姑獲鳥の夏 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
姑獲鳥の夏

© 2005「姑獲鳥の夏」製作委員会
京極夏彦の綴る摩訶不思議な怪事件簿を映画化
俳優陣による個性派キャラの熱演も話題
心の神秘が謎を深める怪奇ミステリー



 人は信じたいものだけを信じ、見たくないものに目を閉ざすことのできる“心”の生き物。果たしてそれは幸福なのか、不幸なのか。1994年に発表された直木賞作家・京極夏彦のデビュー作にして、40万部超のベストセラー小説『姑獲鳥の夏』が遂に映画化された。出演は堤真一、永瀬正敏、阿部寛、宮迫博之、原田知世。監督は『ウルトラマン』から『帝都物語』まで幅広く手がける実相寺昭雄。この世とあの世の狭間にうごめく奇々怪々なミステリーの幕が、いま切って落とされる。


 昭和27年、夏の東京。巷では、“雑司ヶ谷の大病院、久遠寺医院の娘・梗子(原田知世)は妊娠20ヶ月目を迎えた。そしてその夫は、1年半前に医院の密室から忽然と姿を消して以来ずっと行方不明”という奇妙な噂が囁かれている。食うためにゴシップ記事も手がける小説家の関口(永瀬正敏)は、古本屋の主にして神主である京極堂こと中禅寺秋彦(堤真一)にこの噂話についてもちかける。

姑獲鳥の夏
 原作は『姑獲鳥の夏』のヒットによりシリーズ化され、全8作で総計400万部を超える売り上げを記録した人気小説。本作でも、私立探偵・榎木津礼二郎(阿部寛)、榎木津の幼馴染である刑事・木場(宮迫博之)、京極堂の妹である雑誌編集者・敦子(田中麗奈)……と魅力的なキャラクターたちが怪事件に挑む様が雰囲気たっぷりに描かれている。  少し気になったのは、京極堂の京極堂たる信頼感があまり感じられなかったこと。台本4ページにもわたる長台詞は、道理の不可思議について聞き手を諭し、お社で呪文を唱えるシーンは、観客に京極堂をこの世とあの世の理(ことわり)を知る稀有な者と実感させる場面であったはず。しかしどちらも言葉を違えずにできただけのような、どこか味気ない印象を覚えた。堤真一は実力も魅力もある俳優のひとりだと思うが、良い声ではあるものの少し滑舌が悪いことが響いてしまったのかもしれない。製作発表記者会見では、「バッシングされる覚悟はできています。原作とはまた違う京極堂を現場で作っていきたい」と語った堤。呪文や長台詞なら別録りしたり、音響効果を加えたりすることもできる。次回作では、さらに進化した京極堂を見せてくれるに違いない。
姑獲鳥の夏
 衣裳や建物のセットなどの美術はライティングと相まって、独特の世界を耽美的に演出。蔵を改造して古本屋にし、母屋につながる様式となっている京極堂の住まい、重要文化財の旧横浜正金銀行本店を参考にした久遠寺医院、フランスのオルセー美術館をイメージした温室……。和洋折衷でどこか懐かしさの漂う昭和らしさや、シリーズ特有のそこはかとない妖しげな雰囲気がよく醸し出されていた。


 「原作者は小説を提供するだけで、映画には一切口を出しません」と語る京極夏彦氏。実は彼は本作に、通りすがりの傷痍軍人役でカメオ出演している。また資料には、俳優もびっくり、というくらいキメキメに表情をつくった京極氏の写真がバーンと1ページあり、思わず笑ってしまった。頼まれると断れないお人らしいが、きっと芸人魂やサービス精神をしっかりもちあわせているのだろう。


 出演者のなかで一番ハマっていたのは、榎木津役の阿部寛。俗っぽい伊達男でありつつ、他人の記憶が見えるという相反する要素が同居するアクの強い役をすんなりと演じていた。小説では現在、京極堂シリーズ8作のほかに、榎木津を主役にした『百器徒然袋(ひゃっきつれづれぶくろ)』が好評とのこと。ぜひぜひ、こちらも映画化していただきたいものである。
『姑獲鳥の夏』 2004年日本映画
データ
2005年6月更新

姑獲鳥の夏

2005年7月16日公開
渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー

■2004年 アメリカ映画
■上映時間2:03
■日本ヘラルド映画配給
■監督/実相寺昭雄
■原作/京極夏彦
■出演/堤真一
永瀬正敏
阿部寛
宮迫博之
原田知世
田中麗奈
いしだあゆみ



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。