ツォツィ 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
ツォツィ

© Tsotsi Fillms(Pty)Ltd.2005
南アフリカに生きる人々が原作・監督・出演
スラム街に生きる怒りと絶望に満ちた少年が
希望に目を向けるまでをリアルに描く



 アフリカ映画として初めて、アカデミー賞で外国語映画賞を受賞(2006年)した作品。現地のスラングで「不良、チンピラ」を意味する「ツォツィ」と名乗る少年のドラマである。主演は無名でありながらその生々しい演技が高く評価されている期待の新人プレスリー・チュエニヤハエ、監督・脚本は本作の成功により次作でメジャーデビューが決まった南アフリカ出身のギャビヴィン・フッド。不条理な格差社会の中、貧困と危険にさらされて生きてきたストリート・キッズが、希望に目を向けてゆく様を描く。ダークでありながら力強いエネルギーを伝える感動作である。


 南アフリカ、ヨハネスブルクにある旧黒人居住区ソウェトのスラム街。仲間を率いてカージャックや窃盗を繰り返す少年ツォツィは、日増しに暴力がエスカレートしてすさんでいく。が、あるとき強奪した車の中に赤ん坊を見つけたツォツィは不思議と惹きつけられ、家に連れ帰って世話をし始める。  南アフリカの今とは? 1994年のアパルトヘイト(人種隔離政策)廃止からたったの13年。法律上で民族平等の社会づくりができるようになってはいても、財源や人材の不足から理想の実現には遠く及ばず、かえって同じアフリカンのなかでも大きな格差が生じ、低所得者層では失業と犯罪とエイズ患者が増加。社会不安によって海外からの投資や企業進出が見送られるという悪循環が続いているとのこと。手っ取り早く生き抜くために暴力と犯罪の世界に自然と引き込まれていく南アフリカの子供たちの「今」が、本作ではリアルに描かれている。
ツォツィ
 俳優は現地のスラング「ツォツィ=タール」を操る南アフリカ出身の無名の若手たちを起用。「彼(ツォツィ)みたいな人間の周りで育った」と語る主演のチュエニヤハエや、若きシングルマザーのミリアムを演じたテリー・ペートらはキャラクターをとても自然に演じ、物語の臨場感が切々と伝わってくる。


 原作は1960年代初頭に執筆されながらも1980年まで出版されなかった、劇作家フガードによる唯一の小説。戯曲を通してアパルトヘイトを批判し、1961年に戯曲『血の絆』で国際的に認められたフガードは、当時の南アフリカ政府にパスポートを4年間没収されるなど政府と激しく対立していたという。本作では「贖罪と寛容」をテーマに時代を1960年代から現代に、エンディングを悩みに悩んで原作とは異なる内容に変更。映画化の許可を得る際、自作の映画化にとても厳しいフガードに脚本を送ったところ、「これまでに映画化された私の作品の中で一番素晴らしい」という賞賛のメールが届いたそうだ。
ツォツィ
 正直、観る前は少しこわかった。日本で安穏と暮らす筆者は、こうした映画を観るたびに罪悪感に襲われるから。けれどこの映画では悲愴に過剰な哀れみを誘うのではなく、今の過酷な現状を生き延びるための「希望を捨てない強さ」がはっきりとシンプルに打ち出されている。暴力描写があるため日本でもR-15(15歳未満、中学生以下鑑賞禁止)という厳しい指定がなされているが、ティーンネイジャーをはじめ、幅広い世代に訴えかける佳作である。
『ツォツィ』 2005年 イギリス・南アフリカ映画
データ
2007年4月更新

ツォツィ
2007年4月14日公開
TOHOシネマズ六本木ヒルズほか
全国ロードショー

■2005年 イギリス・南アフリカ映画
■上映時1:35
■日活、インターフィルム配給
■監督・脚本/ギャヴィン・フッド
■プロデューサー/ピーター・フダコウスキ
■原作/アソル・フガード
■出演/プレスリー・チュエニヤハエ
テリー・ペート
ケネス・ンコースィ
モツスィ・マッハーノ
ゼンゾ・ンゴーベ
ZOLA
ジェリー・モフォケン



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。これまでに取材した人数は600人以上、2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を担当。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
あつた美希