eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

エルヴィス

42歳で早世した伝説的スターの実話をもとに映画化
リズム&ブルースやゴスペルと、カントリー音楽を融合し、
新しい潮流をリードした生涯をヒット曲と共に描く

エルヴィス©2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

世界で最も売れたソロアーティスト(ギネス認定)であるエルヴィス・プレスリーの実話をもとに描く話題作。出演は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のオースティン・バトラー、『フォレスト・ガンプ/一期一会』など2度のオスカー受賞経験をもつトム・ハンクス、『ヴィジット』のオリヴィア・デヨング、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のコディ・スミット=マクフィーほか。監督・脚本・製作は『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマンが手がける。カントリーミュージックの巡業マネージャーであるトム・パーカーは、注目の新人をみるためにミュージックショー「ルイジアナ・ヘイライド」へ。そこで無名の歌手エルヴィスのパフォーマンスに熱狂する観客をみて衝撃を受け、金儲けの野心を抱く。無名の新人歌手から一気にスターとなったエルヴィス、彼の悪名高いマネージャーとなるトム・パーカー、エルヴィスの愛する母親、家族や友人たち、彼が無名の頃から42歳で他界するまで、波乱に満ちた生涯の秘話を描く。ロックの黎明期をリードし数々のヒット曲を放ったエルヴィスが、過労とストレスとプレッシャーにより薬物を大量に服用、過食による肥満、オーバードーズと不整脈で他界したという概要のみならず、保守的な社会のなかで自分のスタイルを貫くことで、人種差別をなくし、隔たりを超えていこうとする人々に勇気を与えたことや、社会が変わっていく大きな潮流の先端に彼がいたことを伝えている。生き急いだスーパースターの哀切を伝える伝記映画であり、エルヴィスの楽曲の数々で高揚する華やかなエンターテインメント作品である。

カントリーミュージックの巡業マネージャーであるトム・パーカーは、注目の新人をみるためにミュージックショー「ルイジアナ・ヘイライド」へ。そこで無名の歌手エルヴィスのパフォーマンスに強く反応する観客をみたパーカーは衝撃を受け、エルヴィスを元手に金儲けの野心を抱く。エルヴィスはパーカーをマネージャーに迎えて一気にスターとなり、若者たちを中心に熱狂的に支持されるように。しかし白人の音楽であるカントリーミュージックと黒人の音楽であるリズム&ブルースやゴスペルなどを融合させた楽曲や、扇情的なパフォーマンスが、人種差別を当然とする保守層から執拗に非難される。緊張感の高まるなか、故郷メンフィスのラスウッド・パークスタジアムのコンサートで「Trouble」を思いのままに歌ったエルヴィスは、警察の監視下に置かれ……。

オースティン・バトラー,トム・ハンクス,ほか

伝説的な数字の数々を誇るスーパースター、エルヴィス・プレスリーの半生を描く、ラーマン監督最新作。ロックの始祖が誰なのかは今も論じられているなか、エルヴィスがロックの黎明期を牽引した偉大なアイコンのひとりであることは確かだ。ビートルズやクイーンなど後進のミュージシャンたちが多大な影響を受けたと語っていることはよく知られている。エルヴィスについて、有名なヒット曲とエピソードのいくつかを知っているだけだと、刹那的に生きたアイドル・ミュージシャンというチープなイメージにつながりかねないが、この映画では彼の存在が当時の社会に及ぼした影響や、なぜ彼が熱狂の対象となったのかという経緯について、わかりやすく伝えている。実際の出来事として、プレスリー家は貧しかったことから白人でありながら、テネシー州メンフィスにある貧しい黒人の労働者階級の暮らすエリアに住み、エルヴィスは子どもの頃から黒人の音楽を聴いていたこと、トラック運転手をしながら音楽活動をしていたこと、多数の警官に見張られているコンサート会場で彼が「Trouble」を自由に歌ったこと、紆余曲折から落ち目となるなか、特別番組『'68 Comeback Special』ではパーカーの思惑通りにはならず、何を歌うかを実力派のスタッフたちと話し合って決めていき、見事な復帰を果たしたくだりなど、たとえ情報として知っていることであっても、魅力的なパフォーマンスとヴィジュアル、ストーリーとして観ることはエモーショナルな体験となるだろう。

エルヴィス役はオースティンが、若い頃から他界する42歳までを、時には繊細に、時には情熱的に熱演。オースティンは1年以上の間多くの専門家による週6日ものボーカルトレーニングの猛特訓を受け、『ボヘミアン・ラプソディ』でラミ・マレックの役作りをサポートしたムーブメントコーチのポリー・ベネットからエルヴィスの細かい所作の指導も受けて、トータルで約3年間役作りを続けたとのこと。彼は若手の俳優が大スターを演じる重責を感じながらもトレーニングに打ち込み、「出来るだけ多くの映像を何度も何度も繰り返し見て研究を重ねました」と語り、全編でほぼ吹き替えなしで歌唱。劇中のコンサートのパフォーマンスについて、映画を観たエルヴィスの妻プリシラ・プレスリーはオースティンを「エルヴィスそのもの」とコメントしている。ラーマン監督はキャスティングがとても重要だったと話し、スクリーンテストや演技や音楽のワークショップを経てオースティンを見いだしたとのこと。2022年6月29日に東京で行われたワールドツアーフィナーレイベントにて、ラーマン監督はオースティンを称えてこのように語った。「ライブシーンはカット割りをせずオースティンがずっとパフォーマンスしていたんです。僕が30 年以上一緒に仕事をしているスタッフが『僕はいろんな作品に携わってきたけど、こんな体験をするのは初めてだ!』と言うほどに、オースティンの仕事ぶりはすごかったのです」
 エルヴィスがデビューして42歳で他界するまでマネージャーを務めた悪名高いトム・パーカー役は、40代〜87歳までをトム・ハンクスが特殊メイクで薄毛の頭と肉付きのいい体となって表現。ラーマン監督はパーカーという人物について、「パーカーについて真実があるとすれば、エルヴィスの創造性を高め精神的な面を充実させることに気を配りもせず、彼が真っ先に考えていたことは常に『どうやったらできるだけ多くの金を稼げるか』だったということだ。そしてそれが悲劇を生む結果になった」と語り、トム・ハンクスがこれまでにない悪役を演じたことについて、本人が「俳優として違った雰囲気の役も演じてみたいと思っていた」こと、「彼は特に魅力的ではなく、好感ももてないこのキャラクターを演じることにわくわくしていたよ」とコメントしている。
 そしてエルヴィスの妻プリシラ役はオリヴィアが、エルヴィスの母親グラディス役はヘレン・トムソンが、エルヴィスの父親ヴァーノン役はリチャード・ロクスバーグが、カントリー歌手ハンク・スノウの息子ジミー・ロジャーズ・スノウ役はコディ・スミット=マクフィーが、それぞれに演じている。またビール・ストリートで活躍していたミュージシャンたちは、ウィリー・メイ・“ビッグ・ママ”・ソーントン役とペンテコステ派のシンガー役をションカ・デュクレが、ブルース歌手でギタリストのB・B・キング役をケルヴィン・ハリソン・Jrが、ゴスペル歌手でロックの伝説的シンガーのひとりであるシスター・ロゼッタ・サープ役はイギリスのシンガーソングライターであるヨラ・クオーティが、派手なパフォーマンスを披露するリトル・リチャード役は有名なゴスペル・シンガーのマヘリア・ジャクソンを高祖叔母にもつモデル出身の新進俳優アルトン・メイソンが(歌はレ・グリーンが担当)、19歳のエルヴィスによる1954年のファーストシングル「That’s All Right」を作詞作曲したミュージシャンであるアーサー・“ビッグ・ボーイ”・クルーダップ役はゲイリー・クラーク・Jrが演じるなど、現代の音楽シーンの実力派たちが参加している。

オースティン・バトラー,オリヴィア・デヨング

劇中では、「Jailhouse Rock(邦題:監獄ロック)」はもちろん、「Love Me Tender」「Can’t Help Falling in Love」「Unchained Melody」などさまざまな名曲を歌うシーンが楽しめる。音楽は、作曲・音楽総指揮のエリオット・ウィーラーと音楽監修のアントン・モンステッドが担当。エルヴィスの若い頃のライブパフォーマンスではオースティンの歌声を活かし、映画の後半ではエルヴィス本人の象徴的なボーカルを用いて、ふたつの声を融合しているシーンもあるとのこと。ラーマン監督はオースティンの歌唱について、「オースティンを抜擢したことはとてもラッキーだった。彼は初期の粗削りなロックンロール・パンクサウンドをかき鳴らすあの時代のエルヴィスそっくりに歌うことができたんだ」とコメント。一方で、あくまでも俳優として人間性を表現する大切さを監督は語る。「私はものまね歌手たちの技術を心から尊敬しているが、これは根本的に別の取り組みなんだ。歌を通して演じることは、大スターのものまねをするのとは真逆のことだ」
 またエルヴィスと交流のあったさまざまなミュージシャンたちの印象的なシーンのなかでも、ションカが歌うビッグ・ママ・ソーントンの「Hound Dog」は個人的に鮮烈に響いた。そしてサウンドトラックには、ドージャ・キャットがエルヴィスの歌う「Hound Dog」をリイマジネーションした「Vegas」をはじめ、ケイシー・マスグレイヴス、ジャズミン・サリヴァン、ジャック・ホワイト、マネスキンらによるカヴァー・ヴァージョンや、エルヴィスの音源をサンプリングした新曲などが収録されていることも話題になっている。
 ラーマン監督はエルヴィスの音楽性について語る。「彼は若いときからブラック・ミュージックに親しみ、B・B・キングとの交流も有名だった。ブルース、ソウル、ゴスペルなどさまざまな音楽に浸り、そこからインスピレーションを得て、自分なりの音楽を作り上げた。彼はよく『俺はキング・オブ・ロックンロールじゃない、それに浸って発散しただけだ』と語っていたが、僕は彼こそキングだったと思う。そしてとてもスピリチュアルな人だった。そのパフォーマンスはパンクロッカーの元祖といえると思う」

映画には、エルヴィスが購入し家族と共に約20年暮らした豪華な邸宅グレイスランドが登場。アメリカの国定史跡に認定されているテネシー州メンフィスにある実際のグレイスランドから見取り図を取り寄せ、美術スタッフが映画のセットとしてつくり上げた。また車好きのエルヴィスが購入した高級車の数々や、彼の90着以上の衣装など、華やかなヴィジュアルが展開する。製作・美術・衣装を手がけるラーマン監督の妻でアカデミー賞受賞歴をもつキャサリン・マーティンは、長年エルヴィスの衣装デザイナーを務めたビル・ブリューから許可を得て、1970年代のアイコニックなステージ衣装を忠実に表現しているB&Kエンタープライズのキム&ブッチ・ポルストンとコラボレートし、オリジナルと同じ手法でオースティンが着るジャンプスーツを発注。また妻プリシラの衣装としてプラダとミュウミュウの提供を受け、ビンテージや古着、コレクションから購入したもの、スタッフたちがデザイン・制作した衣装などカラフルでスタイリッシュなファッションも見どころのひとつとなっている。

オースティン・バトラー

映画の製作にあたり、ラーマン監督はいろいろな人たちから話を聞き、なかでもエルヴィスの妻プリシラ・プレスリーには何度も面会をして話を聞いたとのこと。映画ではリサーチによる事実をもとに描く内容に引き込まれるなか、「誰が彼を殺したのか」というラストの示唆については、あくまでもパーカー側からの解釈にすぎないといえる。悪徳マネージャーひとりのせいでエルヴィスが早世したわけではないことは誰もが知っている。だが、エルヴィスのマネージャーが音楽に関心のない金儲け第一主義の独裁的な人間ではなく、休暇を適切に取得させ、万全のサポートチームによって本人が公私ともに充実できるよう一流のケアとマネージメントが行われていたなら、アーティストとしても人間としても幸福で長命だったのではないか、とは誰もが考えることではないだろうか。ラーマン監督は、観客へのメッセージをこのように語っている。「観客には、彼の人生の良い時期や悪い時期、音楽、情熱、ルックス、ファッションがつくり出す興奮を感じてほしい。でもなによりも、映画館を去る時にこの映画について議論していてほしいんだ。私はこの映画をそうとらえているし、だからこそ映画をつくっている。映画館に集まったみんなで共有できるその唯一の体験をつくり上げ、讃えるためだね。その体験はエンドロールが終わった後にも私たちのなかに長く残る。エルヴィスもその感覚を理解し、讃えてくれるだろうと確信している」
 2022年の第75 回カンヌ国際映画祭にて、エルヴィスの妻プリシラも娘リサ=マリーも孫娘ライリー・キーオもこの映画を称賛したことは報道されていて(ライリー・キーオは監督として映画祭に参加し、初監督作品『War Pony』が「ある視点」部門で上映された)。人物伝を描く作品は家族が存命である場合、内容に対してわだかまりが残る場合も少なくないが、エルヴィスの家族が喜んでいることは、この作品がどのようなものであるかを物語っているのではないだろうか。ところで、国立新美術館にて2022年6月29日〜9月26日に開催の「ルートヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡―市民が創った珠玉のコレクション」では、アンディ・ウォーホルによる1963年の《二人のエルヴィス》という206 × 148cmという大きなサイズの作品が展示されている。これは「スターであることとイメージの大量消費の相関を問いかける」作品といわれている。音楽でいうと、ジャンキーXLが2002年にエルヴィスの「A Little Less Conversation」をリミックスしたバージョンは、繰り返しCMなどに起用されダンスナンバーとしても定番となっているため、「エルヴィスは知らないけどこの曲は知ってる」という若い世代も多いかもしれない。この映画では、エルヴィスを愛するファンはもちろん、映画をきっかけに改めて知る若い世代にも、彼が愛されたことや楽曲の魅力、後世の大物ミュージシャンたちに強い影響を与えた理由がよく伝わることだろう。

2022年7月1日更新

作品データ

公開 2022年7月1日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2022年 アメリカ
上映時間 2:39
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 ELVIS
脚本・監督・製作 バズ・ラーマン
出演 オースティン・バトラー
トム・ハンクス
オリヴィア・デヨング
コディ・スミット=マクフィー
ヘレン・トムソン
チャード・ロクスバーグ
ヨラ
ションカ・デュクレ
アルトン・メイソン
ケルヴィン・ハリソン・Jr
ゲイリー・クラーク・Jr
デヴィッド・ウェンハム
ルーク・ブレイシー
デイカー・モンゴメリー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。