国内外で高い人気を誇るアーティストの420日
作風は孤独な反骨からやわらかな色彩と表情へ
青春群像劇風の生き生きとしたドキュメンタリー
アーティスト奈良美智。名前でピンとこなくても、彼の描く絵を見ればわかる人も多いはず。ヨーロッパやアメリカなど海外で高く評価され、日本では自身の言葉を添えた画集や絵本、小説家よしもとばなな氏とのコラボレーション、少年ナイフのCDのジャケットなどで幅広い世代に知られているアーティストだ。本作は奈良氏の公私にわたる420日間を追った初のドキュメンタリー。監督は『情熱大陸』などで演出兼撮影を手がけ、本作が劇場公開映画の初監督作品となる若手の坂部康二、ナレーションは宮崎あおい。等身大のアーティスト奈良美智とその作品、彼とともに居る人々の姿を映す。青春群像劇のようにあたたかく、確かな芯のある作品である。
韓国での個展やファンの集いでアイドルのような人気にとまどい、アメリカやイギリス、横浜やタイの個展を経て、2006年に型破りの大規模な展覧会「A to Z」を出身地・青森県弘前市で行うまで。「孤独や疎外感が僕を制作に向かわせる」と語り、ひとりで活動し続けてきたアーティストは、大阪のクリエイティブユニットgrafの豊嶋秀樹氏との出会いにより、いつのまにか新たな方向へと進んでいた。
これまで描き続けてきた強い反骨の目に、言い知れぬ寂しさを帯びた子供たちの姿は、やわらかな光をたたえた瞳とおだやかな深みのある表情へ。彼自身と作品の生き生きとした変化の過程が、説明するともなく自然に伝わってくる。まるで自分の部屋のような“小屋”を作って展示する独自のスタイル、「初めての友だちができた感覚」と奈良氏が語る信頼に基づく共同作業と充足感。理解され、安心して自分らしさを追求していく中、作風は徐々に変わっていく。演出でも演技でもない本物の変化は、色とりどりの作品群と奈良氏の愛聴するロックミュージックと相まって鮮やかに伝わってくる。
そして青森県弘前市にて3ヶ月限定で8万人を動員した(!)大規模な展覧会「A to Z」。ここでは古いレンガ倉庫に26の小屋による架空の街が登場。すべてが奈良氏とgraf、900人に及ぶ公募ボランティアによる手作りというからスゴイ。展示後は、一部は解体して燃やしたとのこと。作って壊してまた作る。作品のみならず、展覧会の過程から締めくくりまですべてにブレがない、どこまでも徹底した純粋さは胸に響く。
作品の世界的評価はどんどん高まり、2006年のクリスティーズの競売(N.Y.)では、予想を上回る108万ドル(約1億2000万円)で作品が落札。このことに対して奈良氏は語る。「プレッシャーにはならない。自分の底力は(まだ)でていないと思う。でもそれは人に見せたいんじゃなくて、自分の中で自分をからっぽにしたいという思いがすごくある」。 作品に、生き様に、熱い純粋さを宿すアーティスト奈良美智。その旅のような日々には、私たちが忙しさに紛れて失くしがちなたくさんの大切なことが、きらきらと光っている。
公開 | 2007年2月24日公開 シネマライズ、ライズX(3月3日より)にて全国順次公開 |
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制作年/制作国 | 2007年 日本 |
上映時間 | 1:33 |
配給 | 東北新社 |
監督 | 坂部康二 |
出演 | 奈良美智 graf AtoZチーム 豊嶋秀樹 野澤裕樹 青柳亮 小西康正 高野夕輝 脇本秀史 展覧会に携わったボランティアのみなさん 旅で出会ったすべての人々 宮崎あおい(ナレーター) |
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