アメリカ・ニューヨーク生まれ、日本育ち、そして1970年代に再び渡米し、現在もアメリカを拠点に活動するオサム・ジェームス・中川の個展が開催中。

 本展を読み解くためには、キャリア初期の1990年代の作品「ドライブ・イン・シアター」までさかのぼる必要がある。アメリカン・ドリームの象徴であるドライブ・イン・シアターを撮影し、そのスクリーンにKKK（白人至上主義者）のデモや移住労働者などの写真を投影することで、アメリカ社会に感じる違和感や自身のアイデンティティへの問いを表現したこのシリーズ。しかし、今回のギャラリーに並ぶスクリーンはぽっかり空白のままだ。

 2016年に誕生したトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」というスローガンを皮切りに、当時と同じような差別的な発言を耳にするようになり、いてもたってもいられなくなった作家は、今年改めて荒れ果てた野外劇場の撮影を始めたという。今となっては、90年代の自身の作品は未来への暗い予言で、現在そのものではないか。と悲壮感を抱きながら。

 怪しげなモニュメントと化したその風景は、分断深まるアメリカの象徴か、はたまた、いかようにも変わっていける白紙の未来か――その答えはまだ誰も知らない。

会期は12月22日（土）まで。日祝休。時間は11:00〜19:00（土曜は18:00まで）。