くっきりとしたアジア的な顔立ちや存在感により、
カンヌで男優賞を最年少受賞した柳楽優弥をはじめ、
子供たちの自然な感覚を是枝監督が引き出した佳作
今年5月に行われた第57回カンヌ国際映画祭にて、14歳の柳楽優弥(やぎらゆうや)がカンヌ史上最年少で最優秀男優賞を獲得した。カンヌ国際映画祭における日本勢の公式賞受賞は、今村昌平監督の『うなぎ』でパルムドールを受賞した1997年以来となり、男優賞は初の受賞。彼の出演作である是枝裕和監督の映画『誰も知らない』は、どのような作品なのだろうか。
都内の2DKのアパートで、母親と暮らす4人の兄妹。小さな子供がいると住居を探しにくい住宅事情のためか、ご近所には「海外に単身赴任の夫がいて、母ひとり子ひとり」と伝えてある。そんな子供たちの生活は、学校に通えず、長男以外の3人は外出禁止。子供たちだけで料理や洗濯などの家事をしながら、大好きな母親の帰りを待つ毎日。不満や大変さもあるものの、彼らなりに満たされてもいた。しかしある日、母親が長男に「しばらく留守にします」という書置きと現金20万を残して姿を消し、子供たち4人は徐々にバランスを失っていく。
本作は、1988年に実際に起こった「西巣鴨子供4人置き去り事件」をモチーフにした物語。人物の心理描写、細かい設定や背景などは、フィクションとして描かれている。子供たちは父親が全員違っていて、出生届も出されていない。母親という絶対的で唯一の存在に愛されることだけを信じて生きている。母親という太陽を失ってしまったら、無秩序なブラックホールになるしかない小宇宙のようなものだ。
この映画を観た直後は、どのように紹介したらいいのか、さっぱりわからなかった。あまりにもありのままで、ただ、「うそがなく、過剰な演出もない。すべて本物の感情と感覚だ」と思った。ノンフィクションでないことは知っていたが、すごくそう感じたのだ。いつもは面白い映画を観ると、感動とともに、監督の意図、俳優の演技、スタッフの尽力などのポイントがスーッと頭に入ってくる。でも本作では、「狙い」がまったくわからない。試写帰りの電車の中、「どんな風に紹介しよう」と悩みつつ読んだ資料に、その答えはあった。この映画は、実際の事件で妹弟たちを支えた長男の少年に向けて、是枝監督が「僕の心の中で彼をしっかりと抱きしめるためにこの映画を作ることを決意した」というのだ。この一言ですべてがつながり、わっと涙があふれて困った。本作では、是枝監督のその思いを表現すること以外、キャストやスタッフの誰ひとり、何も狙ってなどいなかったのだ。
これから本格始動する公式サイトには、本作に寄せられた谷川俊太郎さんのすばらしい詩や、是枝監督の“演出ノート”などがアップされるだろう。そこではきっと、1989年に書き上げた第1稿の脚本から、15年後に新たな脚本によってようやく実現した映画化のことなどを知ることができる。個人的には、映画を観る前は資料を読まない、前情報はあまり入れない、がモットーだが、本作に関しては、先に読むことをおすすめしたい。この作品は誰のために、どうして作られたのか。
公開 | 2004年7月下旬公開 シネカノン有楽町、渋谷シネ・アミューズにて夏休みロードショー |
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制作年/制作国 | 2004年 日本 |
上映時間 | 2:21 |
配給 | シネカノン |
監督・脚本・編集・プロデュース | 是枝裕和 |
音楽 | ゴンチチ |
出演 | 柳楽優弥 北浦愛 木村飛影 清水萌々子 YOU 韓英恵 |
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