ギャラリーガイド 個性派ぞろいのギャラリーを探訪

作家の最新動向や新作を分かりやすく身近に。構えず親しく触れ合えるギャラリーGallery Art Unlimited(乃木坂)

乃木坂駅から徒歩1分。東京ミッドタウンと同じ、外苑東通り沿いに建つビルの3Fにあるギャラリーアンリミテッド。西武百貨店やセゾン現代美術館で展覧会の企画やキュレーションなどに長く携わってきた代表の高砂三和子氏が2006年にオープンさせた。36uのコンパクトな展示室にはキャプション付きの作品が並び、どこか温かみのある雰囲気が漂う。ギャラリーの使命や作家との関わり、美術館との違い、愉しみ方など、初心者にとって見えづらいギャラリーの本質に迫る。

もっとたくさんの日本人に日本の現代アートに親しんでもらいたいと話す高砂三和子氏

特定作家の作風の変遷を無料で楽しめるのがギャラリー

マイケル・ケンナ、柴田敏雄、荒川修作、辰野登恵子、盛田亜耶、進藤環など、美術、建築、写真、映像まで網羅し、国際的に活躍するベテラン作家から20代の若手までと多彩。「写真専門ではなく、アート分野で活躍したいマインドを持っている作家が、表現の方法として写真を用いるケースが多く、写真はうちの特徴の一つになっています」と、高砂氏。ダムなどの写真で知られる柴田敏雄も、画家を経て写真家となっており、作品には絵画的な視覚が生きている。確かに、所属作家の作品を順に見ていくと、どの作品もそれぞれに独特な世界観が漂う。
 「特定作家のファンも来ますが、質の高い見応えのある作品、意欲的な若手作家も取り上げているので、うちの個展の傾向を好み、毎回訪れる人もいますよ」と、高砂氏。10代から80代と幅広く、地方や海外から訪れる人も多い。美術館がコレクションに加えるケースもあるとか。
 「ギャラリーは作品を売る場所ですが、繰り返し同じ作家を取り上げて、創作の変遷を見せることも重要な使命。最新動向を個展という形式で発表しているのです」。体系的、権威的なものを扱う美術館では、同じ作家を毎年取り上げることはできない。作家が所属するギャラリーこそ、その作家の最新情報が集まる場所なのだと言う。個展は一種の定点観測的な役割も担っているわけだ。取材日は写真家、進藤環の個展を開催していたが、プリントを切り刻んでコラージュし、再び写真化するこれまでの手法に加えて、今回の個展ではテーマに基づいたストレートフォトを展示。新境地を披露していた。このギャラリーに頻繁に足を運んでいる人や作家のファンなら、この新境地に感慨深い思いが湧くのかもしれない。高砂氏はギャラリーの魅力を次のように話した。「作品や作家との距離が近く、最新動向を無料で楽しめ、気に入った作品があればコレクションできる点が最大の魅力。ギャラリー巡りの良さを覚えれば、アート好きにとって非常に楽しめる場所だと思います」。

盛田亜耶「名画の身体」展 2017年 会場風景

日本で日本の作家の作品を日本人に広めていきたい

画廊や美術館で長く現代美術と触れてきた高砂氏はギャラリーを開設するにあたり、対象を日本人に設定。「セゾンにいた当時は、個人が現代アートを買うことは少なく日本の美術館にコレクションを納入するため、海外の権威的な作品を輸入していました。その後、美術館で展覧会や教育普及など芸術支援活動に携わり、営利と非営利の双方を経験したわけです。自分でやるなら、クオリティの高い創作を行っている日本の作家を日本で紹介し、マーケットを開拓していきたいと思い、このギャラリーを始めました」。画廊や美術館時代に付き合いのあった作家たちが集い、遠くて広い空間より狭くても便利な場所で画廊を開いてほしいという要望から、六本木にも近い乃木坂にオープン。アートを介在させてお客様とも作家とも語り合える、サロンみたいな空間を目指したという。展示室の中央にあるテーブルによって、作家の家のリビングにお邪魔したような温かな雰囲気が印象的だ。「声もかけず目も合わさないギャラリーもありますが、うちは説明した方がその作品に親しみがわくと思うので、時には話しかけて解説するようにしています」。若手の作品なら5万円くらいからあり、一般の人でも手が届きやすい。間口を広げるべく、作品の側にキャプションを置き、価格も表示しているという。
 個展スケジュールは1年先まで決まっているが、個展の企画段階では作品がまだ出来上がっていない。具体的な物が見えない中で出品作品を選別していくのは、ギャラリストの醍醐味でもあり苦しみでもある。創作で迷っている場合は背中を押す、集中し過ぎていたら違う視点も勧めてみるといったアドバイスも。「作家は自分の作品なのでどれもかわいく感じてしまう。話すことによって方向性が見えてくる時もあると思うので、話を聞いたり、アドバイスはよくします」。コミュニケーションの結果、よりよい作品が生まれていく。作家と等身大で向き合っている姿勢を、他のギャラリーと一味違うスパイスに感じるのは気のせいだろうか。

Michael Kenna, Curious Cloud, Campo Imperatore, Abruzzo, Italy. 2016 Photo © Michael Kenna/RAM

アートは自分の精神が一番自由になるための異世界への窓

高砂氏は、現代アートを楽しむにはまずは1枚買うことを推奨。部屋にかけてみることで、その作品がどう映るか、その作家について興味が湧くかどうかが見えてくるのだそうだ。
 「若手の作品を5〜10万で買ったら、それは最安値と思った方が良いです。大概の作家は成長し、年月とともに値段も上がっていきます。好きな作家の作品を持つと、その作家が後年有名になり、美術館で展覧会を開くときに作品を貸してほしいと言われるかもしれません。才能ある若手は急に成長します」。
 美術館やギャラリーでたくさんの作品に触れ、自分なりの金の卵を見出し、その成長を共に味わえるのは、単なる“好き”以上の喜びとなるに違いない。加えて、現代アートの作家はどこかのギャラリーに属していることが多いので、その作家を追いかけることで別の作家を知ったり、興味のなかった写真に魅かれるようになったりと、自分自身の変化も体験できる。
 高砂氏は、アートを自分の精神が一番自由になるためのものととらえる。「作家は個展の締め切りはあるけれど、基本的に何者にも縛られません。見る側もその自由さを楽しめばいい。作品は精神が自由になる異世界への窓のようなものです」。作家の作品からその気楽さと脱力感を味わう、作品世界に没入するなど、表現を見て自分の心を解放させる。「現代アートを学ぼうという姿勢では苦しくなってしまい、楽しみは感じられません。お気に入りの作家や作品と出会えるかな?くらいの気軽な気持ちで見てほしいなと思います」。 “出会い”を求め、まずはギャラリーの扉を開けてみよう。

メルセデスベンツのショールームとTOTOギャラリー間の中間に立つ
  • Gallery Art Unlimited(乃木坂)
  • 港区南青山1-26-4 六本木ダイヤビル3F [MAP]
  • 03-6805-5280
  • 13:00〜19:00
  • 休館:火曜日、日曜日、祝日
  • 千代田線「乃木坂」駅徒歩1分
  • webサイト
2017年10月取材/2017年11月更新