美女シャーリーズ・セロンが連続殺人犯に
渾身の役作りで挑み、オスカーを受賞した話題作
社会のひずみが生み出した“モンスター”の真実
本作のために主演のシャーリーズ・セロンは13kgの体重増、眉毛を抜き、腫れぼったいまぶたや日焼け跡などの特殊メイクを施し、ロバート・デ・ニーロ級の役作りを実践。実在した全米初の女性連続殺人犯アイリーンを演じた。本作は1986年に連続殺人事件を起こし、2002年にフロリダ州で死刑となった娼婦アイリーンの実話に基づく物語。2003年のアカデミー賞にて、シャーリーズ・セロンが主演女優賞を獲得した話題作である。
幼児期から受け続けた虐待や、兄との近親相姦による妊娠・出産など悲惨な過去を負うアイリーン。生きるためには身体を売るしか術を知らかった彼女は、娼婦の自分を蔑み、まともに受け入れてはくれない社会や人々に絶望し、自殺を考えていた。しかしそのとき、無垢な同性愛の少女セルビーと出会い、アイリーンは生まれて初めて愛される喜びを知る。後先考えず、2人で暮らし始めたものの、結局はアイリーンが娼婦をすることでしか生活が立ち行かない。堅気になりたいと願いながらも、仕方なく娼婦として路上で客をとった夜、その男から瀕死の暴行を受け、アイリーンははずみで相手を射殺してしまう。
「美化された連続殺人犯の物語を描くのではなく、真実に迫るように描きたいと考えた」と語ったのは、この作品を手がけた新人の女流監督パティ・ジェンキンズ。詩人のアレン・ギンズバーグや作家のウィリアム・バロウズの助手として働いていた人物である。本作では被害者であり加害者となったアイリーンの心理や社会との関わりなどを、淡々と描いている。
今回のセロンの熱演は、彼女の秘められた生い立ちにも関わっていた。彼女が15歳のとき、アル中の父親が自宅で銃を乱射して娘の部屋を破壊。「お前たちを殺す」とわめく父を、セロンの母親は銃で撃ち殺したのだ。その後の裁判で正当防衛が認められ、母娘は事なきを得たという。これまで“父は交通事故で死亡”と発表していた彼女は、オスカー受賞のスピーチでこの事実を公表。母親に向けて、大きな愛と感謝の気持ちを壇上から伝えた。
本作を観た時は、正直、やりきれなかった。ごく普通の家庭で教育を受け、一般的なモラルをもつ平凡な身には、最悪の選択をし続けて暗黒に突き進んでいくアイリーンの姿が、また水面下にたくさんいるかもしれないそうした立場にある人々の存在が、ずっしりと重くのしかかってくるように感じた。セルビーを演じたクリスティーナ・リッチはいう。「アイリーンは、私たちが社会でしていることの反映。私たちは、最も助けを必要としている人たちに背を向けている」。本作を観たときに感じた居心地の悪さは、彼女の一言が明確に突いている。
この作品では、私たちが無意識で見て見ぬふりをしている社会のひずみと、そこから抜け出せないでいる人の事実が描かれている。観るのはつらいが、まずは知ること。それが必要なのではないだろうか
公開 | 2004年初秋公開 シネマライズほか全国順次ロードショー |
---|---|
制作年/制作国 | 2003年 アメリカ |
上映時間 | 1:49 |
配給 | ギャガGシネマ |
脚本・監督 | パティ・ジェンキンズ |
プロデュース | シャーリーズ・セロン マーク・デーモン、ほか |
出演 | シャーリーズ・セロン クリスティーナ・リッチ ブルース・ダーン |
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。