港区界隈の個性派 博物館

職人技が光る空間で和菓子の奥深さと老舗の軌跡に触れる虎屋 赤坂ギャラリー

虎屋 赤坂ギャラリーギャラリーの企画・運営を担当する文化事業課の浅田ひろみ氏。虎屋 京都ギャラリーでの企画・運営の経験もあり、同店の歴史や和菓子の変遷についての造詣が深い。素朴な質問にも細かく応えてくれる

赤坂見附駅から徒歩7分ほど、国道246号線に面して建つ「とらや 赤坂店」。2018年にリニューアルした新店舗は、建築家 内藤廣氏の設計によって低層の建物へと変貌している。甘味が楽しめる菓寮や、商品が並ぶ売場とともに、地下1Fにあるのが「虎屋 赤坂ギャラリー」だ。虎屋には、約500年の歴史の中で伝えられてきた菓子の絵図帳や古文書、古器物が多数あり、そういった歴史資料や和菓子、日本文化を紹介する企画展を行っていく。また、和菓子教室や講演会などのイベントを行う予定もあり、交流の場でもある。菓寮での喫茶や手土産購入のついでに訪れる人から、和菓子に興味がある人、建築に興味がある人までエルダー層やカップル、子連れ客など、1日に数百人が訪れる。

地下1Fは壁から天井まで一面の檜で独特の質感が漂う
ギャラリーの展示室内をぐるりと囲む檜の組子壁。8×4pの檜の無垢材を立体的に組んでいる

1Fから地下への階段は、檜の板で壁から天井に至るまで覆われており、木のトンネルのよう。下りた先も一面の檜の板壁で、上階の店舗部分とは異なる質感が漂う。
 1つの大きな部屋になっているギャラリーは、檜の無垢材を組み上げた組子壁になっており、職人技を自然と意識させる。この壁も、内藤氏のデザイン。「できるだけ事務的なものが表に出ないように意識してデザインされており、通常は部屋の隅に設置されている照明や空調のスイッチ、内線電話に至るまで、ほとんど隠して設置しています。空間デザインを統一することで、“簡素にして高雅”という建築全体のコンセプトに合わせ、独特な空気感を生み出しています」と、浅田氏。映像を投影する場合は、組子壁の一部を外してデッキを出すそうだが、教えられなければ、取り外せる継ぎ目は全く分からない。きれいに組み上げられた独特の空間は音楽ホールのようにも感じる。
 ライトの明るさ設定では、内藤氏が指定したレベルも4種類登録されている。そのうちの1つを実際に試してもらった。ルクスがぐっと下がり、展示室内の陰影が浮かび上がる。天井のライトが当たった壁には山のような形の影が表れ、それが羊羹の断面図のように見えて面白い。今後の展示やイベントでこの明るさが使われるとどんな雰囲気になるのか…ワクワクしてくる。

展示室はベビーカーを押しながらでも入場可能。空間にゆとりがあり、ゆったり見やすい
撮影自由で、写真の「寒天溶解釜」では大きなヘラを持って写る鑑賞者も多い。インスタなどにアップするのも自由

常設展はなく、年3〜4回、2カ月程度の会期で和菓子や日本文化をテーマにした企画展を行う。リニューアル前に実施されていた虎屋文庫の資料展も、来年以降に年1回のペースで実施していく予定だ。企画展の合間には講演会や和菓子教室なども計画中。「イベント参加者の同意が得られるなら、展示室の半分を企画展、半分をイベントにするといった企画も考えたいと思っています」。浅田氏はそんな斬新なアイデアを交えつつ、見せるだけに留まらない新しいスタイルのギャラリーを目指す意気込みを語ってくれた。ギャラリーのオープンは10時〜17時30分だが、店舗がオープンしているとギャラリーも…と訪れる人も多く、色々なアイデアを盛り込みながら、ニーズに臨機応変に対応するギャラリー運営が求められているという。

絵図の下には、実際に形になった羊羹を展示

取材時の企画展は、「とらやの羊羹デザイン展」。同店に伝わる羊羹のデザインをテーマに大正7年にまとめられた絵図帳に描かれる約450点のデザインが一挙に展示されている。水辺に落ちる赤いモミジの様子を表した《新竜田川》など、決まった羊羹の大きさの中に季節の彩りが見事に表現。《菊の下水》など、細くうねった描写があるものは実際に作る時に相当の技が必要そうだ。それぞれの絵図の下には解説も用意されており、どんな意図で何を表した絵図なのか、掘り下げて知りたい時に便利。中には、すべての解説を読んでいく熱心な鑑賞者も。また、《新更科》、《鶴ヶ岡》などいくつかの絵図は本物の羊羹も展示されており、絵図そっくりに再現されている様子もじっくり楽しめる。展示期間中は復刻販売されるものもあるため、帰りがけに購入していくことも可能だ。絵図帳のデザインを見て、実物を見て、それを買い、家で余韻に浸りながら味わう。美術館ではできない、和菓子屋ならではの鑑賞スタイルかもしれない。

ずらりと並んだ絵図。《春の暮》、《吉野の里》など、花や葉が象られた華やかな柄がやはり人気だ

「今まで和菓子の味や歴史に特化した企画展を多く実施してきましたが、羊羹に450種類ものデザインがあり、色や柄だけでなく、それぞれの名前まで伝承されていることは、あまり取り上げてきていませんでした。羊羹というと、日本人も外国人も黒一色のイメージを持つ人が多く、そのイメージを覆す狙いもあってデザインに特化した企画展を考案したのです」。浅田氏は今展のきっかけをそのように話す。老舗の和菓子屋として味や歴史をフォーカスしてほしいという声は社内にもあったが、浅田氏はデザインに特化することで子どもや外国人などにもアプローチできる点をアピール。実際、短時間でサクッと済ませたい人はデザインだけを見て、じっくり見たい人は解説も読むといった鑑賞者の嗜好に合った楽しみ方ができる点は好評だ。「お気に入りのデザインや自分の名前の漢字が菓銘に使われているなどといった視点で、絵図を選んで解説を読んだり、写真を撮ったりする方もいらっしゃいますね」。とらやの主力商品である羊羹は、若い人や外国人にはなじみが薄い。色々な切り口から、その魅力をアプローチしていくのは、とっつきにくさの払しょくにも役立ちそうだ。

展示台には、和菓子の原料である小豆や寒天などの解説や絵図のもとになった場所などが示されており、デザインだけでなく、知識を得たい探求心の強い鑑賞者にもしっかり対応

創業した室町時代から約500年。ニーズや時代に合った和菓子を作ろうと心掛けた結果、確固たる知名度と信頼を得た“とらや”。今回展示されている菓子見本帳は今でも現役。ここから販売商品を考えることも。一方で、赤坂店限定の羊羹《千里の風》のように、社内公募で商品化されたものもある。伝統と時代のニーズを上手く組み合わせながら進んでいく、老舗の軌跡が感じられる場所、それがこのギャラリーなのかもしれない。

時代のニーズに合わせて変幻自在に変化を遂げる同店の羊羹。棒付き飴のような「花晴(はなはる)」も展示
虎屋 赤坂ギャラリー(赤坂)
外観
港区赤坂4-9-22
03-3408-4121(代)
入場無料
10:00〜17:30
※イベントによって変更する場合あり
休館日
12月を除く毎月6日
丸の内・銀座線「赤坂見附駅」徒歩7分
webサイト
2018年10月取材/2018年11月更新