東京都庭園美術館 庭園

東京都庭園美術館 庭園港区白金台5-21-9

国立科学博物館付属自然教育園に隣接して立つ東京都庭園美術館。
1933(昭和8)年に朝香宮邸として生まれ、3万3000㎡ある敷地は、その半分以上を庭園や植栽が占める。芝庭、日本庭園、西洋庭園それぞれに魅力があり、85年の歳月が生んだ景観は極上。季節ごとに訪れたくなる都内の希少な潤い空間だ。

目黒駅からも白金台駅からも目黒通りを歩くこと5分強。立派な正門が見えて、迷うことは少ない。チケットは、庭園も含む美術館の入館券、庭園だけの入場券と2種類があり、用途によって使い分けが可能だ。庭園の入口は敷地内の本館横。入ると、本館の建物の前から正門近くまで芝庭が広がり、開放的な空間に吹き抜ける風が心地よい。
 85年前の竣工当時は今の敷地よりも広く、新館前の芝生辺りにテニスコート、日本庭園の池の奥には藤棚、西洋庭園の辺りには盆栽・野菜・花卉園があり、今の目黒通り辺りには宮内省の官舎が9棟建っていた。クジャクが放し飼いにされ、日本庭園との境には鶴小屋もあったという。

スポーツ好きで“ゴルフの殿下”とも呼ばれた朝香宮鳩彦王(あさかのみや やすひこおう)。広い芝庭で、ゴルフを楽しんだこともあったという

園路に沿って歩いていくと、彫刻家の安田侃が制作した「風」という作品が登場。2001年の「安田侃−野外彫刻展」で展示され、そのまま恒久設置となった。楕円の穴から覗くと、フレーム効果で同じ景色が少し違って見える。「建物に比べて庭園の資料は少ないのですが、宮内省匠寮工務課庭園係の中島卯三郎が設計を担当した記録が残っています。彼の残した文章を見ると、御料地の一部だった元々の地形を生かして造園し、平地に芝を敷き、起伏のある所を日本庭園にしたようです。木々もなるべく、在来の木をそのまま組み込み、支障があるものは移植したとありますが、松などはバランスよく配置されており、整備したかもしれません」と、広報の板谷敏弘氏。朝香宮が白金台に邸宅を建てる前に住んでいた高輪の建物は、洋館と和館の折衷建築だった。しかし、2年半のフランス生活で洋風の生活に馴染み、新たに建てた自邸は侍女の控室だけが和室で後は全て洋室と、当時では珍しい構成になっている。一方で、庭園はシンメトリーな正統派の西洋式庭園ではなく、芝庭と日本庭園で造園されている点が特徴的だ。

芝庭の中ほどにあるムクノキの巨木。本館建築の際に大食堂付近から移植された。ここから本館を眺めるとアール・デコらしい縦長の窓が続く様がよく分かる
池に使われている石は、造園時に日本各地で集めたもの。うねりのある不思議な形の石、レンガみたいに四角く切られた石など、よく見ると独特だ

日本庭園は芝庭とはがらりと趣が変わり、鬱蒼として池を中心に築山や茶室がある。周りにはモミジがいくつもあり、秋はまさに錦繍の庭園。取材時は新緑が日光で煌めき、一面グリーンの美しい景色を作っていた。奥にある築山や橋へは土の歩道を通って向かう。ここは10〜3月は16時半までしか通行できないため、冬季に訪れた際には気を付けたい。「もともとの地形や植栽を生かしたとはいえ、竣工当時は木々の背も低く、池の奥から本館を見渡せたそうです。既に嫁いでいた長女の子どもたちや、親族の皇族の子どもなどが、芝庭でボール遊びをしたほか、築山から草滑りをしている映像も残されています」と、板谷氏。
 のんびり泳ぐ鯉を眺めつつ橋を渡る。枝越しに茶室は見えるが本館は全く見えず、85年の歳月を実感。そのまま橋を越えて階段を上り、築山に赴く。「庭園の中でも、築山はおすすめスポット。秋のライトアップでは本当に美しい風景が楽しめます。唯一の難点は高速道路がすぐ後ろにあってうるさいこと。静かだったら、言うことないのですが…」と、板谷氏は苦笑い。確かに、上った分、高架と同じくらいの高さになって、池の周りにいた時よりも車の音が大きく感じる。

築山からの景色。かつて子どもたちが草滑りをした斜面には笹が一面に広がっていて、池の対岸の歩道まで見渡せる
庭園は通常18時までだが、桜や紅葉時の週末は20時まで、7〜8月の金曜日は21時まで入場でき、ライトアップが楽しめる

築山を下りて茶室「光華」へ。板谷氏が庭園の中でオススメだというもう一つのスポットだ。武者小路千家の茶人である中川砂村(なかがわさそん)が設計。1933(昭和8)年の竣工当時ではなく、1936(昭和11)年に完成し、光華という名前は朝香宮自身が考えたのだとか。本館はコテコテの洋風なのに、茶室は由緒正しい和風でその対比が面白い。「次女の花嫁修業のために建てられたと言われています。椅子式点前の茶席である立礼席がある点が特徴で、戦前ではかなり珍しかったようです。皇族で外国人の来客も多かった点や、フランス滞在時の事故の後遺症で足が悪かったため、足への負担の少ない椅子を選んだとも推測されています。本館と同じように茶室の建築にも興味があり、抜き打ちでたびたび建築現場を訪れ、そのたびに大工たちが恐縮してしまい、仕事にならないこともあったそうです」。立礼席にある丸いフォルムが洋風に見える椅子、塗りのきれいなテーブルは当時のもの。正統派の茶室である奥の広間は、天井が高く、窓もたくさんあって明るい。窓越しの景色が額装の絵のようで見入ってしまう。本館の建物と一緒に2015(平成27)年に重要文化財に指定されたが、年に2回、美術館主催の茶会を開催している。

お茶を点てる側のテーブルには灰を入れてお釜を載せるところが用意され、部屋の隅には床の間もあって、茶室の要素はキッチリ網羅されている

日本庭園から正門側へ向かうと、芝庭の1/3ほどの広さの西洋庭園が見えてくる。日本庭園と芝庭は、宮邸が竣工した当時からあったものを継承しているが、西洋庭園は高速道路を建設する際に売却した南西部分の代わりに購入した土地で、憩いの場として整備されている。芝生をぐるりと囲む園路沿いにはテーブルがたくさん並び、中ほどには、桜ばかりが集まったスポットも。「芝庭の方が広いのですが、歴史の重みと凛とした空気感があるためか、寛ぐ人は西洋庭園に向かうことが多いですね。特に、子連れ家族は西洋庭園の方が気兼ねなく遊べるようです」。取材時は、木陰で横になる人や、本を読む人、幼児連れのママ会など、たくさんの人たちで賑わっていた。
 昭和初期に生まれたアール・デコの邸宅に寄り添い造られた庭園は、主である朝香宮夫妻の嗜好が全面に出たプライベートな緑地。西洋風、和風といった様式に縛られず、好きなように作ったアンバランスさが逆に落ち着く。長い歴史を歩んできた庭園で独特の居心地の良さを満喫し、本館の建物や展示された美術品の鑑賞も楽しむ。そんな贅沢なひとときが過ごせる都内でも珍しいスポットだ。

ランチタイムには近隣ワーカーの姿も。正門横にあるレストラン「Du Parc」の大きな窓越しから臨む西洋庭園も美しい
東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)の歴史
1917(大正6)年
宮内省帝室林野局の所管となり、白金御料地と呼ばれる
1921(大正10)年
一部を朝香宮家に下賜
1933(昭和8)年
朝香宮邸が竣工
1947(昭和22)年
政府が借り受け、吉田外相・首相公邸として使用
1955(昭和30)年
白金迎賓館として使用
1983(昭和58)年
東京都庭園美術館開館
1993(平成5)年
旧朝香宮邸が東京都指定有形文化財第1号に指定
2015(平成27)年
本館、茶室、正門等が国の重要文化財に指定
東京都庭園美術館 庭園(白金台)
港区白金台5-21-9
03-5777-8600(ハローダイヤル)
入場料 一般200円、大学生160円、中高生・65歳以上100円
※建物内へは別途、美術館入館料(展覧会により異なる)が必要
10:00〜18:00(最終入館は閉館30分前まで)
※日本庭園内の一部園路は、10〜3月は16:30まで
※桜・紅葉時期、7〜8月に夜間開館日あり
休館 毎月第2・第4水曜日(休日の場合、翌平日)、年末年始
※展示替え期間中は、庭園のみ入場可能
JR「目黒駅」徒歩7分
三田線・南北線「白金台駅」徒歩6分
webサイト
2018年4月取材