧知の仲である裕福な牧場主ハワード・ポルク役はドワイト・ヨーカムが、ハワードと離婚したもと妻レタ役はフェルナンダ・ウレホラが、レタが放つ追手アウレリオ役はホラシオ・ガルシア=ロハスが、メキシコの寒村で食堂を切り盛りする未亡人マルタ役はナタリア・トラヴェンが、それぞれに演じている。またラフォの相棒である鶏のマッチョは、11羽の鶏が演じていたとのこと。イーストウッドは笑いながら、「鶏の演技は一見に値するよ」とコメントしている。
 イーストウッド監督作品で彼と共演することに、前のめりで即答したというドワイトは、「クリント・イーストウッドと共演できるなんて、光栄と言ったら月並みになるけど、本当に光栄」と話し、“レジェンド”と共演なんて最初はビビったというナタリアも、「クリントは温厚な紳士で、最高の共演者。ご一緒できて感激だった」とコメント。そしてオーディションで何百人のなかから選出され、マイクと旅をする少年ラフォを演じたエドゥアルド・ミネットは、イーストウッドとの共演と、イーストウッド作品の撮影現場について喜びと共に語った。「夢みたいだった。夢そのものだよ。クリント・イーストウッドと共演する日が来るなんて思いもしなかった。クリントは映画界のレジェンドだからね。(撮影現場は)のんびりした、ハッピーな現場だったよ。いつも笑いがあふれているんだ。クリントはしょっちゅう冗談を飛ばして、僕をリラックスさせてくれたよ」

クリント・イーストウッド,鶏

本作の撮影はニューメキシコ州のソコロ郡、そしてアルバカーキ、レミター、ベレン、ベルナリオ、そしてマイクとラフォがマルタと出会う田舎町は、同州のポルバデラ市にて。また1970年代のメキシコが主な舞台であるため、美術セットを作り込んだ。マイクがラフォに乗馬を教えるシーンでは、サンタフェの馬具のコレクターから借り受けた本物のヴィンテージの馬具を使用。撮影現場に見学に来たコレクターの男性は、「今までいろいろな映画の撮影に立ち合ってきたけれど、これほど本物に近いセットは見たことがない」と驚いていたそうだ。また“西部劇のシンボル”といわれるイーストウッドが馬に乗る姿が、1992年の映画『許されざる者』以来30年ぶりにスクリーンに映るのも見どころ。撮影中、スタッフ一同もそのシーンに感動したそうで、イーストウッドの制作会社の製作担当ティム・ムーアは感慨深く語る。「カウボーイハットをかぶり馬に乗ったクリントの姿は、誰もが見たいと思う。みんなが気づいていないのは、クリントが(最後に馬に乗ってから)、30年ほど経っているということだ。クリントは『最後に馬に乗ったのは1993年だ』と言っていた。撮影以外でも、一切馬に乗っていなかったと。彼は何でもこなすが、馬にもまたがって乗りこなしていたよ。それを見て、みんなが心配していたことが無駄だと気づいた。その姿を映画で観たら、何かを感じて『すばらしい』と思うだろうね。彼が再び馬に乗った様子を見て感激すると思う」
 そしてイーストウッドは、「あぶみに足をかければ、感覚は戻ってくるものだよ」とコメントしている。
 劇中でイーストウッドがかぶっているハットは特製品で、数パターンのサンプルを試着して衣装デザイナーのデボラ・ホッパーと一緒に選んだとのこと。1970年代の衣装として、マイクが着用するオリジナルのジャケットを制作したほか、イーストウッドの過去作品の衣装を使用したとホッパーは語る。「あるジャケットは『ダーティ・ファイター/燃えよ鉄拳』で、そしてコーデュロイの襟が付いたデニムのジャケットとえび茶のシャツは『ブラッド・ワーク』で着用したものです」
 またクリントと長い付き合いがある車両担当のラリー・ステリングは、年代物の車のエンジン音を作り込んだ。製作のムーアはそのこだわりをはじめ、スタッフたちのディテールへの徹底ぶりに脱帽したと語る。「1979〜’80年に市中を走っていた自動車には独特のエンジン音があるんです。ラリーは今回使用する車のエンジン音を1台ずつ確認してくれました。本作の時代考証はほぼ完璧だと思います」
 終盤近くにマルタの店で流れるロマンティックな音楽は、1971年版の「Sabor a Mi」。この曲はマルタ役を演じたナタリアのお気に入りで、彼女のリクエストで決まったそうだ。サウンドトラックは作曲家のマーク・マンシーナが担当。サントラにイーストウッドが自身でピアノを担当している楽曲があることについて、朗らかに笑顔で語る。「数曲でピアノを担当したんだが、大した腕前じゃない。サウンドトラックならまだしも、ヒットソングを任せてもらうことはないだろうね」

エドゥアルド・ミネット,馬

人との出会い、結びつき、人生を選択し決断すること。イーストウッド作品には真理がある、というのはよくわかる。『ミスティック・リバー』『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』など、設定も物語もまったく異なるのに、どこか同じ軸や血肉が通っていることを強く感じる。そしてそれが静かに胸を打つのだ。『クライ・マッチョ』は実直なテーマを含む人間ドラマながら、ところどころにユーモアがあり、ふっと笑いがもれる面も楽しい。鶏のマッチョが堂々と声をはり、勇ましく活躍するのもカッコいい。そして何よりもときめくのが、2022年5月には92歳になるイーストウッドだ。スクリーンで観ていて、今も変わらず本当に格好良い俳優のひとりだ。大御所へのお世辞とかではなく、ごく単純に、キャーッと言って駆け寄りたくなる感じ。193cmの長身で腕っぷしが強く、内面にあるブレないスタンスと切り替えの早さ、ユーモア、突き放しているようで相手の領域を尊重する敬意、頑固だけれど誠実で優しい。マイクのキャラクターはイーストウッド本人とよく重なる。これからも生涯現役で、監督として俳優として活躍し続けてくれるだろうことが楽しみだ。この物語の映画化をイーストウッドに約40年前に依頼し、遂に実現した製作のラディはイーストウッドを称え、彼の作品の魅力について熱く語る。「クリントはこれからもアメリカの英雄として、またカウボーイのなかのカウボーイとして語り継がれるでしょう。クリントが手がける映画はラブストーリーであれ、アクション大作であれ、観る者に真実を突きつけます。どの作品にも真実が明らかになる決定的な瞬間がある。その真実は恐ろしいときも、笑えるときも、痛ましいときもありますが、観客の記憶に残ることは間違いありません」

作品データ

公開 2022年1月14日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2021年 アメリカ
上映時間 1:44
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 CRY MACHO
監督・主演・製作 クリント・イーストウッド
原作・脚本 N・リチャード・ナッシュ
脚本 ニック・シェンク
出演 クリント・イーストウッド
エドゥアルド・ミネット
ナタリア・トラヴェン
ドワイト・ヨアカム
フェルナンダ・ウレホラ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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