ナイロビの蜂

最愛の妻の事故死……その真相は?
メイレレス監督がドキュメンタリー風に描く
社会派サスペンスに、夫婦愛の究極をみる

  • 2006/03/31
  • イベント
  • シネマ
ナイロビの蜂© 2005 Focus Features,LLC

レイフ・ファインズ主演、共演のレイチェル・ワイズが2006年の第78回アカデミー賞にて助演女優賞を受賞した作品。アフリカのケニアを舞台に、社会悪をリアルに描いた長編小説の映画化である。原作者はイギリスの冒険小説の巨匠ジョン・ル・カレ、監督は『シティ・オブ・ゴッド』で世界的に高く評価されたブラジル人監督フェルナンド・メイレレス。夫婦愛を軸に展開する、シリアスな社会派サスペンスである。

正義感あふれる情熱的な活動家の妻テッサと、知的で物静かな外交官の夫ジャスティン。正反対の二人は赴任先のアフリカ、ケニア共和国の首都ナイロビで仲睦まじく暮らしていた。が、テッサが交通事故で急死。ジャスティンはあまりのことに呆然となりながらも、テッサのPCや書類が警察に押収されたことから彼女の死に疑念を抱き、独自で調査に乗り出す。

ナイロビの蜂

観終わったときにまず、よくこのテーマで映画を製作できたものだ! と驚いた。企業と官僚の癒着について、具体的な国名をあげてそのからくりや手口がとても詳細に描かれている。物語に登場するケニア政府は原作小説を発禁本扱いにし、英国外交団も内容を批判した、というのも当然だろう。しかし今回の映画化に当たっては、高等弁務官クレイ氏が製作に協力。「富と貧困の間にある搾取の危険性と誘惑を描くことの意義がとても重要」と語り、自国の政府を酷評する映画の現地撮影を許可したケニアの通信大臣ツジュ氏は「前代未聞のことだが、我々が協力しなくても別の国で撮影され、ケニアが批判されることになっただろう」とコメントしている。

ナイロビの蜂

企業、官僚、NGO、男と女……さまざまな思いや利潤が複雑に絡み合った状況に飛び込み、ジャスティンは事実をひとつひとつ集めていく。理性やバランスを常に重んじてきた彼は、妻の事故死の裏にある陰謀を追ううちに、彼女の言葉や社会的活動の真の意味を肌と心で理解していく。その様子はとても深く切ない。

事なかれ主義のインテリから熱い信念の男に変貌していくジャスティンをレイフ・ファインズが巧く演じていることは言わずもがな。アカデミー助演女優賞を受賞したレイチェル・ワイズは、母性的なたくましさや無償の愛、夫を愛する様を飾り気なく演じている。

ナイロビの蜂

声高に正義を問う人間はつぶされる、という最悪の構図に、自身を賭して立ち向かう人間の物語。それが厳しいだけの映画に終わらず、社会問題にうとい人間でも入り込みやすい仕上がりとなっているのは、基本が夫婦愛にあるため。亡くした妻の心を求め、その遺志を探し当て、全身全霊で愛を捧げる夫の姿。その固い絆と社会悪のきついコントラストは、観る者の心に強く焼き付くのである。

作品データ

ナイロビの蜂
公開 2006年5月中旬公開予定
丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にてロードショー
制作年/制作国 2005年 イギリス
上映時間 2:08
配給 ギャガ・コミュニケーションズ
監督 フェルナンド・メイレレス
脚本 ジェフリー・ケイン
原作 ジョン・ル・カレ
出演 レイフ・ファインズ
レイチェル・ワイズ
ユベール・クンデ
ダニー・ヒューストン
ビル・ナイ
ピート・ポスルスウェイト
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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