eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

犬王

実在の能楽師をモデルにした小説を湯浅政明監督が映画化
日本の古典から着想を得た世界観を、モダンな映像美と
華やかなサウンドで描くミュージカル・アニメーション

犬王©2021 “INU-OH” Film Partners

実在の能楽師・犬王をモデルにした古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」を、テレビアニメ「ピンポンTHE ANIMATION」やアニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』などの湯浅政明監督が映画化。声の出演は、映画『モテキ』のテーマ曲を手がけ出演もするなど幅広く活動する、バンド「女王蜂」のボーカルのアヴちゃん、ダンス、演劇、映像などで活躍する『アンダードッグ』の森山未來、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の柄本佑、ドラマシリーズ「孤独のグルメ」の松重豊、NHK連続テレビ小説「エール」の津田健次郎ほか。脚本は映画『罪の声』やドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の野木亜紀子、キャラクター原案は「鉄コン筋クリート」「ピンポン」の漫画家・松本大洋が手がける。室町時代の京都、異形の能楽師・犬王と盲目の琵琶法師・友魚は、新時代のポップスターとして名をはせるが……。現代に伝わる能の源流といわれる猿楽が隆盛し、能を大成した観阿弥・世阿弥の親子が活躍した頃を舞台に、オリジナルの解釈で青年2人の出会いと行く末を描く。能楽の所作+バレエやタップダンスやブレイクダンス、琵琶の演奏+ロックやヒップホップといった、大胆なミックス・スタイルで引きつける。個性的な2人の青年が突き進む青春バディものであり、日本の古典から着想を得た世界観を、鮮やかでモダンな映像とサウンドで描き出すミュージカル・アニメーションである。

室町時代の日本。壇ノ浦で暮らす少年・五百の友魚(イオノトモナ)の父は、都から来た者たちから探し物の依頼を受ける。平家と共に海に没した「三種の神器」のひとつ「剣」を海中で探し当てるも、その呪いを浴びた友魚の父は絶命し、友魚は両目の視力を失う。無念を叫ぶ父の亡霊と、夫を亡くし息子の視力を奪われた不幸への恨み辛みで苦しむ母に背中を押されるように、友魚はひとりで都へ向かう。その途上で琵琶法師・谷一と出会い、友魚は弟子となる。谷一に習い琵琶奏者となった友魚は、京の都で谷一が属する覚一の座に琵琶法師として迎えられ、「友一」の名を与えられる。その後、友一は、瓢箪の面をつけた異形の青年・犬王と出会う。猿楽の一派である比叡座の棟梁を父にもち、特異な体つきを活かして奔放に舞う犬王に触発された友一は、琵琶を心のままにかき鳴らす。犬王との新しい道を見いだした友一は友有(ともあり)と名を改め、2人は仲間たちと共にこれまでにない歌と演奏による斬新なパフォーマンスで大人気を博すが……。

犬王

古川日出男の2017年の小説「平家物語 犬王の巻」を湯浅監督が映画化したミュージカル・アニメーション。資料がほとんど残っていないという実在の能楽師、近江猿楽の比叡座の犬王(生年不明〜1413、別名:道阿弥)をモデルに、琵琶奏者・友有との友情と2人の表現者としての行く末、平家の呪いの顛末などを、能楽を現代的にアレンジした楽曲と共に描くミュージカル作品となっている。湯浅監督はこのストーリーについて、「“相手を認めてあげる”というテーマが時代に合っていると思いました」と話し、平家の物語を歌い伝えていた琵琶法師や、当時の能楽師に思いをはせ、この物語への思いをこのように語った。「いま彼らの物語を見る人たちにとっても、そばにいる人が相手を理解してあげることの大切さを感じてもらえたらいいな、と。“人知れず無念に消えて行った人々に光を当てる”という意味では、それが琵琶法師や能楽師の役目のひとつでもあったと思うし、資料がほとんど現存しない犬王という人物に古川さんが小説で光を当てたことも、それをまたアニメ化して世に出すことも、意義のありそうなことだと思えたんです」

猿楽の一座の棟梁を父にもつ、瓢箪の面をつけた異形の青年・犬王の声はアヴちゃんが、生き生きと舞い歌う個性的な能楽師として。劇中の歌唱では、ガンズ・アンド・ローゼズの若き日のアクセル・ローズを思わせるような高音のシャウトも印象的だ。劇中歌の作詞にも参加したアヴちゃんは、「普段女王として生きているわたしが、今回“王”として生きる機会をいただきました」とコメントし、また2022年5月6日に東京・新宿で行われた舞台挨拶にて、声の表現についてこのように語った。「声優初主演だからといって、そこで借りて来た猫になったら勿体ない。思い切り伸び伸びとやりました。マイクのない時代の歌なので喉がつぶれるのではないかと思うくらいの声量で歌っていました」
 犬王の相棒となる琵琶法師・友魚の声は森山未來が、視力を突然失いながらも自分の道を見つけて進んでいく腹の座った青年として。友有として劇中で歌うシーンも多い森山は、5月6日の舞台挨拶にてアヴちゃんについて、「歌に関してはすごく引っ張られました」とコメント。そしてこの映画の魅力について、このように語った。「能は世界で最古のミュージカル。『犬王』はそれをモチーフに作られた作品。大事な言葉や想いが音楽や踊りのなかにぶつけられている。色彩や音楽、歌も含めてエネルギーが波動のようにぶつかってくる、すごい体験をしました」
 また室町幕府3代将軍・足利義満の声は柄本佑が、猿楽の一座の棟梁である犬王の父の声は津田健次郎が、友魚の父の声は松重豊が、それぞれに表現している。
 湯浅監督は「若い2人が昇り詰めていく話にしたかった」という意図から、犬王と友有をアヴちゃんと森山未來に合わせ、「キャラクター設定も2人に合わせていく」という一種のアテガキのような面があったと2022年4月21日に京都で行われた先行試写イベントにてコメント。そして前述の舞台挨拶にて、犬王と友有というキャラクターの魅力について、湯浅監督はこのように語った。「犬王は逆境にありながらも動じない、真っ直ぐな気持ちを貫く理想的なキャラクター。逆境のなかで力強く生きた2人の生き様やエネルギーを見てほしい」

犬王

ところで猿楽とは、「奈良時代に大陸から伝来した散楽と日本古来の芸能である俳優(わざおぎ)が融合することで発生した」ものであり、現在の能の源流となったもの。能を大成した観阿弥(1333-84)と世阿弥(1363頃-1443頃、映画では幼名:藤若で登場)の親子が活躍した時代を描く本作では、大和猿楽・結崎座が足利義満の後援を得ている逸話なども描かれている。観阿弥が、「曲舞のリズムの面白さを能の謡に加え、猿楽の地位を高めることに成功」したことは有名だ。そして息子の「世阿弥が犬王の得意芸であった天女舞を大和猿楽に取り込んだことは、その後の歌舞を中心とする能の展開に大きな意義をもっている」ともいわれている。犬王の別名である道阿弥は、犬王が観阿弥の没後に足利義満から最も高く評価され、「義満の法名“道義”から1字を与えられ“道阿弥”と名乗った」という。この映画では、歴史監修は歴史学者の佐多芳彦が、能楽については能楽研究者の宮本圭造が、能楽実演監修は能楽囃子葛野流大鼓方十五世家元である亀井広忠が参加。音楽、歌、舞や所作など、確かな背景や本流を踏まえながら、それを現代的な要素なども奔放に取り入れて幅広い層に親しみやすいよう、ポップかつ華やかに再構築しているところが特徴だ。

能楽を生かしてさまざまな要素を取り入れた劇中の音楽は、『花束みたいな恋をした』の大友良英が担当。琵琶の音色、能楽の楽器である笛や太鼓、そしてエレキギターやベースやドラムなどが入り、ビートの効いたミックス・スタイルや、オーケストラのサウンドなどになっていてユニークだ。劇中の琵琶の監修・演奏は、2021年のテレビアニメ「平家物語」も同様に手がけた薩摩琵琶奏者の後藤幸浩が参加。琵琶奏者・友有の声を務めた森山は、後藤氏について琵琶の稽古を自主的に受けたそうで、湯浅監督は、「僕らは森山さん本人の演奏でもイケるんじゃないかと思うほど上達されてました」と話し、劇中で「琵琶を弾きながら歌う感じもリアルに出してもらえたのかなと思います」とコメントしている。
 湯浅監督作品は、ブラック・アイド・ピーズの「I Gotta Feeling」などの楽曲の用い方が際立っていた2004年の長編映画デビュー作『マインド・ゲーム』をはじめ、音楽やサウンドとアニメーションの化学反応をエッジを効かせた表現で描くことで知られていて。今回、5本目の劇場長編でミュージカルに初挑戦した湯浅監督は、「映像と音楽をもっとシンクロさせたいとは、ずっと思っていたんです」とコメント。そして音楽への思い、『犬王』のサウンドについてこのように語っている。「能楽もそうですが、音楽の根源には、歌って踊って神様に捧げるような興奮があると思います。『犬王』を観てくださる方には、素直に頭を動かしたり、リズムに乗ったりしてほしい。画面の前で、みんなに踊ってもらいたいです!」

犬王

原作は、2017年の古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」。そもそもは古川氏が、2016年に池澤夏樹=個人編集による「日本文学全集」第9巻にて、「平家物語」の現代語全訳を手がけたことから始まったという(この「日本文学全集」では、角田光代訳の「源氏物語」や、「日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集」より町田康訳の「奇怪な鬼に瘤を除去される」(こぶとり爺さん)なども話題に)。この「平家物語」は2021年にTVアニメ化された。原作の「平家物語 犬王の巻」は、この「平家物語」の“スピンオフともいえる”とのこと。映画『犬王』のキャラクター原案を務めた漫画家・松本大洋は、原作の表紙イラストも手がけているため、画が一貫した世界観となっているのも面白い。湯浅監督は、原作を読んだときに強く惹かれたことについて語る。「手塚治虫の『どろろ』にも設定が似ている気がしたんですが、この小説独自の面白さは、犬王がすごく明るいところ。生まれたときから大変な状況にいるのに『なんでこんなに明るいんだろう?』と思うくらい活き活きしていて、そこがとても魅力的でした。犬王というキャラクターと出会って、自分にも光が差したような感じがしたんです」
 原作にはないエピローグを描くこの映画について、原作者の古川氏は、映像、音楽、キャラクターとさまざまに揺さぶられたとして、このように称えている。「これは映画のモンスターである。スクリーンがこれほど怪物的にうごめき出すのを、私はおそらく初めて観た。しかも、それらの“うごめき”はポップで、悲劇的なはずなのに徹底して楽天的で、要するに痛快な“しいたげられた者たちの反撃”なのだ」

本作について、「『犬王』では初心にかえって作品に取り組み、自身の集大成ともいえる作品になっていると思います」という湯浅監督。クライマックスの舞台のシーンでは、躍動的な映像が鮮やかに展開し、幻想的な非日常の感覚を味わえる。2021年の第78回ヴェネチア国際映画祭にて、“日本の長編2Dアニメーション”として初のオリゾンティ・コンペティション部門に選出するなど、海外でも注目されている。湯浅監督は京都の先行試写イベントにて、観客へのメッセージをこのように伝えた。「一風変わった面白い映画ができたと思います。劇中の音楽にノッてもらったり、歌詞を聞いてもらえればより熱く盛り上がれたり、さまざまな角度から楽しんでいただける作品になっています」

参考:
・矢内賢二編『日本の芸術史 文学上演篇T 歌、舞、物語の豊かな世界』(芸術教養シリーズ9) 藝術学舎
 2014年
・「文化デジタルライブラリー

2022年5月17日更新

作品データ

公開 2022年5月28日より全国ロードショー
制作年/制作国 2022年 日本
上映時間 1:38
配給 アニプレックス、アスミック・エース
原作 「平家物語 犬王の巻」古川日出男著/河出文庫刊
監督 湯浅政明
脚本 野木亜紀子
キャラクター原案 松本大洋
音楽 大友良英
声の出演 アヴちゃん(女王蜂)
森山未來
柄本佑
津田健次郎
松重豊
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。