ギャラリーガイド 個性派ぞろいのギャラリーを探訪

個展ごとに空間も変化! 若手を中心に多様なアートの世界観を紹介CALM&PUNK GALLERY(西麻布)

西麻布交差点を北へ進むこと、数分。青山霊園に面した路地にある「CALM&PUNK GALLERY」。気鋭のクリエイターを紹介するアートブック『GAS BOOK』の出版からスタートし、現在はライセンス業務や企画制作などを手掛けるガスアズインターフェイス株式会社が、2006年にオープンさせた。老舗画廊が扱う正統派の現代アートよりもポップで軽やか、グラフィックやファッションの背景を持つアーティストの展示も多く、訪れる人も20〜30代と若手がメイン。個展によっては、ファッションやポップアート好きの中高生が来ることもあるという。
 老舗と異なるように見える同ギャラリーの方向性や、様々な背景を持つ作家たちと作り上げる展示に関してギャラリー責任者の安部憲行氏に聞いた。

ギャラリーを統括する安部憲行氏。10代の頃から『GAS BOOK』を愛読。ロンドンに留学した際、現地でアーティストと親交を深め、その繋がりは現在の海外渉外業務にも生かされている

クライアントワークを通じて国内外のアーティストと共同作業

1996年に複数のクリエイターを紹介するCD-ROMマガジンとして発行され、2002年からは書籍として発行されている『GAS BOOK』。ニューヨークのMoMA Design Store、パリのColette(現在は閉店)、ロンドンのmagMAなど、世界中のアート関連のショップで販売されたこともある。この制作や、クリエイティブ関連のクライアントワークなどを通し、世界各国のデザイナーやアーティストとも共同作業を行ってきた。その中には、着せ替えキャラクターChappie(チャッピー)で一世を風靡した老舗グラフィック集団「groovisions」やファッションブランド「P.A.M.」のデザイナーPERKS AND MINI(パークスアンドミニ)、ロンドンを拠点とするポップアーティストFERGADELICなどのベテラン勢、近年注目のグラフィックアーティストYOSHIROTTEN、コミック・アブストラクション・ムーブメント(漫画における抽象表現主義)を推進するLucas Dillon、Russell Mauriceなどがいる。

70㎡ある展示室は5mある高い天井が自慢。原状復帰すれば、個展期間中は作家が自由に内装を変えられる。壁面の色も、インスタレーションも思いのまま。写真はモデル兼アーティストColliu(コリュ)の個展「ROOM」(2017)
Photo by Yutaro Tagawa

制約や制限を外し、自由な表現から新たな可能性を引き出す

「クライアントワークを一緒に行う中で、今、この作家に自由に表現をさせたら刺激的なものが見られるのではないか、また、今の創作スタイルを記録として残しておきたいと感じる場面が出てきていました。そんな我々が注目する作家をプレゼンテーションする場として、このギャラリーは生まれました。密なコミュニケーションを保ち、作家のモチベーションを高めるため、グループ展は少なめです」と話す、安部氏。美術館のような教育普及の側面も、画廊のような販売色も前面に出さない、作家の可能性を試すラボといった趣だろうか。作家を所属させて時間をかけて創作活動に寄り添い、作品を管理・販売していく正統派のギャラリーとは異なる方向性がなんだか新鮮だ。
 「アートとデザインは、目的も機能も違う分野だと思いますが、近年、強い作家性や個性を保ったままクライアントワークのデザインに取り組む作家に多く出会いました。もちろん制限の中でこそ見える個性もありますが、自由に表現してもらうことでしか感じられないインパクトもあります。そういった作家が正面から自らの創作に向き合う場としてこのギャラリーはあります。そのため、告知と作家たちの挑戦の場としての役割が強いのです」。
 もともとの信頼関係があるからこそ、個展の話も勧めやすい。開催前に、日本人作家には新しい挑戦を提案することも多いのだとか。一方の海外作家は、本業で海外渉外を担当している安部氏が繋がりを生かして声をかけることが主。インスタグラムを見て、天井高5mある展示室の空間を気に入り、問い合わせが来る場合もある。

2018年は、“コミック・アブストラクション・ムーブメント”やその表現に近い作家をまとめてラインナップ。5月に開催する水野健一郎の個展「MICROFICTION 2018」でも、どこかで見たようなキャラクターが登場

スタッフが面白いと思う作家を多彩なジャンルから集める

個展の企画は、半年から1年と比較的スピーディ。オーナーと、安部氏を含むギャラリースタッフ3人で互いにおすすめの作家を推薦しながら、話し合って決めていく。今までピクセルデザイナーのten_do_ten、モノクロの絵を描くペインターのLy、モデル兼アーティストのColliu(コリュ)、視覚ディレクター・グラフィックデザイナー・映像監督の河野未彩、アーティストのオオクボリュウ、メディアアーティストの谷口暁彦などが登場。クライアントワークの中で作家に個展を呼びかけたり、逆に作家が申し出たり、安部氏やスタッフが見込んだ作家に声をかけたりと、個展に至るケースは様々で、具体的な基準はない。
 「交流がある作家は、アート、グラフィック、デザイン、ファッションなどに複合的に携わる人が多いです。谷口暁彦さんも、ICC(NTTインターコミュニケーション・センター)に作品が展示されている著名な作家ですが、それまでの10年間の活動を振り返るにあたって過去展示を行った場所とは異なる空間を探していたようです。そんな作家たちがのびのび創作活動できる場所にしたいので、個展に基準は設けていません。スタッフみんなの感覚を大切にしています」と安部氏。自由だから固定観念に縛られずに、見せたいアートを出してきた結果、ペインター、デザイナー、グラフィック、メディアなど、多様なジャンルから人が集まった。純粋にスタッフが面白いと思う作家とその作品を紹介しているからこそ、幅広く人材を集められ、アートやファッションに敏感な若い世代の感性に響くのかもしれない。

メディアアーティストの谷口暁彦が、個展「超・いま・ここ」(2017)で展示した、Volvicの水をiPad表面に流し、水が勝手にキーボードをタイピングする作品
Photo by Yutaro Tagawa
ペインターのLyは、展示室をアトリエに作家オリジナルのモンスターを作り上げた
Photo by Yutaro Tagawa

個展ごとに内装が変わる!空間全体で楽しめる点が魅力

比較的安価で若い世代にも手が届きやすい作品も多く、10代の学生も訪れるカジュアルな雰囲気ながら、展示室内は個展ごとに作家が内装を変えて良いため、それぞれ個性的でインパクトがある。
 Lyは、個展「FAR FROM HOME」(2016)で、展示室をアトリエにしてベニヤ板の巨大なLUV(作家オリジナルのモンスター)を制作。壁面にモノクロの風景を描き、独創的な世界を創り上げた。ベニヤ板のLUVは最後に解体してパーツ単位で販売した。
 佐藤拓人は個展「tarimú」(2017)で、作家の地元・横須賀の海で見つけた漂流物を使って大掛かりなインスタレーションを制作。Colliu(コリュ)は個展「ROOM」(2017)で、それまでの平面での表現から初めての立体作品にチャレンジ。「今までの創作の延長上として、平面から立体に一歩踏み込み、挑戦したことで作風に広がりや奥行きが見られるようになりました」。安部氏は同展の成果をそのように分析する。

視覚ディレクター・グラフィックデザイナー・映像監督の河野未彩は、同ギャラリーで初めての個展「not colored yet」(2018)を開いた
Photo by Yutaro Tagawa

全壁面を使った個展スタイルの浸透により開催回数も大幅アップ

谷口暁彦は、個展「超・いま・ここ」(2017)で、Volvicの水をiPad表面に流し、水が勝手にキーボードをタイピングする作品を展示。ランダムに文字が入力されるが、時々「Volvic」と入力される。鑑賞者は関連性を探ろうとするが、実は予測変換によってランダムな文字列から「Volvic」と表示されるよう設定されている。人間の思い込みや関連性を掘り下げた視点がユニークで注目を集め、多くの来場者を集めた。
 河野未彩も初個展「not colored yet」(2018)を開催。光の三原色を利用し、彩る影を楽しむライトを開発し、フォトジェニックな空間を演出した手法に、安部氏やギャラリースタッフも驚いたという。
 中でも、全壁面を使って圧倒的な存在感を見せつけ、その後に個展を開いた作家たちはもちろん、安部氏たちにも大きな影響を与えたのが、オオクボリュウの個展「Like A Broken iPhone | アイフォン割れた」(2016)。アイフォンを落として割れてしまう瞬間のアニメーション100コマの原画を、立体、タイル、ラグなど異なる素材やメディアで制作し、ギャラリー空間全体に展示したのだ。
 「100コマを動画で流すと10秒と非常に短いのですが、1コマが1作品となって埋め尽くされた室内は圧巻でした。以来、壁の色を変えるといった大胆な展示が増えます。過去最大の来場者である1200人が訪れました。我々にとっても、これをきっかけにギャラリーの認知が進んだため、徐々に個展の開催頻度を増やす方向になるなど、作家もギャラリーもターニングポイントとなる個展でしたね」と、安部氏は振り返る。

オオクボリュウ「Like A Broken iPhone | アイフォン割れた」展の展示風景。ギャラリー空間全体を使ったインスタレーションは反響を呼び、ほとんどの作品が売れたという
©Ryu Okubo / Photo by Shusaku Yoshikawa

常に面白い展示が見られるアートの発信地を目指す

2006年のオープンから2018年4月で計42回の個展を実施。年に数回のペースだった時期もあるが、2012年から次第に数が増え始め、2017年には年に10回とほぼ毎月に大幅アップする。クライアントワークという枠が外れた作家たちは、展示室を縦横無尽に使い、ギャラリーサイドの期待を裏切らない、ユニークで個性的な個展を開いてきた。
 作品を展示するだけでなく、壁や床も自由に変え、部屋をまるごとインスタレーションした個展は強いインパクトを放つ。そんな新しいアートの魅力を伝える発信地を目指したいと安部氏は言う。「個展を訪れる人は、その作家のファンなことが多いのですが、このギャラリーに来ると何か面白いものが見られる。ワクワクする、楽しいから行くといった、ギャラリーの企画を目的に人が集まるようになってくれることが目標ですね」。Tシャツなどのグッズや広告など、身の回りにあるデザインが大きく飛躍してアートになる、そんな新しい潮流をじっくりと肌で感じてみたい。

西麻布交差点を北進した路地にあるギャラリー。やや奥まった所にあるため、地図は必携だ。各企画展のオープニングは多くの人が訪れるので、初めてギャラリーを訪れる人も気軽に入りやすくオススメ
  • CALM&PUNK GALLERY(西麻布)
  • 港区西麻布1-15-15 浅井ビル1F [MAP]
  • 03-5775-0825
  • 12:00〜19:00
  • 休館:月曜日、日曜日、祝日、展示替え期間
  • 千代田線「乃木坂」駅より徒歩8分
    日比谷線・大江戸線「六本木」駅徒歩15分
  • webサイト
2018年4月取材/2018年6月更新