15秒勝負のCMクリエイターたちが長編を作ったら?
間合いやサウンドなど2時間分の映像に手抜きなし
独特のおかしみと温かさがたまらない注目作!
観る者の心を一瞬でつかむ映像の面白さ。間合いやサウンドや質感など、ハズシも含めた絶妙なバランス感。それもそのはず、本作を製作したのは、CM界を中心に活躍するトップクリエイターたち。企画・原案・脚本は、電通在籍時のクリエイター・オブ・ジ・イヤー史上最年少受賞(1997年)をはじめ、さまざまな広告賞の受賞歴をもつ、現クリエイティブ・エージェンシーTUGBOATのCMプランナー多田琢。監督は、本作が長編映画デビューとなる人気CMディレクター関口現。広告制作の一流スタッフたちが、その手法を映画製作に取り入れて、がっつりと作りこんだ摩訶不思議な映像ワールド。ただキッチュでスタイリッシュなだけじゃなく、ひとすじの思いがしっかりと編みこまれている、温かい作品である。
妻(橋本麗香)を殺し続ける男、石垣(浅野忠信)。話題の催眠術師(阿部寛)と付き合う、仕事に鉄壁のプライドをもつCMプランナー洋子(小泉今日子)。かけられた催眠術が解けないまま、自分を鳥と思い込んで暮らす広告代理店の営業マン小林(岸部一徳)。空き巣稼業の青年3人組に、イギリス人の殺し屋(ヴィニー・ジョーンズ)と同時通訳兼コーディネーターの男。関わり合うはずのない人々がつながり、奇天烈な世界に耐えられなくなったそのとき、事態は意表を突いた顛末へ……。
ファンシーなような毒々しいようなロマンのような。B級ホラーのようなラブストーリーのような家族ドラマのような。描かれる設定は奇妙なものの、それは暗喩のようにもとれる。命がけで闘う夫婦は、どろどろの離婚裁判をしているようであったり、鳥になって妻や娘に疎まれる父は、リストラされたお父さんのようであったり。世の中はかくも「やってらんない」けれど、やっていくしかないし、絶対に生き抜ける。意外といいことだって、あるかもしれない。それがラストシーンの“あれ”なのだろう。
特にとてもよかったのは、映像の質感。カメラマン氏が一口では説明しきれないほどの工程をかけて映像をフィルムに収め、視覚効果の専門家が合成やCGなどの編集作業にもトータル7ヶ月間かけたことが、功をしっかり奏している。日本映画では陳腐になりがちなスタントシーンも、ビルの窓に映る姿や影などに至るまで緻密に作りこまれていることで、とてもリアルに見える。現実味のカケラもないシーンが、さりげなく見えてくるから、なんだか嬉しくなってしまう。また、セットや衣装も魅力的。次第に様相と能力の変わっていく妻のメイクや衣装、音楽や効果音のニュアンスも面白い。
こうして文字で説明すると、アクが強すぎるように感じてしまうかもしれない。実際そういう面もあるが、このおかしみや温かさは、一目見ればきっとわかってもらえるはず。これから流れるだろう本作のTVCMで、わしっとハートをつかまれてしまったら仕方がない。ものは試し、まずは観にいってみようではありませんか。
公開 | 2004年9月公開 全国東宝洋画系にてロードショー |
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制作年/制作国 | 2004年 日本 |
上映時間 | 2:00 |
配給 | 東宝 |
監督 | 関口現 |
撮影 | シグママコト |
出演 | 浅野忠信 橋本麗香 阿部寛 小泉今日子 岸部一徳 |
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