もうすぐ女性となる父親と事情を知らない息子
それぞれの希望を胸に秘め、NYからLAへ
笑って泣けるハートフルなロードムービー
「これは自分を受け入れることについて、愛と結びつきについての古風な映画です」と語るのは、本作で長編デビュー、オリジナルの脚本とともにその才能が高く評価されているダンカン・タッカー監督。主演は本作でアカデミー主演女優賞にノミネートされたフェリシティ・ハフマン。男性であることに違和感をもつトランスセクシュアルの主人公による個人的な視点や環境から、普遍的な家族の絆や周囲とのつながりについて描く。笑って泣いて感動がじわっと広がる、とても味わい深いヒューマン・ドラマである。
肉体的に女性となる手術を目前に控え、LAでつましく暮らす性同一性障害のブリー。NYの拘置所からの電話により、ブリーは自分に息子がいる、という衝撃の事実を知る。セラピストの後押しで渋々、窃盗罪で拘置されている息子トビーをNYまで引き取りにいったブリーは、トビーに自分が男であり父親であることを隠したまま、ケンタッキーの継父のもとへ送り届けようとするが……。
「自分は皆と違うと感じたり、孤独だと感じたりしたことがある人のための映画」(タッカー監督)という本作。主人公はトランスセクシュアルだが、そのインパクトや社会的摩擦だけをうわべだけなぞるようなことはされていない。決して派手なサクセスストーリーや万人ウケするシンプルな感動作ではないが、誠実でいとおしく、リアルな共感を強くひしひしと感じさせる作品だ。
ブリー役のハフマンは、本当に男性が女性を演じたかのようなリアリティで快演。最初は「(女性である)自分にやれると思わなかった」というハフマンは、トランスジェンダーの女性たちが実際に受けるレッスンを通じて、女声になりきれていない低い声、女性らしさを過度に強調する立ち居振る舞いを身につけ、不慣れで似合わないメイク、全身を隠すパステルトーンの服装……とフル装備でブリーに変身。男性か女性かわからない微妙なトーンとその複雑な胸の内を見事に演じきっている。
ブリーが自分の中の父性愛(母性愛?)に気づいていくところ、トビーが大切にされる喜びからどんな形にせよ愛に目覚めていくところなど、見どころはいろいろだ。それにしてもタッカー監督とハフマンの深い洞察力と表現力には頭が下がる。その真摯な姿勢がたっぷり語られている彼らのインタビューをリリース資料で読んだ時、本作が大人たちに深い説得力と魅力を感じさせる、その理由がわかった気がした。この映画は人間を本気で愛し、正直であることを恐れずに生きている人たちが作り上げた結晶のようなものなのだ。
男から女へ、NYからLAへ、初対面から友達へ、友達から家族へ。距離、物理、精神、環境と、あらゆるトランスを描く本作。ぬくもりや気づきに満ちた、やさしい気分にしてくれるハートウォーミングなドラマである。
公開 | 2006年7月下旬公開予定 シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー |
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制作年/制作国 | 2005年 アメリカ |
上映時間 | 2:43 |
配給 | 松竹 |
監督・脚本 | ダンカン・タッカー |
出演 | フェリシティ・ハフマン ケヴィン・ゼガーズ フィオヌラ・フラナガン エリザベス・ペーニャ キャリー・プレストン バート・ヤング グレアム・グリーン |
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