ゲド戦記

宮崎駿氏が影響を受けた冒険ファンタジー小説を映画化
異例の大抜擢で監督に起用された宮崎吾朗氏が
病んだ世界を生きる少年少女の葛藤と冒険を描く

  • 2006/07/07
  • イベント
  • シネマ
ゲド戦記© 2006 二馬力・GNDHDDT

宮崎駿、鈴木敏夫率いるスタジオジブリ最新作。声の出演は、声優初挑戦であるV6の岡田准一、新人の手嶌葵、俳優の菅原文太、監督に宮崎駿氏の長男・宮崎吾朗。アメリカの女流作家アーシュラ・K.ル=グウィンの同名小説を原作、宮崎駿『シュナの旅』を原案とする冒険ファンタジーアニメーションである。

多島海世界“アースシー”では、異変が起きていた。聖なる竜は共食いをし、魔法使いは術を忘れ、家畜は疫病となり、人々は土地を捨てて働く意欲と技術を忘れていく。街はすさみ、麻薬常習者が増え、人身売買が行われている。世界の均衡が崩れつつある原因を探すべく旅を続けていた大賢人ゲドは、国を捨てた王子アレンと出会う。

ゲド戦記

宮崎駿氏が多大な影響を受けたという原作小説『ゲド戦記』は、1968〜2001年に執筆された全六巻の長編ファンタジー。本作では第三巻のホート・タウンがフィーチャーされている。映画の内容に関しては、自分のすべてを受け入れることの難しさと大切さ、命の尊さ、というテーマには共感するものの、それが説明のように聞こえてしまうところが気になる。心の奥深くにあまり訴えかけてこないのだ。地層のように何層にも及ぶ思想や意思が重なって自然と浮かび上がってくるような美しさと面白さ、という宮崎駿作品にある濃密なものが感じられないことに、物足りなさを覚えた。全体的にどこか希薄な感覚は、子供向けの夏休みアニメとすれば、丁度いいものなのだろうか。雰囲気的には、オリエンタルなサウンドとやさしいタッチのキャラクターで魅せる、いわゆるスタジオジブリのノスタルジックな世界観は期待通りだ。

宮崎吾朗氏の監督起用は、鈴木敏夫プロデューサーの大抜擢によるもの。宮崎吾朗氏は建設コンサルタントとして活動後、「三鷹の森ジブリ美術館」の総合デザインを手がけ、2005年6月まで同館の館長として勤務。アニメーション制作はまだ日が浅いものの、本作の絵コンテを執筆するなど制作をリードしていたことを鈴木氏が認め、監督に起用したという。これには「経験が一度もない奴に映画を作らせるのは無茶だ」と宮崎駿氏が大反対し、親子断絶というくらい激しく対立したそうで、宮崎駿氏の推測は正しかったように思える。

ゲド戦記

萩原朔太郎の詩「こころ」をもとに宮崎吾朗氏が作詞した「テルーの唄」は胸に沁みるいい歌だ。作品全体のメッセージそのものは健全で、宮崎吾朗氏の人柄を思わせる。台詞で説明するのではなく、表現として伝える。アニメーション制作の新人として現場で基礎を積み重ねた上で改めて作家として自立するよう、宮崎吾朗氏の今後に期待したい。

作品データ

ゲド戦記
公開 2006年7月29日公開
日劇3ほか全国東宝系にてロードショー
制作年/制作国 2006年 日本
上映時間 1:55
配給 東宝
原作 アーシュラ・K.ル=グウィン
脚本 宮崎吾朗
丹羽圭子
監督 宮崎吾朗
音楽 寺嶋民哉
プロデューサー 鈴木敏夫
制作 スタジオジブリ
声の出演 岡田准一
菅原文太
手嶌葵
風吹ジュン
田中裕子
香川照之
小林薫
夏川結衣
倍賞美津子
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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