eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

リコリス・ピザ

70’sのアメリカを描くP・T・アンダーソン監督作
高校生ゲイリーが20代のアラナに一目惚れし……
ちょっと風変わりでノスタルジックな青春ドラマ

リコリス・ピザ©2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

ポール・トーマス・アンダーソンが脚本・監督・撮影を手がけ、1970年代の自身の地元の街を舞台に描く最新作。主演は共に映画デビューである、3姉妹バンド「ハイム」のメンバーで末っ子のアラナ・ハイムと、2014年に他界した俳優フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマン。共演は、『ミスティック・リバー』『ミルク』のオスカー俳優ショーン・ペン、『デッド・ドント・ダイ』のトム・ウェイツ、『ナイトメア・アリー』のブラッドリー・クーパー、兄のジョシュア・サフディと共同で監督としても活躍している俳優で脚本家のベニー・サフディほか。アメリカ西海岸の高校で写真撮影の日、子役として活動している高校生のゲイリーは、カメラマン助手のアラナに一目惚れし……。アンダーソン監督が愛する街サンフェルナンド・バレーを舞台に、早熟な少年と気の強い個性的な女性との恋を描く。ポール・マッカートニーやドアーズなどの当時の楽曲、70’sのカラフルなファッションやインテリアなどで引きつける。ちょっと風変わりでノスタルジックなボーイ・ミーツ・ガールの作品である。

1970年代、アメリカ西海岸ハリウッド近郊の街サンフェルナンド・バレー。子役として活躍する高校生のゲイリー・ヴァレンタインは、高校の写真撮影のためにカメラマンアシスタントとしてやってきたアラナ・ケインに一目惚れ。ゲイリーは彼女を強引に食事に誘って口説くが、アラナは「私は25歳だから彼女にはなれない。法律違反よ」とはっきり断る。しかしゲイリーは怯むことなく「運命なんだ」と言い、アラナと会い続ける。そして紆余曲折のなか、2人は少しずつ近づいていくものの、ゲイリーが新たなビジネスを始め、アラナが女優のオーディションを受けるなどするうちに、2人の関係はすれ違っていく。将来に迷うアラナは、新しい道を模索しようと市長選の選挙活動でボランティアを始めるが……。

アラナ・ハイム,クーパー・ホフマン

世慣れした少年と人生に迷う女性が出会い、その後の顛末を描く青春ドラマ。これまでのアンダーソン監督作品である1997年の『ブギーナイツ』、1999年の『マグノリア』、2002年の『パンチドランク・ラブ』と同様に、監督が生まれ育ち、現在も暮らしているサンフェルナンド・バレーの街が舞台となっている。登場人物の多くはモデルがいるか実在する人物で、クーパー演じるゲイリー・ヴァレンタインは子役を経てプロデューサーや実業家として活動しているゲイリー・ゴーツマンがモデルであり、アラナ・ハイムが演じるアラナ・ケインは子役から女優となった1973年の『愛のそよ風』のケイ・レンツがモデルとのこと。アンダーソン監督はこの物語のこと、ゲイリー・ゴーツマン本人との交流について語る。「この映画の核となる少年と少女の話は、長年温めていたものです。僕はゲイリー・ゴーツマンと長年にわたる親交があり、彼の話を聞きました。少年時代、彼の弟のこと、ウォーターベッド店をエンシノ(※)に開店した経験談……すべて、僕が育った場所で起きた話で、とても身近に感じられました」

※エンシノはサンフェルナンド・バレーの中心部にある高級住宅街。

クーパー・ホフマン,ほか

ゲイリー役はクーパーが高校生ながらも気鋭のやり手で、世慣れしているふうでありながら女性と交際した経験はなく、時には熱心に、時には尊大な態度の少年として。ゲイリーに言い寄られる25歳のアラナ・ケイン役はアラナ・ハイムが、10歳年下から法律違反の交際を迫られても意味がないし、夢も希望も特にないしと将来に迷う女性として。アンダーソン監督は、撮影当時に17歳だったクーパーについて「彼の才能は信じられないもの」、アラナについて「彼女の起用は本能的なものでした」と主演の2人のことをコメント。共に映画デビューであるクーパーとアラナはフレッシュな存在感で高く評価されている。俳優ジャック・ホールデン役はショーン・ペンが(モデルは『麗しのサブリナ』のウィリアム・ホールデン)、映画監督レックス・ブラウ役はトム・ウェイツが(モデルはウィリアム・ホールデン主演作『トコリの橋』のマーク・ロブソン監督)、髭モジャで女好きの映画プロデューサー、ジョン・ピーターズ役はブラッドリー・クーパーが(モデルは1976年の『スター誕生』を手がけた同名の映画プロデューサー)、市長に立候補する政治家ジョエル・ワックス役はベニー・サフディが(モデルは同名のもと政治家で現在はアンディ・ウォーホル美術財団代表)、それぞれに演じている。劇中には、ジョン・ピーターズが『スター誕生』の女優で歌手のバーブラ・ストライサンドと付き合っていると自慢げに話すことをはじめ、実話ベースのエピソードが散りばめられているのが面白い。
 またキャストとして、アラナの2人の姉で3姉妹バンドのメンバー、ハイムの長女エスティと次女ダニエル、そして姉妹の両親とハイム一家が出演。アラナ・ハイムは監督と同じくサンフェルナンド・バレー出身で、監督は8歳の時にハイム姉妹の母親ドナから美術を習っていたとのこと。そのつながりで監督はハイムのミュージック・ビデオを数多く手がけるなか、アラナの起用をひらめいたそうだ。(音楽/映画ライター・村尾泰郎氏によるプレス資料のコラムより間接引用)
 さらに劇中には、アンダーソン監督の妻(ミニー・リパートンの娘!と事実婚)で女優のマーヤ・ルドルフと夫妻の子どもたちも出演。またウォーターベッド店の店長役として、レオナルド・ディカプリオの父親ジョージ・ディカプリオがこの作品で映画デビューしたという意外な事実も。ジョージは風貌が役のイメージに合うために監督が依頼したところ、本人から実際に以前ウォーターベッドの会社のオーナーだったと聞いて驚いたそうだ。
 ショーン・ペンとトム・ウェイツ、大物たちのキャスティングについて監督は語る。「ショーン・ペンをジャック・ホールデン役にキャスティングしてから、レックス・ブラウを誰が演じるべきか、ふたりで考えたんです。そのとき、ショーンがトムを提案しました。彼らは親しいんです。ショーンを通してトムに依頼できるし、それなら受けてくれるかもしれない、という気持ちもあって、良いアイデアだと思いました。そして、トムは引き受けてくれました」

ブラッドリー・クーパー,クーパー・ホフマン,アラナ・ハイム

撮影はアンダーソン監督の出身地で現在も暮らしているサンフェルナンド・バレーにて。カリフォルニア州ロサンゼルス郡、ハリウッドから車で約15分、映画スタジオが多数あるという。劇中には、ゲイリーがアラナと最初にデートする店「テイル・オコック」、ゲイリーのウォーターベッドの店「ファット・バーニーズ」(ゴーツマンが実際にウォーターベッドを販売していた時の店名と同じ)、レストラン「チャドニーズ」など、当時に実際にあった店が登場。またゲイリーの母が宣伝を担当する日本食レストラン「ミカド」も実際にあったそうで、オーナー夫人が日本人女性であり(実話)、夫人が日本語で話すシーンもいくつかある。
 そしてアンダーソン監督作品は音楽が冴えているのも特徴。ポール・マッカートニー&ウィングスの「Let Me Roll It」、ドアーズの「Peace Frog」、予告編で流れるデヴィッド・ボウイの「Life On Mars?」などサウンドトラックの全20曲は、監督が選曲。映画音楽は、アンダーソン監督と5作品目のタッグとなるレディオ・ヘッドのジョニー・グリーンウッドが手がけ、彼によるタイトル・トラック「Licorice Pizza」(インスト)もサントラに収録されている。

タイトルの『リコリス・ピザ』は、1970年代頃に南カリフォルニアで展開していた独立系レコード・ショップ・チェーンの名前とのこと。劇中にこのレコード店はでてこないものの、当時の10代が背伸びをしてレコードを買うような場所だったとも。美術セットやファッションやヘアメイク、登場人物たちなど1970年代のノスタルジーと共に、風変わりな青春ドラマを描く本作。15歳くらいの少年と約10歳年上の20代の女性では、ほのかな恋のようなものにしかなりえない。恋人になるのは劇中でアラナも言う通り「法律違反」であり、それでも関係を育みたいなら、少年が成人し、女性が年を重ねていくなかで移ろいゆくつながりと、お互いの思いや自身の気持ちを見つめていくしかない。……といった先のことはともかく、この映画は、相手も自分も欠点だらけでイラつくけれど、「今一緒にいたい」という恋の刹那のみずみずしさとほろ苦さを味わうための作品といえるだろう。
 1970年生まれのアンダーソン監督は、1996年に『ハードエイト』で長編デビュー。翌1997年のサンフェルナンド・バレーを舞台に描いた『ブギーナイツ』が高く評価され今に至るのは周知の通りだ。『Variety』のブレント・ラングによるインタビュー記事にて、映画製作者として年を経てきたことによる変化について、監督は映画づくりへの思い入れと共にこのように語った。「自信がついてきたと言いたいところですが、自信が幻想であることは誰もが知っています。ある日の良い仕事には何の意味もない。次の日がどうなるかについて、神の気まぐれを感じています。年をとるにつれて数歩先を予測したり、パフォーマンスがどのように進化しているかを感知したりするのがうまくなる。そうして25年の練習を積んできていても、映画のセットを歩いていると、またすぐに初心者に戻ってしまう。これが私たち(映画作家)の多くにとって(映画づくりに繰り返し挑戦し続ける)引き金、もしくは中毒(の理由)なのです」

参考:「People」、「Variety」、「The Hollywood Reporter

2022年7月5日更新

作品データ

公開 2022年7月1日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2022年 アメリカ
上映時間 2:14
配給 ビターズ・エンド、パルコ ユニバーサル映画
原題 Licorice Pizza
脚本・監督 ポール・トーマス・アンダーソン
出演 アラナ・ハイム
クーパー・ホフマン
ショーン・ペン
トム・ウェイツ
ブラッドリー・クーパー
ベニー・サフディ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。