PERROTIN TOKYO(六本木)
六本木駅近くのピラミデビル1階に2017年6月にオープンしたペロタン東京。アートバーゼルなどのアートフェアに参加し、パリ、香港、ニューヨーク、ソウルに拠点を持つ名門ギャラリーだ。21歳で最初のギャラリーを開設し、世界規模へと発展させてきた仏人オーナー、エマニュエル・ペロタン氏を筆頭に敏腕ギャラリストが集い、JR、KAWS、マウリツィオ・カテラン、ソフィ・カル、ジャン=ミシェル・オトニエル、村上隆など、国際的に活躍する著名作家を多く抱える。世界のアートシーンを牽引するギャラリーの日本市場へ向けた取り組みを、東京スタッフの山中タイキ氏に聞いた。
村上隆や加藤泉らとの打ち合わせ、顧客対応などで頻繁に日本へ行くようになり、東京にギャラリー開設を決断。1993年に初来日しているペロタン氏にとり、多くのギャラリーが集まる六本木は馴染みの土地だ。アクセスも良く、アートで街の活性化を図る同地は、ペロタンがギャラリーとして目指す方向性とも合致し、満を持してのオープンとなった。オープン時の注目度の高さもさることながら、外観もガラス張りで一般的なギャラリーと趣がずいぶん違う。「展示が全部見えるので、外から楽しまれる人もいます。設計デザインを担当したアンドレ・フーと話し合い、パブリックアートのような面白さを体感できる空間を目指しました」と、山中氏。ピーコックの羽で動物などのモチーフを制作するイタリアのパオラ・ピヴィの個展では、巨大な作品が2点窓際に吊るされ、思わず振り返るインパクトを発していた。11月22日(水)からは、メゾン キツネといったファッションブランドとコラボレーションしているマウリツィオ・カテランの「トイレットペーパー・プロジェクト」を開催。ビジュアル感のあるポップな作品が集う。130平米ある室内は、企画展示室とショールームの2部屋で構成。「東京では日本の住宅事情を勘案して、小さ目のサイズを多くそろえている点が特徴ですね」。価格は20万円前後から。ギャラリストたちの独自の視点で展開されるショールームは、企画展よりもハイペースで作品が入れ替わる。
東京はほかの拠点と比べて来場者数が多く、オープン当初は1日100人ほどが来場。路面店で入りやすい雰囲気を生かして、子連れ客でもアートを体感できる気軽さをアピールしていく。「触れられるのは困りますが、立ち入りを制限する線もないので、近くでじっくり見られます」。子どもの頃からのアート体験は、アートのすそ野を広げる上でも重要な取り組みだ。「アートを購入する文化が定着していない日本では、販売することだけに固執するのではなく、所属作家を知ってもらうために、ファッションブランドとのコラボやイベント開催などを積極的に行っていきます」。車やブランドバッグを自分へのご褒美に購入する感覚のように、お金を貯めてアートを買いたいという意識を持たせるのが目標。日本人はフィギュアを集めるなど、コレクター精神の強い人が多く、今後の盛り上げ方によってはアートもステータスシンボルの一つとして広がっていくだろうとの見方がある。
現代アートは解釈が難しいと筆者が話すと、山中氏は自分で解釈を生み出すという新しい視点を提案。「例えば黒の画家ピエール・スーラージュは、作品にメッセージをほとんど込めていません。見る人に絵を楽しんでもらい、意味付けはお客に任せていると話しています。鑑賞者が直観に従って自由に意味合いを考えられる、それはまだ作家にも作品にも評価が定まっていない現代アートならではの楽しみです」。確かに、画面一杯に黒一色で描かれた彼の作品は鑑賞者に冷たくも優しくも迫り、強いインパクトを放つ。「ゴッホのひまわりは、貴重な絵と評価されているから人が集まるのです。でもそれは、学んだことを確認するだけ。作家の真意を探る面白さは、現代アートならではの魅力ではないでしょうか」。もっと知りたいという探求心は、現代アートを楽しむ上で欠かせないキーワードなのかもしれない。
東京が世界で5つ目のギャラリーとなるペロタン。ブラム・アンド・ポーなど、各国に拠点を持つ国際的なギャラリーの中でも拠点数の多さは突出している。アート作品は高価なため、頻繁に売れるわけではない。維持するためのコスト、人材の確保にはどの業界にも相通ずる大変さが横たわる。それでも、各国に拠点を置くのは、それぞれの国に市場があるだけでなく、なるだけ直接会って、実物を見て購入してもらいたいから。「アートの売買という行為は、人と人とのコミュニケーションでもあります。購入者にはコレクターだけでなく、アートディーラーと呼ばれる転売目的の画商も交じっており、どんな人に販売するかの識別が大切です。大切な作品を利益主義の画商に販売してしまうと、作家からの信頼を損ねるだけでなく、ギャラリーの信頼感も失ってしまいます。作品を大切にしてもらえる人かどうか、その判断には実際に会うのが一番なのです」。山中氏の言う“信頼感”はビジネスだけでなく、人が付き合う上での根本でもある。しかし、投機の対象にもなりうるほど、大きなお金が動くアート業界では、より切実さが増す。何年か後に有名になり、作品価値が上がる作家がいるのは確かだが、売ることを前提としたお金儲けには協力しない。作家を育てる一面も持つギャラリーだからこその心構え。顧客と直接会って話をしていると、目的の作品がなかった時に代案を提案するだけでなく、コレクションの系統を聞いてそれを補完できる別のテイストの作品を勧めたり、話をしていく中で顧客が本当に求めていた作風に気付いたり、アーティストの将来性を考えて方向性が変わったり…といったケースも。その場に即した提案や顧客の深層を読んでそれに合った作品を提示できるギャラリーは、ギャラリストが販売のプロとしての能力を発揮する場であり、顧客にとって予想外の作家や作品と出会える場でもある。時間をかけて話をし、何度か通ってもらい、別の拠点から取り寄せるときもあり、そうやって勧めた作品を顧客が購入するまでの時間はまちまち。即決断する人、1週間くらいで決断する人、次の個展を見てから判断する人もいて、数か月にわたることも珍しくない。
2018年6月頃まで、日本でまだ知られていない所属作家を中心に企画展で紹介していく。村上隆を通じて、カイカイキキギャラリー所属のMADSAKI、タカノ綾、Mr.がペロタンで個展を開いた過去もあり、所属作家のつながりを生かした独自の企画も期待できそうだ。また、東麻布のTake Ninagawaにも所属する加藤泉、銀座のギャラリー小柳に所属するソフィ・カル、渋谷のgallery NANZUKAに所属するダニエル・アーシャムらのように、別のギャラリーにも属する作家の場合は、所属先のギャラリーと合同でプロジェクトを行う可能性も。「アートの枠にこだわらない面白さはペロタンの強み。拠点間で切磋琢磨することはもちろん、異業種とのコラボ、各種イベント、日本では薄かったギャラリー同士のつながりにも注力していきたい。日本の若い作家にも期待を寄せている」と、山中氏は今後に向けて意気込む。アジアのアートが盛り上がりを見せ、オリンピックへ向けて一層ヒートアップしていく東京で、新たな日本人作家がペロタンに加わる日もそう遠くない未来に出てきそうだ。
名称 | PERROTIN TOKYO |
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所在地 | 港区六本木6-6-9 ピラミデビル1F |
電話番号 | 03-6721-0687 |
営業時間 | 11:00〜19:00 |
休廊 | 月曜日、日曜日、祝日 |
アクセス | 日比谷線・大江戸線「六本木」駅徒歩2分 |
公式サイト | https://www.perrotin.com/ |
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