タカ・イシイギャラリー(六本木)
ピラミデビルに隣接して建つ「complex665」にある「タカ・イシイギャラリー東京」。1994年、海外アーティストを日本に紹介し、日本人アーティストに海外で発表の場を提供するため開廊した、日本の現代アートを牽引する老舗ギャラリーだ。東京タワー方面に5分ほど行った、AXISビルには写真専門の「タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム」も構える。ギャラリー巡りをするなら、まずは抑えておきたい大御所。
写真やグラフィック作品を中心に取り扱い、荒木経惟、森山大道、畠山直哉など、世界的に活躍する写真家、荒川医、五木田智央、木村友紀といった近年注目株のアーティスト、トーマス・デマンド、ダン・グラハムに代表される日本でも評価の高い海外作家まで、守備範囲は広い。アートと別分野とされる写真は、ラリー・クラーク、奈良原一高らの作品をフォトグラフィー/フィルムで扱い、665では、絵画からパフォーマンスまで幅広い個展を3Fの展示室で実施。1Fには、購入するお客様向けの商談スペース「ビューイングルーム」とオフィスを構える。ホワイトキューブで緊張感を持って作品と対峙できる展示室と異なり、ビューイングルームは、家に飾った時のイメージが湧くように、クリーム色の壁に本棚やソファー、照明などを配置し、リビングのような設え。実際、作品を展示室から移動して掲示すると、雰囲気の変化や、作品が持つパワーが発揮されるケースもあるとか。
同ギャラリーで作品を扱う作家を選定するのは、代表の石井孝之氏。80年代に美大卒業後、ロサンゼルスで画家として活動する傍ら、現地のギャラリーでアート作品を購入して日本の画廊へ送るアルバイトを行っていた。「日本へ発送手続きを行う数日間だけ、自分のアトリエに作品を飾ることができました。ギャラリーで見た印象とガラリと変わり、作品のパワーが凄くて圧倒されたのです。この経験をきっかけに、アーティストとして進むより、若い作家を育てていく方が向いているのではと思いました」。決意は揺らぐことなく、91年に帰国して、94年にタカ・イシイギャラリーをオープン。絵画以外の分野を出していきたいと、ラリー・クラーク、荒木経惟、ジャック・ピアソンといったストレート写真を扱った。当時、海外の作家を扱う国際的なギャラリーは少なく、欧米で話題になっても日本では知られていないアーティストも多かったため、国内に紹介していきたい思いもあったという。
ギャラリストの仕事は各個展の運営だけでなく、ヴィエンナーレなどの国際展、アートフェア、他ギャラリーへの出品手配、作品の在庫管理、購入希望者への対応など幅広く、アーティストのマネージャーのような存在。「アートフェアだけでも年6回。どの会場でも新作を求められ、所属作家は制作で忙しい。そこで、そのほかの仕事をギャラリストが担う。まさに縁の下の力持ちですね。売れる作家は対応回数が増える現実はありますが、所属作家は大御所でも若手でも平等に接しています」と石井氏。
取り扱うアーティストは、国際展やアートフェアで発掘。意外と所属作家からの推薦も多い。「国際展などでは多くの作品が展示されますが、パワーのある作品は主張があり、目に留まりますね。」と、石井氏。近年は、絵画や写真など決まった分野で表現するアーティストが減り、画家が写真を扱い、写真家が彫刻を創るなど、表現方法が多様化。自分の内面を表すのに一番適した分野を作品ごとに選定しており、この流れが普遍化してきている。「時代の流れの一歩先を読むことが大切。若い人の感覚についていけるように常に勉強が欠かせません。ついていけなくなったら、ギャラリーを運営できないと思っています」。美術館と異なり、ギャラリーは作品を販売していかないとより良い作家の作品を扱えない。ギャラリストの力量や目利きが運営に直結する実力世界が垣間見える。
近年の購入者は会社員からプライベートジェットで訪れる富裕層まで、老若男女さまざま。庶民には手が届かないような販売価格なのかと思いきや、書籍を除き、同ギャラリーで扱う作品の最低価格は5万円からと意外とお手頃。会社員がコツコツお金を貯めて購入する時もあるとか。
「実物の作品を見ずにネットで買うのは極めてまれ。事前に個展の時期や、アートフェアにその作家を出品してほしいという依頼がメールで来て、実物を見て購入に至ります。アートフェアで気に入った作品が見つかって、似た作品を探しに来るケースも多いです」。現代アートは分かりやすい作品が少ないため、購入者側も事前に調べて、知識を入れるのが定石のようだ。これは購入者に限らず、個展を見に来る一般客にも応用できる。「いきなり個展に行って作品を理解しようと思っても、ギャラリーに出展する作家たちは先端アートだったり、現代アートの中枢を行く人だったりするから、即理解は難しい。行く前にプレスリリースを読んでみる、作家の経歴や代表作品をネットで調べておくだけでも受け止め方が変わります。会場でギャラリストに作品のポイントなどを質問し、レクチャーを受けたら一層楽しめますよ」。石井氏は、一般の多くが「分からない」と見るのを諦めていると指摘。気になる作品が分からなくても、分からない所を突き詰めていくと、その魅力に近づける。小さな疑問でもギャラリストに聞いてみてほしいと話す。「ギャラリストは、作家の代弁者。作家自身のこと、作品のことをしっかり勉強していて、資料もたくさんそろえています。説明するために待機しているわけですから、どんどん利用してほしいですね」。何気ない個展での質疑応答が、その人の心を打ち、数年後に購入に至るかもしれない。そんな年単位で顧客発掘を意識している側面もあるという。
森美術館、国立新美術館、サントリー美術館に加え、街中に多くのギャラリーがある六本木エリア。アートの街としての認知も広がっている。デートコース、会社帰りなど、ふらっと訪れる人も増加傾向。一層ギャラリーを身近に、アートを生活に浸透させるなら、SIDE2、ヒロミヨシイ、アクシス、ピラミデなどを巡る1日アートツアーを敢行してみるのも面白いという。今後、注目するのは天王洲エリア。新規ギャラリーやアート関連のイベントが多く、新しいアートの発信地に。アート好きは、2エリアを渡り歩くのも楽しいかもしれない。
名称 | タカ・イシイギャラリー東京 |
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所在地 | 港区六本木6-5-24 Complex665 3F |
電話番号 | 03-6434-7010 |
営業時間 | 11:00〜19:00 |
休廊 | 月曜日、日曜日、祝日 |
アクセス | 日比谷線・大江戸線「六本木」駅徒歩3分 |
公式サイト | http://www.takaishiigallery.com/jp/ |
名称 | タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム |
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所在地 | 港区六本木5-17-1 AXISビル 2F |
電話番号 | 03-5575-5004 |
営業時間 | 11:00〜19:00 |
休廊 | 月曜日、日曜日、祝日 |
アクセス | 日比谷線・大江戸線「六本木」駅徒歩8分 |
公式サイト | http://www.takaishiigallery.com/jp/ |
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