時に優しく、時に厳しく。ほとけの表情から学ぶ、人生の豊かさや厳しさ
観音菩薩の柔和で優しい表情や、不動明王の恐ろしい忿怒の形相など、さまざまな表情をたたえ私たちを見守るほとけ。本展は、飛鳥時代から江戸時代に至る仏教絵画・彫刻の優品約35件を通し、さまざまなほとけの表情とその教えや意味を考える展覧会となっている。
ほとけは、その姿と役割からほぼ三種類に分類することができる。それは、仏教の真理を体現する厳かな「如来」、人々を苦難から救い福楽を与える慈悲の「菩薩」、そして、教えに従わない者や怨敵を屈服させる忿怒の「明王」だ。さらに、この忿怒相のほとけのグループには、武将の姿で外敵を撃退する四天王のような「天」も含まれる。
優しいほとけの代表として展示されるのは、《阿弥陀三尊来迎図》や《菩薩立像》。鎌倉時代の絵画《阿弥陀三尊来迎図》は、この世で善業(ぜんごう)を積んだ者が死を迎えるとき、阿弥陀如来が、観音菩薩、勢至菩薩とともに現れ、死者の魂を蓮華に載せて西方(さいほう)浄土へと運ぶ姿が描かれており、ほとけたちの柔和な表情が、死の恐怖から極楽往生の喜びへと誘う。また、平安時代の重要美術品《菩薩立像》は、ゆったりとした体つきや優しい眼差しが、包み込むような安心感を与えてくれる。
一方、怖いほとけの代表には、《愛染明王坐像》や《金剛夜叉明王像(五大尊像のうち)》ら迫力の明王像がずらり。修復後初公開となる《愛染明王坐像》が全身で表わすのは、人間が抱える煩悩のすさまじさ。真っ赤な体で3つの目を見開き、怒りに髪を逆立たせる。この負の力を転化し、和合や良縁を叶える敬愛法の本尊として信仰された。また、人を喰らうおそろしい夜叉(魔神)であった《金剛夜叉明王像(五大尊像のうち)》は、仏教に改心し、その絶大な破壊力を悪を打ち砕く力に変え、仏法を守護する明王のひとりとなったほとけである。3つの顔にそれぞれ5つの目をもつ異様な顔立ちに、背筋がピンと伸びるような厳しさを感じる。
尊い釈迦如来を礼拝し、優しい観音菩薩に救いを求め、迷いや邪念を不動明王の猛火に投じ、毘沙門天に安堵を頼む――。ほとけたちの発する気と寄り添い、現世での健やかな暮らしを願った人々の、豊かな人生観をも垣間見る展示になりそうだ。
展覧会名 | 企画展 「優しいほとけ・怖いほとけ」 |
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会期 | 2019年7月25(木) 〜 8月25日(日) |
休館日 | 月曜日(ただし8月12日は開館)、8月13日(火) |
時間 | 10:00〜17:00 ※入館は閉館時間の30分前まで |
会場 | 根津美術館 港区南青山6-5-1 >> 会場の紹介記事はこちら |
入館料 | 一般 1,100円、高大生 800円 |
公式サイト | http://www.nezu-muse.or.jp/ |
問合せ | 03-3400-2536 |
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