ドア・イン・ザ・フロア

米国現代文学の巨匠アーヴィングの代表作を
新進監督と実力派キャストによって見事に映画化
深く静かに染み入る交流と再生の物語

  • 2005/10/14
  • イベント
  • シネマ
ドア・イン・ザ・フロア© Focus Features, LLC and Revere Pictures

誰もが求め、傷つき、乗り越えていく。子供でも大人でも避けようもなく背負う、それぞれの道のようなもの。それをとても丁寧に映し出した作品。出演はオスカー女優のキム・ベイシンガーと、アカデミー賞に4度ノミネートされたジェフ・ブリッジス。1998年のジョン・アーヴィングの長編小説『未亡人の一年』の始まりから1/3の部分を映画化した、奥の深い人間ドラマである。

4歳の愛娘ルースとともに暮らす児童文学作家のテッドと妻のマリアン。夫婦が実験的に別居を始めたある夏、テッドは作家志望である高校生のエディを助手として雇う。死んだ兄たちの写真に固執するルース、喪失の傷が癒えないマリアン、思うままに娯楽や創作にふけるテッド。エディは彼らの不安定な家庭事情に翻弄されつつも、次第にマリアンに惹かれていく。

ドア・イン・ザ・フロア

ときに調和し、ときに不協和音を成す4人の感情や行動のアンサンブル。エディの愚直ぶりもマリアンの潔さも、少女のヒステリーも夫のずるさも、すべてがあまりにも率直で、観ていると切なくなる。それはまるで現実の生々しさそのもの。誰もが自分の生に懸命なだけなのだ。
 稽なほどの必死ぶりですとんと笑わせてくれる。某シーンでは、“サイコ”ばりの状況でありながら青春映画さながらの爽やかな風景、というアンバランスの妙に監督のセンスを感じた。

ジョン・アーヴィングから、自身による原作・脚本の映画『サイダーハウス・ルール』よりも気に入り、「心から満足している」と言わしめた本作。原作の映画化を断り続けていたアーヴィングが、監督・脚本を手がけた気鋭のトッド・ウィリアムズを認め、4年かけて完成させたという。37歳のウィリアムズは、これが初の長編映画とは思えないほど確かな手腕を披露。“前半1/3を映画化する”という発想や、人物や物語への的を射たアプローチにより、行き過ぎず、抑えすぎず、あたたかな血の通った仕上がりとなっている。アーヴィングは語る。「ウィリアムズの脚本は、僕の小説を脚色した映画の中ではこれまででいちばんの、一字一句忠実な翻案になっている。だが同時に彼は、彼自身の作品に仕上げてもいる。これは見事な仕事だね」。

ドア・イン・ザ・フロア

ともすればただのくだらない女に見えかねないマリアン役で、絶望からの再生をリアルに表現できたのはベイシンガーだからこそ。ブリッジスは子供じみた大人の男、というテッドの魅力を正確に演じている。エディを演じた新進のジョン・フォスターは役柄そのままの誠実な人柄や演技で、ルース役のエル・ファニング(5歳)は天才子役として有名な姉ダコタ・ファニング同様の天才ぶりで、ともに共演者やスタッフから絶賛されている。

静かに流れる涙に心が浄化されていく佳作。そしてマリアンは? エディは? ルースは? テッドは……? 続きの2/3のストーリーは小説にて。「みんなきっとこの後はどうなるか知りたくて、小説を読んでくれるんじゃないかな」と笑うアーヴィングの思惑通り、彼らの物語を追ってみるとしよう。

作品データ

ドア・イン・ザ・フロア
公開 2005年10月22日公開
恵比寿ガーデンシネマほか全国ロードショー
制作年/制作国 2004年 アメリカ
上映時間 1:52
配給 日本ヘラルド映画
監督・製作 トッド・ウィリアムズ
製作 テッド・ホープ
アン・ケリーほか
原作 ジョン・アーヴィング
出演 キム・ベイシンガー
ジェフ・ブリッジス
ジョン・フォスター
エル・ファニング
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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