ギャラリーガイド 個性派ぞろいのギャラリーを探訪

知識は後から!今を生きる作家が生み出したアートを楽しむ小山登美夫ギャラリー(六本木)

ピラミデビルの近くに建つcomplex665ビル。3つのギャラリーが集まったこのビルは、最先端の現代アートが気軽に楽しめるスポットだ。その中の「小山登美夫ギャラリー」は、オノ・ヨーコや蜷川実花といったメジャー作家、ソピアップ・ピッチ、シュシ・スライマンといったアジアの作家など27人の作家が所属。耳が聞こえない中で創作活動を行ってきたジェイムズ・キャッスルと、18歳でデビューしてから25歳で亡くなるまで約500点の作品を創作した中園孔二の2人の故人の作品も紹介している。写真、彫刻、絵画とジャンルを織り交ぜ、毎月展覧会を開催。
 若手とパブリックアートを手掛ける作家は、別グループである“小山藝術計画”で取りまとめ、ヒカリエ8Fにあるもう一つのギャラリー「8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery」で主に活動している。過去に京都、シンガポール、代官山などでギャラリー運営を行うなど、現代アートの普及に余念がない。

©Ryan McGinley  photo by Kenji Takahashiライアン・マッギンレー展「NY」(2018年)。展示室は全95平米あり、作家の個性が現れる展示演出がなされる
©Ryan McGinley  photo by Kenji Takahashi

作家が生み出した“生”な美術の魅力にはまり、ギャラリストの道へ

東京藝術大学出身の小山氏。大学では美術史を勉強していたが、当時は映画が好きで映画制作をやりたいと思っていた。ところが、先輩が勤めていたギャラリーに遊びに行き、そこでアルバイトをすることに。横尾忠則、舟越桂、中西夏之といった憧れの作家たちと出会い、彼らと話しながら展覧会を企画していく面白さ、生み出されたものを展示する“生”な美術にはまり、以来ずっとギャラリストとして活動してきた。
 「きちんと作品を理解しているか、当時は自信がなかったけれど、作家本人から作品の意図を聞いて、たくさんある中で自分が選ぶならこれがいいなと思ったりしていました」。小山氏は当時を振り返る。今でも作品を見るのは好きで、上野の美術館から海外のギャラリーまで時間があれば覗いて歩く。六本木では同じビルにあるタカ・イシイギャラリーやシュウゴアーツ、近隣のピラミデビルのオオタファインアーツ、ワコウ・ワークス・オブ・アート、ロンドンギャラリーなどを訪問。若手のギャラリーなら、駒込、大塚、巣鴨など、山手線沿線が熱いとか。

ギャラリー運営だけでなく、審査員なども引き受け、幅広く活躍する代表の小山登美夫氏

SNSで話題になり、初日に完売する個展も

顧客は40〜50代が中心。購入する人も同じくらいの年代が多い。展覧会ごとに、社内プレススタッフがリリースを作成しているが、最近はSNSなどで話題になり、爆発的に売れる場合も。2018年11月にヒカリエで開催した「小山藝術計画」所属の陶芸家 山野千里の個展は、なんと初日で完売。5〜50万円程度と比較的手頃な価格とネットでの注目が功を奏した。
 2017年に東京都美術館で個展を開催した杉戸洋は、2019年2月から開催される森美術館の「六本木クロッシング2019展:つないでみる」にも参加予定。注目が高まることを意識して、3月に杉戸洋とアルゼンチンの作家、ヴァルダ・カイヴァーノの二人展を開催。また、世界の美術界でも知られていて日本のコレクターにも人気のあるドイツの彫刻家シュテファン・バルケンホールの個展も企画している。動物や人物をかたどった木彫り作品は独特な雰囲気だ。「近年、外国人のお客様が増えてきており、うちでも意識して外国人の来廊者に声をかけています。そんな様相のなか、彼を取り上げることで外国人の顧客に注目してもらい、日本人作家を知ってもらうきっかけに繋がればと思っています」と、小山氏は語る。

©Richard Tuttle  photo by Kenji Takahashiリチャード・タトル展「8, or Hachi」(2018年)。ワイヤーやメッシュ、布などを使った立体作品や版画作品を展示
©Richard Tuttle  photo by Kenji Takahashi

作家、作品の魅力を的確に伝えるために作家に具体的にアドバイスすることも

展覧会では、その作家の世界観を十分に表現できるように、作家、小山氏、ギャラリースタッフが展示室を作り込んでいく。どう表現したら作家を皆に知ってもらえるのか、どんな作品をどのように展示するかは、ギャラリストの腕の見せ所。特に、壁にぶつかっている時は、その作家、その作品が顧客層と繋がっていくための方策を考えていく。
 「例えば、菅木志雄の作品名は漢字で統一されており、英訳の際はローマ字表記にしていました。しかし、ローマ字では漢字の意味は全く伝わりません。そこで、詩みたいになるけれど、長めの訳を入れたら?とアドバイス。実際に変えたところ、外国人客にも意味が伝わって、作品への理解を深めてもらえました」。作家のこだわりが強すぎて作品の魅力が伝わらないのはもったいないと思うことが多く、50歳を過ぎてから方向性などのアドバイスを積極的に作家に言うようになったのだとか。

菅 木志雄展「広げられた自空」(2018年)。「もの派」の主要メンバーとして、戦後日本美術における独自の地平を切り開いてきた
©Kishio Suga  photo by Kenji Takahashi

現代アートの鑑賞に教養は必要ない

近年、現代アートは教養の一つとして捉えられがちだ。しかし、小山氏はこの風潮に異を唱える。「純粋に現代の作家によって作られたものを見るのが鑑賞で、教養は必要ないと私は思います。作家が美術史を勉強していても、全部の歴史を網羅して創作するわけではありません。確かに、知識が増えることでより深く鑑賞できる面もありますが、その点ばかりを追求してしまうと敷居が高くなりがち。作品を見て何か感じることが一番大切ではないでしょうか」。現代アートの場合、作家も鑑賞者も同時代。展覧会のオープニングでは誰もが作家本人に会え、交流も可能だ。小山氏は、色や形、かわいさなど直感で楽しめる点が、現代アートの自由さだと話す。本来は、誰もが感覚で作品の意図を探るバリアフリーなアートなのだ。

リチャード・タトル展「8, or Hachi」(2018年)のオープニング。通常、作家が在廊しており、直接、作品の意図を尋ねることもできる

“好きか、嫌いか”から表現の魅力に踏み込んでいく

鑑賞の最初のポイントは“好きか嫌いか”。有名な作家だから良い作品に違いないといった先入観も不要だ。「嫌いな作家でも、凄いことをやっている場合もあります。見ないのではなく、なんで嫌いなのか一歩踏み出してみると、意外と作家の意図や作品の斬新さが分かります」。小山氏の場合、会田誠が創作で用いる政治的なアプローチは、あまり好きな表現ではないとか。でも、その表現はオリジナリティがあって凄いと感じており、多くの人から支持を受けるのも納得なのだという。
 「一方で、好きですごいと思うのに、どこがいいのか分からない作家もいます。サイ・トゥオンブリーです。よく分からないけれど、彼の絵を見ていると思考が停止するのです。色、文字、線、絵の具が、何かイメージを表したり、音楽などを表現しているかは分かりません。ただの表現でしかなくて、そのことが逆に楽しいのです」。言葉には置き換えられない魅力は、理性を吹き飛ばして人の心を打つのかもしれない。
 グーッと寄ってみても、じっくり時間をかけて眺めてみても数式とは違って答えは出ず。こうなのかなと自分なりの解釈はできるけれど、その絵自体から受ける力はもわ〜っとしか受け取れない。作品の中に隠された要素を自分なりに見つけていくしかないのだ。

桑久保徹展「A Calendar for Painters Without Time Sense 1. 3. 4. 5. 7. 8」(2018年)。何もない空間に絵があるだけで華やいだ世界が広がる
©Toru Kuwakubo  photo by Kenji Takahashi

人間もアートも互いに自然から生まれた産物。だから通じ合う

小山氏は、病院や企業などの待合室など白い壁だけの部屋に入ると、落ち着かなくて何か絵を置きたいなと思ってしまうという。思い返してみると、ホテルではどの部屋にも絵が飾られている。部屋に入って、絵を見ると何となくホッとするものだ。アートには、緊張をほぐす、思考を切り替えるといった効果が確かにある。その意味では、人間にとってなくてはならない“もの”なのかもしれない。「植物や動物と同じように、人間は自然の産物。アートは、枠やキャンバスなどの道具は人工的でも、生み出された作品は作家の手によってつくられているものなので、自然の産物なのではないでしょうか。だから、人の心に通じるものがあってホッと落ち着く。植物、犬などと同じ感覚なのだと思います」。

「シャーロット・デュマ展」(2018年)。オランダの映像作家の作品展を初めて開催。好評で、映画祭などをギャラリーで行うのも面白いと感じたという
©Charlotte Dumas

定点観測のように同じギャラリーに通うことでアートの眼を養う

ギャラリーの展覧会は毎回違う演出が無料で楽しめる。同じ展示室だが、美術館のように仕切りを変えたり、複数の展示室を使い分けることはしない。それなのに全く違う雰囲気が漂う。好きなジャンルや作家で追うのも楽しいが、一つのギャラリーの展覧会を定期的に通って作家の紹介の仕方や展示空間の見せ方などを追っていくのもおすすめ。定点観測のように定期的に通うことで、好みではなかったり、興味がないアートでも面白さを感じたりするきっかけが生まれるからだ。気負わずふらりと毎回訪れ、いろいろな作家の世界を覗いていくと、自分の中の未知の部分にも気付いて新しい世界が広がるかもしれない。そうやってアートを楽しむ眼を肥やしていくのはいかがだろうか。

  • 小山登美夫ギャラリー(六本木)
  • 港区六本木6-5-24 complex665 2F
  • 03-6434-7225
  • 11:00〜19:00
  • 休館:月曜日、日曜日、祝日
  • 日比谷線・大江戸線「六本木」駅徒歩5分
  • webサイト
2018年11月取材/2018年12月更新