主人公は僕だった

味気ない毎日を暮らす役人に謎の声が死を予言!?
堅物の仕事人間が人生をやり直すさまを描く
コミカルでハートフルな人間ドラマ

  • 2007/05/11
  • イベント
  • シネマ
主人公は僕だった© 2005 CRICK PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

もしも自分が悲劇の主人公だったら? 出演はコメディ作品で知られるウィル・フェレル、オスカー女優であり脚本家としても活躍するエマ・トンプソン、アカデミー賞を2回受賞した名優ダスティン・ホフマン、若手女優として活躍するジェイク・ギレンホールの姉マギー・ギレンホール。監督は『チョコレート』『ネバーランド』のマーク・フォースター。思いがけないことから堅物な仕事人間が新たな人生に踏み出してゆくさまを描く、コミカルでハートフルなドラマである。

毎朝歯ブラシで歯を76回磨き、342歩でバス停へ行き、会社で平均7.134件の書類を調べる──それが国税庁の会計検査官ハロルド・クリックの毎日。12年間そうして暮らし、これからも坦々と続いていくはずだった彼の毎日に突然、ナレーションが聞こえてくる。それは彼だけに聞こえる女性の声で、ハロルドの生活を正確かつ文学的に解説。そしてある日、「このささいな行為が死を招こうとは…」と不吉なことを語る。「死にたくない!」と必死のハロルドは、わらにもすがる思いで文学理論の大学教授に相談をもちかける。

主人公は僕だった

なぜか悲劇の主人公に仕立てられた男が、自分の人生を喜劇にしようとやっきになる。発想がおもしろいし、不可思議な現象に理論でアプローチしていく展開がユニークだ。「ハリウッドで争奪戦になった」という本作の脚本を書き上げたのは、当時26歳で無名の新人脚本家だったザック・ヘルム。今回、初の長編にしてナショナル・ボード・オブ・レビューの脚本賞を受賞するなど大きな成功をおさめた彼は、ナタリー・ポートマン主演の映画『MAGORIUM’S WONDER EMPORIUM』(07)にて、監督デビューも果たしたそうだ。「人生のマジカルな側面を理解している」とプロデューサーから指名を受けたフォースター監督もまたヘルムの脚本に魅了され、「ハートがあって、すごく笑える素晴らしい脚本」と語っている。

主人公は僕だった

不器用で面白味のない役人そのもののフェレル、挙動不審なほど創作に没頭する悲劇作家を演じたトンプソン、政治的な主張により脱税したクッキー屋の女主人をホットに演じたギレンホールらはそれぞれに好演。なかでも一番魅力的だったのは、上品さと下品さが紙一重、文学を心から愛する大学教授を演じたホフマン。独特のおかしみとぬくもりは、持ち前の演技力と今年で70歳を迎える味わい深い年輪がなせる業(わざ)に違いない。

主人公は僕だった

この物語は今夏に公開される『プロヴァンスの贈り物』とテーマが似ている。切り口はまったく異なるし、こちらは小品で『プロヴァンス〜』はとてもよくできた大作であるものの、どちらもワーカホリックのビジネスマンが人間らしさを取り戻し、自分のための愛と人生を手に入れる…という内容。同じテーマでさまざまに作品化されるということは、現代人にとって身近なテーマのひとつなのだろう。そして筆者も「ああ、またこのテーマか」と思いつつも、やはりホワッと胸が温まるのである。

作品データ

主人公は僕だった
公開 2007年5月19日公開
日比谷みゆき座ほか全国東宝洋画系にてロードショー
制作年/制作国 2006年 アメリカ
上映時間 1:52
配給 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督 マーク・フォースター
脚本 ザック・ヘルム
出演 ウィル・フェレル
エマ・トンプソン
ダスティン・ホフマン
マギー・ギレンホール
クイーン・ラティファ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。