スラムドッグ$ミリオネア

スラム育ちの青年はクイズの最高賞金獲得なるか!?
彼がそれまでに体験した過酷な過去とは――
現代インドの実情を背景に描く、愛と希望の物語

  • 2009/04/03
  • イベント
  • シネマ
スラムドッグ$ミリオネア©2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

インドを舞台にしたイギリス映画でありながら、第81回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚色賞など最多8部門を受賞した話題作。監督は’96年の映画『トレインスポッティング』のダニー・ボイル、脚本は’97年の『フル・モンティ』を手がけたサイモン・ビューフォイ、イギリスの鬼才2人が初のコラボレーション。出演は本作の出演によって数々の賞を受賞しているイギリスの新人俳優デーヴ・パテル、インドでモデルとして活躍するフリーダ・ピント、インドの若手俳優マドゥル・ミッタル、ベテランのボリウッドスター、アニル・カプール。クイズ番組に出演したスラムドッグ(スラムの負け犬)の青年は、最高額の賞金を獲得することができるのか。青年が番組に参加した真の目的とは――。極端な貧困と富が混在する、エネルギッシュで混沌としたムンバイの街を舞台に、青年の成長と純愛を描くドラマである。

インドでも人気のテレビ番組『クイズ$ミリオネア』に出演し、質問に正解し続けているスラム出身の青年ジャマール。最高賞金2000万ルピー(約4000万円)まであと1問を残して1日目の収録を終えた時、番組司会者の通報によってイカサマ疑惑で警察に連行されてしまう。警察で拷問を受けて尋問されたジャマールは「ただ答えを知っていただけ」と語り、知るともなしに問題の解答を知ることになった過酷な過去を警部に語り始める。

マドゥル・ミッタル

無名の役者たちとわずかな製作費、言語はまるでインド映画さながら1/3がヒンドゥー語で、アメリカのメジャースタジオが一度は公開を見送ったという本作。が、映画を観た批評家や観客に認められ、アカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞したというなんとも痛快な作品。現在のインドの混沌とした勢い、貧富の格差や宗教の対立、ギャングの抗争などによる過激な実情を背景に捉え、酷い環境に翻弄されてきたまっすぐな心根の青年が、人生最大の挑戦をするその時、果して何が起こるのか。青年の成長と純愛という王道のテーマを軸に、シビアな社会状況をたくましく生き抜いていく子供たちを現代インドのリアルな空気感とともに伝えている。

スラムドッグ$ミリオネア

原作は、インド外務省の外交官ヴィカス・スワラップがロンドン勤務時に執筆した処女小説『ぼくと1ルピーの神様』。’05年にイギリスで出版、37ヵ国語以上に翻訳されている小説である。インドの厳しい実情を伝えているため本国では、「外交官でありながら国を侮辱した」と批判されたそうだが、スワラップは「最底辺にいる子供たちに希望を伝える物語」とコメントしている。脚本を担当したビューフォイは、原作をよりシンプルに脚色。もともとドキュメンタリー監督として訓練を積んでいたこともあり、明確な物語とリアルな現状の双方をバランスよく構成している。ボイル監督はムンバイの街でスラムを実際に疾走し、フィルムではなく臨場感をより表現できるデジタルで撮影。作曲にはインドの映画音楽を100曲以上手がけているA・R・ラフマーンを起用し、「まさにインド!」というサウンドを効果的に使用。エンディングには主題歌『Jai Ho』にあわせてものすごい人数を従えたボリウッドスタイルのミュージカル風ダンスで楽しく魅せてくれる。アカデミー賞で主要3部門のほか、撮影賞、編集賞、録音賞、作曲賞、主題歌賞を受賞した理由は大いに納得だ。

青年のジャマールを演じたのは、イギリス出身のパテル。英国のTVドラマ『Skins』で数百人の中からオーディションで選ばれたパテルは、本作で映画デビューを果たした。ジャマールが思いを寄せる幼なじみのラティカ役はピントが好演。2人ともとても初々しく、今回の成功によって無名の新人でありながら大きな注目を集めている。監督はパテル以外の俳優はすべて、インドに住むインド人俳優をキャスティング。狙い通り、本場のローカル感が色濃く映し出されている。

スラムドッグ$ミリオネア

「ファイナルアンサー?」。その問いに応えることで、ジャマールは夢を叶えることができるのか。ボイル監督は語る。「とにかく究極のドラマを描きたかった。この作品は極端に過酷な経験と、極端にロマンチックな愛を物語っている。我々は誰もが世界にひとつだけの特別な存在で、沢山の興奮と冒険と運命が待ち受けているんだ。ジャマールの人生を通じて、そのことに気づいてほしい」。ひたむきな生命力で厳しい現実をサバイバルする、躍動感あふれる物語に、Jai Ho(万歳)!

作品データ

スラムドッグ$ミリオネア
公開 2009年4月18日公開
TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開
制作年/制作国 2008年 イギリス
上映時間 2:00
配給 ギャガ・コミュニケーションズ
監督 ダニー・ボイル
脚本 サイモン・ビューフォイ
原作 ヴィカス・スワラップ
出演 デーヴ・パテル
フリーダ・ピント
マドゥル・ミッタル
アニル・カプール
イルファーン・カーン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。