83年、N.Y.で不可解な殺人事件が発生。
その発端は第二次世界大戦下のイタリアにあった
スパイク・リー監督が新境地で描く人間ドラマ
’44年8月12日、イタリアのトスカーナ、サンタンナ・ディ・スタッツェーマ市でナチスが罪のないイタリア市民560名を殺害した“セントアンナの大虐殺”。この事件をはじめとした第二次世界大戦下の史実を背景に、ある奇跡の顛末を描いた小説を映画化。監督はアフリカ系アメリカ人を代表して差別や社会問題に向き合うスパイク・リー、脚本は原作者であるアメリカ出身の作家ジェームズ・マクブライド。出演はデレク・ルーク、マイケル・イーリー、ラズ・アロンソ、オマー・ベンソン・ミラーをはじめ、アメリカ、ドイツ、イタリアの実力派の俳優たち。衝撃的な事件に始まり、長い年月をかけてちりぢりに散ったピースの核が最後にはピタリとハマる、感動のヒューマンドラマである。
’83年のアメリカ、N.Y.。1人の男が郵便局の窓口に来た途端、その男を受付の老人局員が射殺するという不可解な殺人事件が発生。地味で真面目な老人局員には前科も病歴も借金もなく、25年仲睦まじく暮らした妻に先立たれ、定年退職となる三ヶ月前の出来事だった。老人局員の部屋を刑事が家宅捜索するとクローゼットの奥から、’44年にイタリアのフィレンツェでナチスが爆破したサンタ・トリニータ橋に刻まれていた彫像“プリマヴェーラ”の頭部を発見。闇市場で約500万ドルという骨董品をなぜ彼はもっていたのか。すべての始まりは’44年、第二次世界大戦下のイタリアにあった。
リー監督が戦場を舞台にした初めての作品。これまでの黒人社会を代表する視点だけではなく、戦争に巻き込まれる庶民の目を通じて戦争反対の立場を色濃く打ち出している。キリストに救いを求める気持ちは人種に関わらずみな同じ、という表現はクリスチャンでない者には響きにくいが、欧米では国家や人種を超えることのできる通念のひとつなのだろう。
第二次世界大戦時のエピソードに登場するのは、当時に実在した戦いの最前線に送り込まれる黒人だけの部隊“バッファロー・ソルジャー”のメンバーの4人。イタリアでドイツ軍と戦っていた彼らは山に迷い込み、心の優しい兵士トレインは戦場で迷子になったイタリア人の少年を保護。彼らは山間の村の一軒家に押し入り、潜伏することになる。黒人を知らないイタリアでは、少年はトレインを“チョコレートの巨人”と呼んでよくなつき、村の人たちに偏見はなく、極端な人種差別が横行している本国アメリカにいる時よりも兵士たちは自由を感じる。彼らが戦争中の兵士という立場に後ろめたさがありながらも密かに開放感を味わうシーンには、しみじみと感じ入るものがある。
4人の兵士はルークとイーリー、アロンソとベンソン・ミラーがそれぞれの個性で好演。5000人の中からオーディションで選ばれた少年アンジェロ役のマッテオ・シャルボルディは、ピュアな存在感で物語に温かみを添えている。またリー監督作品でおなじみのジョン・タトゥーロは刑事役で、イタリアの名優オメロ・アントヌッティは村の一軒家の主として出演し、脇も演技派が固めている。
さて、原作はジェームズ・マクブライドが’03年に発表した小説『Miracle at St. Anna』。マクブライドは、200万部を超えるベストセラーとなった’99年の著書『母の色は水の色』の作者として知られている人物。この本には黒人の父と結婚したポーランド生まれの白人の母(当時は違法)のことが綴られ、全米の学校で読まれているそうだ。またマクブライドはコロンビア大学でジャーナリズムの修士号を取得し、ミュージカル作品で作詞・作曲なども手がけているという。今回は小説に惚れ込んだリー監督が、マクブライドに映画化の申込と脚本の執筆を依頼し、数年かけて作り上げたとのこと。マクブライドは語る。「この物語はフィクションだが、真実が核となっている。戦争の物語ではなく、究極のストレスの中で、人間性を保ち続けようとする人々を描いているんだ」。40年弱の時を経て、最後の最後に明かされる謎とは? 兵士として厳しい戦場を生き抜き、戦後も心の奥底でくすぶり続けてきたある男の遺恨が、一筋の浄化の光に照らされるまで。2時間40分の熱く壮大な人間ドラマである。
公開 | 2009年7月25日公開 TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2008年 アメリカ・イタリア |
上映時間 | 2:40 |
配給 | ショウゲート映画 |
監督 | スパイク・リー |
原作・脚本 | ジェームズ・マクブライド |
出演 | デレク・ルーク マイケル・イーリー ラズ・アロンソ オマー・ベンソン・ミラー ジョン・タトゥーロ マッテオ・シャルボルディ オメロ・アントヌッティ |
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