現代美術を専門に扱う美術館の先駆け!モダニズム建築の建物も魅力原美術館

原美術館

当時まだ日本ではあまり注目されていなかった現代美術を紹介するべく、1979(昭和54)年に開館した現代美術の専門美術館。1950年代以降に制作された、絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーションなど、所蔵数は1000点以上に上る。東京の原美術館と、別館である群馬のハラ ミュージアム アークの2カ所の拠点で展開。
 現代アートのファンはもとより、午前はシニア層、午後はワーカーや学生と、駅から離れた立地にもかかわらず、途切れることなく人が訪れていて人気がある。品川という場所柄、地方からの出張者や旅行者、外国人の姿もちらほら。

副館長の安田氏学芸員を統括する副館長の安田篤生氏。
現館長である原俊夫氏と共に、長年にわたり現代美術の普及に務めてきた

収蔵品は、明治の実業家・原六郎の曾孫にあたる原俊夫氏が集めたもの。若い頃、アメリカに留学していた原氏は、祖父である原邦造が建てた邸宅を活用して現代美術館をつくることを決め、50〜70年代の欧米や日本の作品を中心に収集することからスタートした。
 原氏は、アーティスト、美術の専門家、評論家など、アート関係者と積極的に交流を持ち、収集を行った。70年代には、もの派を代表する李禹煥の家まで出かけていき、代表作「線より」を購入している。開館後の80年代には、中国の社会活動家であり、世界的アーティスト、艾 未未(アイ・ウェイウェイ)の「毛像組1」を購入。当時はまだ駆け出しで、原美術館が彼の作品を購入した最初の美術館だったとか。一方、同館の企画展で出品した作品をそのまま買い取るケースもあり、今井俊満「黒い太陽」は1980年代に行った企画展の際に購入したもの。コレクションの中でも多くを占める森村泰昌や荒木経惟の場合は、個展終了後に展示作品を丸ごと買い取ったとか。杉本博司やアンディ・ウォーホルはシリーズ単位で集め、所蔵数はそれなりの数に上る。群馬のハラ ミュージアム アークには、アンディ・ウォーホル、ジャン=ミシェル・オトニエル、オラファー・エリアソンなどの巨大な野外作品も設置されている。

サンルーム朝食用に使われていたサンルーム。
窓から杉本博司「アートのほうき かえりな垣」(2012年)が見える

建物も特徴的だ。1938(昭和13)年に建てられた邸宅をリノベーションし、当時流行したヨーロッパのモダニズム建築と現代アートが融合した空間は、それだけで一つのインスタレーションのような趣がある。
 1Fにはリビング、ダイニング、サンルームなどがあり、2Fは家族の個室として利用されていた。緩やかにカーブを描く廊下、懐かしさを感じるサンルームなど部屋ごとに雰囲気は変化。順にたどれば、大規模な美術館で鑑賞するという意識と異なり、アートが飾られた住宅にお邪魔している感覚で作品が身近に感じられる。「創立以来たびたびリノベーションを行いましたが、館内の基本的な構造は変わりません。個人的には、質感のある階段の手すりや石貼り、ジャン=ピエール・レイノーの作品へ続く階段に設置されたガラスブロックの小窓などは当時の面影が色濃く、建築面で楽しめるポイントではないかと思います」と、安田篤生副館長。

館内東京国立博物館本館や和光ビルを手掛けた渡辺仁の設計。
当時の姿を残す、階段の手すりやガラス窓にも注目!

ユニークなのは、かつてお風呂場やトイレとして使われていた部屋を丸ごとアート化させた常設作品。元の邸宅の構造上、どうしても出る隅の空間を思い切って活用し、他館では見られない独自のアートを創出。1980年代、同館で海外作家として最初に個展を開いたジャン=ピエール・レイノーによって、屋上に出るための部屋を「ゼロの空間」という作品にしたのを皮切りに、2階のトイレは宮島達男「時の連鎖」、1階のトイレは森村泰昌「輪舞」、暗室は須田悦弘「此レハ飲水ニ非ズ」、バスルームは奈良美智のアトリエをイメージした作品「My Drawing Room」と増やしていき、2011年には1階、森村泰昌の作品の向かいの壁に鈴木康広「募金箱 『泉』」が作られた。設置した2011年は東日本大震災が起きた年だったため、この年の募金は美術館の活動支援金ではなく、義援金として寄付したという。著名アーティストが作り上げたこれらの空間は邸宅としてのノスタルジーとアートとしての奇想天外さが融合し、現代美術のビギナーやアートにそれほど興味がない人をも引き込む魅力となっている。
 「常設作品も、作家の希望でマイナーチェンジする時があります。基本的には部屋全体を作家に作品化していただいているので、変更は作家の裁量ですね。森村さんの作品は以前、ピンクの衣装を着ていましたが、今は森村さん自身が考えた男の子の衣装を着ています。奈良さんも不定期で部屋の模様替えをしましたね」と、安田篤生副館長。常設ながらも作品が変化していく点は、いかにも“現代”のアートらしい。

宮島達男 「時の連鎖」 1989/1994年宮島達男 「時の連鎖」 1989/1994年
奈良美智 「My Drawing Room」 2004年8月〜<br>制作協力: graf Photo by Keizo Kioku奈良美智 「My Drawing Room」 2004年8月〜
制作協力: graf
Photo by Keizo Kioku

建物自体は年代物だが、設備は最新のものを導入。元邸宅で天井が低いため、存在感が出てしまうスポットライトではなく、光ファイバー照明を特注で設置した。「小さいですが、手で角度が変えられるので、作品に合わせて一つひとつ調整しています。一つの部屋に複数の作家の作品が混ざって展示されるときには、それぞれの作品が際立つようにスポット的に当てて、一人の作家の個展の際には、作品だけというより部屋全体でその作家の世界観を楽しめるよう各所に分散して当てていくのです。平面と立体でも当て方は変わりますし、反射しやすい作品の時はそこだけ消すこともできるので、意図した展示ができて便利ですね」。
 驚くべきは、企画展の内容によっては床材まで張り替えること。「ジム ランビー:アンノウン プレジャーズ」(2008〜2009)展では、階段や廊下も含むすべての床を白と黒のうねりのあるストライプ柄で埋め尽くした。「技術の進化で床材はもちろん、のりも色々な強度なものが出てきています。剥しやすさも向上しており、ダイナミックな展示もできるようになってきました」。その分、展示替え期間中は、ザ・工事現場のような状態なのだとか。

館内廊下にずらりと並ぶ光ファイバー照明。
光りの当て方一つで作品の表情はガラリと変わる

企画展は、年3〜4回実施。企画は学芸員が担い、コストや作品移送などの技術面でのハードル、ベテランか若手かといった内容面でのバランスを鑑みながら進める。海外ではベテランだが日本では無名の作家を紹介している側面もあり、ベニス・ビエンナーレなどの各国の国際美術展覧会などをチェックして新たな作家の掘り起こしも欠かせない。「元邸宅で、搬出入にも制限が出るため、群馬とは違い東京ではすべてのコレクションを展示できません。展覧会ではジャンルにこだわるのではなく、邸宅の雰囲気に合った、作品がより引き立つ展示と等身大の空間づくりを心掛けています」。安田副館長は企画展の方向性をこのように話す。作品との距離を感じずに見られる点こそ、同館の一番の特徴だろう。

カフェ ダール中庭に面した「カフェ ダール」。企画展の会期中のみ販売される「イメージケーキ」は、
展示作品がモチーフとなっておりユニーク。手作りならではの美味しさもポイント

毎週日曜日に展示解説を行うほか、作家によってはアーティストトークやワークショップなどのイベントも実施。中庭で音楽会、カフェの奥にあるホールで学者を招聘しての講演なども。「田原桂一「光合成」with 田中泯」(2017)では、中庭で“田中泯オドリ”と題したダンスパフォーマンスは予約受付から1分で売り切れる盛況ぶり。ピエール・エルメ・パリとの共催でアート鑑賞と中庭でエッグハントを行うイースターにちなんだ企画では、親子連れの参加も多く見られた。校外学習の一環として近隣の小学校の児童も受け入れている。
 かつて“最先端”だった建築様式の建物で、今の様相を表現した“現代”のアートを身近に感じるひとときは、大規模な施設で見る現代アートよりも近づきやすく、普段馴染みがない人にもチャレンジしやすい。近年、ますます注目を集める現代アートへの入口に、元邸宅での鑑賞という一味違ったアートを楽しみに、ぜひ出かけてみてほしい。

ザ・ミュージアムショップ図録、作家とのコラボグッズ、センスが光る小物などが並ぶ「ザ・ミュージアムショップ」。
人気は、HARA MUSEUMオリジナルTシャツ:宮島達男“Time Link”(3,240円)、Get well soon マスク(734円)など
原美術館(北品川)
外観
品川区北品川4-7-25 [MAP]
03-3445-0651
料金(税込)
一般1,100円、高大生700円、小中生500円
※学期中の土曜日に限り小中高校生の入館無料
11:00〜17:00(休日を除く水曜日は20:00まで)
※最終入館は閉館30分前まで
休館日
月曜日(休日の場合、翌平日)、展示替期間、年末年始
JR「品川駅」徒歩15分
都営バス「反96番」系統「五反田駅」行、「御殿山」停留所下車 徒歩3分
webサイト
2018年2月取材/2018年3月更新